緊急招集Ⅱ ―ルストの最悪の想定と、七随臣の行動目的―
「ルストが調べていた2人の人物の具体的な名前だが、俺たち3人が関係者に食い下がった結果、なんとか判明している。
まず、制圧作戦のその後の調査で浮かび上がった謎の人物が〝ケンツ・ジムワース〟と言う大学教授だ。ルストが行なっていた調査活動というのは主にこっちだ。制圧現場に残された証拠物から名前が浮かび上がったらしい。
もう1人が、闇夜のフクロウの本当の首謀者――、つまりは実績的な支配者で名前は【古 小隆】と言う。問題はこっちの方なんだ」
カークが指摘する。
「そんなに厄介な存在というわけか?」
「厄介なんでもんじゃない。俺が裏社会や闇社会の連中にアタリを取って調べたんだが、古小隆はそもそもが、フェンデリオル国内における黒鎖の活動の〝総元締〟なんだ。今までの黒鎖の活動は古小隆の指示と承認のもとに行われていたと考えていい」
プロアが語るその事実に誰もが絶句した。
「な――」
「黒鎖の〝現地ボス〟?!」
「ルストはその事に気づいてるのか?」
「わからん。
これは最悪の想定なんだが、もし、ルストが古小隆を、闇夜のふくろうの単なるパトロンくらいに考えているとしたら、とんでもない読み違いをしていることになる。
この古小隆と言う男、恐ろしく頭の切れる人物で、現在のイベルタルの闇社会の中で急速に勢力を広げている。野心家であるだけでなく、状況を読む力が恐ろしく強い。強力な幹部を複数揃えており、実力行使部隊の戦闘力はすでに実証済み。それは皆もこれまでの戦闘経験からわかると思う。奴らはルストの行動を先読みしてすでに対策を取っていると考えていいだろう」
ドルスが畳み掛けるようにみんなに告げた。
「俺たちがお前らを集めた理由、わかるな?」
それに答えたのは最も年長のダルムだった。
「つまりだ――、
ルストのお嬢ちゃんのやっている行動と、
ルストに指示を出しているやつの認識と、
実際のイベルタルの闇社会の内情――、
三つがバラバラだってことか」
「ああ、ルストに単独任務を与えたやつの認識があまりにも甘いと言っていい。ルストがどんなに優秀だったと言っても1人で全てをやらせるのは無謀なんてもんじゃない。はっきり言って自殺行為だ」
それでそこで声を発したのが、この場で唯一の東方人であるパックだった。彼は力強く答えた。
「そもそもこの〝イベルタル〟と言う街は典型的な〝魔都〟です。様々な組織や結社が裏側で蠢き、離合集散を繰り返している。表社会の権力組織も、都市自治と言う名目の上でフェンデリオル中央政府の制御から離れていると言っていい。
ルスト隊長がどんなに優秀と言っても、それは我々がルスト隊長を支えて協力し合って初めて成果が出せます。彼女1人でこの〝魔都イベルタル〟に臨んで生きて帰れるとすれば奇跡です。おそらくすでにルスト隊長を返り討ちにするための罠が仕掛けられていると見ていいでしょう」
ダルム老がパックに問いかけた。
「なぜ、そう言い切れる?」
「それは、私が〝東方人〟だからです」
明確な答えに説明が続く。
「フェンデリオルに住む東方人であるならば、このイベルタルの街に関わらずに暮らすことはできません。なぜなら、イベルタルには国内最大の東方人居住区である〝イベルタル華人街〟があるからです。私もそこに深い関わりを持っています。イベルタルの様々な組織や結社と接触した経験があります。そこから得られた知見です」
ダルム老はその話に同意しつつ、さらに尋ねた。
「なるほどそう言う理由か。要点はよくわかった、では具体的にはどうすればいい?」
それに答えたのはドルスだ。
「俺達が独自に行うのは、ルストの〝行動監視〟だ。ルストが今現在、身を寄せている場所は分かっている。そこを拠点としてケンツ・ジムワースと言う人物に関して調査活動を進めている。今はケンツ博士に出資をしようとしている商人集団に接触しようとしているらしい。
敵がルストを罠にはめるとすれば、調査活動と称してルストが単独行動をとっている最中が最も可能性が高いだろう。
そこで俺たちは、ルストに付かず離れずの状況を作り、彼女に何があってもすぐに助けられるように待機する。非常に厄介だが、今現在で俺達が取れる手段はこれしか残されていない」
そこで、カークが苛立ちを隠さず荒々しく告げた。
「めんどくせえな、直接乗り込んでルストの行動を止めてはだめなのか?」
ある意味、もっともな意見だった。だが、プロアは言う。
「言ってることは分かる。だが、そうできない理由があるんだ。――パック!」
「はい」
それに続いて節目したのはパックだ。







