緊急招集Ⅰ ―七随臣、結集する―
酒場『ネクタール』
場所はイベルタルを横に貫く街道の東側、街道沿いから少し奥に入った裏通りに酒場はあった。
地下1階地上2階で、そこに集まっている人影があった。
地下階はカウンターバー形式だが、ボックスシートのある別室もある。そこにすでに6人の男性が集まっている。
よく見るとバロンと連れ添っていたリサと言うあの美しい女性の姿もある。彼女だけは個室の外のカウンターで1人グラスを傾けていた。
そこから察するに、個室の中にいるのはルストの仲間たちで、ルストを除く彼らだろう。そこに集まった彼らのもとに新たにもう1人たどり着いた。
ジュスルに送られてこの店にたどり着いたダルム老だ。旅行きの装備一式を携えて店に入ると入り口で店員に説明を受ける。地下階に降りてくると教えられた通りに個室へとまっすぐに向かった。
個室の扉を開けて中へと声をかける。
「よぉ、遅れてすまねえな」
ダルムの声に最初に反応したのはプロアだった。
「ダルムの親父さん!」
それにドルスも声をかけてくる。
「来たな? 爺さん」
「おう、どうやら俺が一番最後らしいな」
「その通りだ。爺さんで締めだ」
だがそこにプロアが告げる。
「悪いが時間がない、早速話を始めたい」
「わかった、始めてくれ」
「すまない、好きなとこに座ってくれ」
大きな丸いテーブルの周囲に複数の椅子が並んでいる。ダルムは、その中で開いている1つに腰を下ろすと、ちょうどその時、オーダーを確認しに来た1人の女性店員に声をかける。
「エール酒をグラスで。すまないがこれから込み入った話をする。しばらくこの部屋に誰も近づけんでくれ」
店員はその話を承知すると、エール酒の入ったロングのタンブラーグラスを持ってくる。それを受け取り店員が姿を消したところで、プロアが話し合いの口火を切った。
「よしこれで全員揃った。早速だが話をさせてもらう。今回、緊急に集まってもらったのはある大きな問題起きたからだ」
カークが疑問の声を漏らす。
「ある問題だと?」
「ああ、その辺はドルスから話してもらおう」
プロアから説明役を任されて、口にしていた紙巻きタバコを灰皿で揉み消しながら説明を始めた。
「まず現在の状況を説明する。単刀直入に言うと、俺たちの隊長であるルストは、誰にも説明せずに単独でとある調査任務を命令されている。当然ながらこれは、ルストの部下である俺たちには一切説明のない案件だ」
そこにダルム老が同意の声を上げた。
「それは俺も知っている。オルレアでルストの隠れ家に不意打ちで訪問したが、明らかに俺たちに明かせない事情を抱えているようだったな」
バロンが憮然とした声で言い、ドルスが答えた。
「だが誰が、そんな命令を?」
「フェンデリオル正規軍の防諜部――、いわゆる諜報部門だ。先だって俺たちが関わった密輸出組織の制圧作戦があっただろう? あれが一旦解決した後に、ルストは自分の勘を効かせて独自の調査を行い、当時まだ見つかっていなかった〝意外な事実〟を突き止めたらしい」
ダルム老が訝しげに問う。
「何だそれは?」
「俺たちが制圧した〝闇夜のフクロウ〟と言う組織があったな? その首領とされていたあの若い女性の事を覚えているか?」
カークが答える。
「覚えている。パリスとか言ったな。処刑が断行されたと聞いた」
「そうだ、そいつだ。だがまずいことに彼女は本命ではなく、組織の中ではまったくの傀儡だったそうだ」
「組織の首謀者が全く別にいたというわけか?」
「そうだ。組織の本当の統率者である男は全く別に居た。当然こいつはまんまと逃げおおせた。ルストはその本当の首謀者の足跡を追うと同時に、討伐作戦のその後に判明した証拠から浮かび上がった〝ある人物〟の調査を命じられ現在に至っている」
ゴアズが問う。
「調査任務ですか? それが何の問題が? 我々を集める程の問題なのですか?」
当然の疑問だった、単に調べ物をしている程度ならここまで大騒ぎする必要はないのではないかと思うだろう。ゴアズは答える。
「もっともな疑問だな。だが、今回問題視しているのは、先にあげた2つの調査対象が非常に厄介だからだ。本当の黒幕、そしてとある人物、この2つはある存在につながっている」
ダルム老が問うた。
「それは一体なんだ?」
「――〝黒鎖〟――」
その名前が出た瞬間、場の空気が一気に冷えた。恐れというよりも、緊張が走ったというのが正しいだろう。そこから先、説明をしたのはプロアだ。







