トゥーフォとその至高の美の技術
私も今までに様々な場所で、何度も全身理美容を受けてきたが、ここには想像を超えるほどの至高の技術が揃っていた。
ここはまさに美の殿堂だった。
ドレッサールームのエントランスから奥へと案内される。そして複数あるドレスフィッティングルームのひとつで着衣を脱ぐ。
前後左右から侍女たちが集まり私の着衣を脱がしていく。両足に履いたパンプスに始まり、アウタードレス、インナードレス、ストッキング、最後の一枚のパンタレットも外していく。
生まれたままの姿になり私の体にかけられたのは、ドレッサールームの中で着るための、ごくごく薄手のロングガウン。向こう側が透けて見えるチュール素材で出来ており、鮮やかな桃色のそれは何とも艶めかしい。
しかも前身頃は紐で縛らない仕様。
姿見の鏡で自らの姿をチラ見したが事実上前が開け放たれているので肝心なところが丸見えになる。仲間のプロアあたりがこの姿を見たらなんと思うだろうか? まぁ、絶対に見せないとは思うが。
普段の自分だったら同性にすら見せることのないような姿だったが、でも、この館の中だとこうした姿も不思議と恥ずかしくならないのだった。
「さ、こちらへ」
そして、案内された先はバスルームだった。まずは入浴と体のお手入れというわけだ。
「こちらでございます」
「よろしくてよ」
こういう時はついつい実家での振る舞いが顔を覗かせる。ガウンが脱がされバスルームの中へと案内された。まずは浴槽でお湯の中で体の手入れだ。
だが、バスルームの中に見た光景に驚きの声を上げてしまう。
「これはいったい?」
私の目の前にはバスタブが3つ並んでいた。中に入っているお湯はそれぞれに異なる。
1つ目が、真っ白なお湯の〝乳液風呂〟匂いからしておそらくはヤギの乳が相当量入れられているはずだ。
2つ目が、これが驚いたのだが、バラの花びらと金の微粉末がお湯に入れられている。よく見ると真珠の微粉末も入れられているような気がする。素材だけでもどれほどの額になるだろう?
3つ目が、むせ返るようなほどの濃厚な香りの、香水湯。風呂上がりに香油を擦り込むとか、お湯に香油を入れて香り付けをするのかそういうレベルのものじゃない。希釈前の香水の原液成分をおしげもなく使っているのだ。
「嘘でしょ?」
あまりの金のかかり方にさすがの私も絶句してしまった。
そんな私の態度にトゥーフォさんが語りかけてきた。
「驚かれましたか?」
「はい、予想を遥かに超えていたので」
「ええ、ここまでするのは普段はシュウ女史くらいのものです。今宵はプリシラ様のために何をしても良いとおっしゃられましたので」
「そ、そうですか……」
私も実家でいろいろとやってもらっているが、それを遥かに超えているのだ。戸惑う私にトゥーフォさんは説明をしてくれた。
「まず乳液風呂でお肌の基本的な保湿の調整を致します。同時に美容師の手によりお湯の中でお肌を磨かせていただきます」
保湿と汚れ落としをする、まずこれが最初。
「次いで薔薇風呂で体をリラックスさせるとともにお肌を美しくさせます。金の粉末には体の再生力を行動させてくれるという言われがあります。真珠の微粉末も同様です。これでお体の地力を整えさせていただきます」
ここまで来ると美容というより医療という方が近いだろう。このトゥーフォさんと言う人はただものではないのかもしれない。
「そして最後、香水風呂はお肌の仕上げとなります。長年の経験から最高の調整度合いとしてありますので濃すぎず薄すぎず、適度な香りをお肌に与えることとなるでしょう」
そしてバスタブの奥には寝台や背もたれ付きの籐椅子もある。
「この他にも、3つの浴槽の入浴の間に髪の毛のお手入れ顔のお手入れもさせていただきます。お時間の許す限りたっぷりとお世話させていただきますので、仕上がりの時を安心してお待ちくださいませ。さあそれではこちらへどうぞ」
私はトゥーフォさんに招かれるままに最初の浴槽へと歩いて行く。そして、侍女の方が私の体からシルクのガウンを外していく。
一糸まとわぬ姿となった私は覚悟を決めてバスタブの中へと入っていったのだった。
最初の乳液風呂で体を温めつつ体の汚れを落としてもらう。とはいえ水晶宮に来る際に自分でも体のお手入れをしてきたので汚れという汚れはない。むしろ自分でつけてきた香りを落とすことの方が意味合いが強いだろう。
大きめのバスタブの中で乳白色のお湯につかりながら、左右から数人の美容師の女性たちが私の体をマッサージしてくれる。その手技は実に見事であり、あまりの心地良さに眠りに落ちてしまいそうになる。
十分に体が芯まで暖かくなり、しっとりと汗をかき始まった時に次のお手入れにうつる。大きくゆったりとした陶磁器製の寝台の上に寝かせられる。そこで施されたのは、海藻をゼリー状に加工したクリームを使った全身パックだった。
全身くまなく濃い緑色のクリームを塗られて寝台の上でゆっくりと休む。その間に髪の毛のお手入れと顔の皮膚のお手入れをおこなってもらう。まずは皮膚の下地に潤いを与えハリとつやを良くするのだ。
それが終わった後は薔薇風呂に入る。ゆっくりと体を沈めて少し長めに入って体が芯まで温まるのを待つ。頃合いを見て湯から上がると、バスルームの片隅で籐椅子に座ってそのままお湯で体を洗い流す。
そして最後に香水風呂に身を沈めながら両手の指の爪のお手入れ。あとでマニキュアを塗るための下地作りが行われていた。
それが終わると、お湯から上がり体の水滴を丁寧に拭いてもらう。そして、シルクのガウンを再び身にまとい、場所を移動して化粧台の前で籐椅子に座り、顔や頭や手足の爪を主に手入れしてもらう。
まずは、両手両足の爪にマニキュア・ペディキュアを丹念に施していく。色は光沢のある鮮やかなローズ色。見る者を惹きつける輝きのある色だ。
マニキュアが乾くのを待つ間に髪の毛を仕上げる。ふだんは長く伸ばしている髪を丹念に編み込んで結い上げる。その技、実に見事だ。
そして次は顔のお化粧。これはトゥーフォさんが自ら私の顔に施してくれた。小さな筆を自由自在に駆使して私の顔をキャンバスのように見立てて描き上げていく。夜のお店に立つことを考えて、彩りと仕上がりは少し派手目に、それでいて濃すぎないように。そのさじ加減があまりにも卓越しているのだ。さらにつけまつげでまつ毛を仕上げて出来上げて出来上がりだ。
「これで、よろしいかしら。さ、シュウ様! プリシラ様の仕上がりの方はこれでいかがでしょうか?」







