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バロンとリサ、出立する ―強かな女は歩みを止めない―

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■読者様キャラ化企画、参加キャラ■

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加純様【リサマイン・プレーツォ】


 二人が向かったベーカリー、オープンテラスが隣接されていて、そこでパンを食べながらコーヒーや茶を飲むことができる。家に持ち帰って片付けの手間をするよりはと、そこで食べることにした。 

 2人が買ったのは細長いパニーノ、真ん中に切れ目が入れられていて、間に色々なものを挟むことができる。

 ハム、チーズ、レタス、色々なものを好き好きに選び、パニーニの間に挟む。それを店の人にオーブンで焼いてもらって焼きたてを食べる。バロンはコーヒーを、リサは黒茶を買った。


 他愛のない会話をしながら食事を終えると、お昼のパンを買って店を後にする。そしてその場所から通りを1つ横切った場所にあるのが、職業傭兵ギルドの連絡仲介所だ。

 ギルドの持つ情報通信網、ギルドの支部に出向かなくてもギルドと情報のやり取りをできるようにするために設けられたものだ。

 建物の間口はそう大きく無く、奥行きが深い作りになっている。手前のカウンターで情報をやり取りし、その奥に情報のやり取りをする通信設備が設けられているのだ。

 リサを伴いながら連絡仲介所のカウンターに立てば、職員の女性が応対する。バロンは自らの認識番号が書かれたIDプレートを見せながら、バロンに向けて送られた通信文を確認してもらう。

 通信分は速やかにペンで紙にしたためられてバロンのもとに差し出された。それを受け取り眺めると、バロンの表情は急速に険しくなっていく。

 その表情の変化に気づいたリサは彼に問いかけた。


「どうしたの?」


 ほんのわずかな沈黙の後にバロンは言う。


「仕事だ」


 リサはその言葉を耳にしてほんの少し不安げに、それでいて諦めた風に小さくため息をついた。


「やっぱり、そうなっちゃうのね」

「すまない」


 バロンの口から漏れる詫びの言葉。でもリサはそれを責めなかった。


「大丈夫よ、あなたの仕事のことはよく分かってるから。それに絶対に帰って来ないと分かっている冷たい人と暮らすより、帰ってくると約束してくれるあなたといる方がより素晴らしいに決まってるわ」


 リサはバロンが仕事が終われば、また会えると分かっているからこそ不安に思わないのだ。


 バロンが渡された文面にはこう記されていた。


『プロアより、バロンへ、北部都市イベルタルの東部商業地区にある酒場〝ネクタール〟に来られたし――、』


 それは隊長であるルストの急を知らせるものだった。そして事態はイベルタルの街を巻き込む大きな戦いに発展する可能性があると記されている。

 バロンは自らの能力が必要とされていると痛切に感じていた。

 連絡仲介所から出て、二人で並んで手をつなぎながら歩く。バロンはそっと呟いた。


「行くしかあるまい」

「そうね、いつ出発するの?」

「おそらく今日中になるだろう。こういう場合急を要する」

「そう」


 思案げにそう答えながら、リサは意外な言葉を口にした。


「バロン、私もイベルタルに行くわ」

「えっ?」


 驚くような一言、だが彼女は本気だった。


「離れてじっと待つより、あなたの近くにいる方がいいわ」

「常に一緒に居れるとは限らないぞ?」

「そんなのわかってるわよ。任務のある間は連絡も取れなくなるでしょうしね。でも、すぐ近くにいるということが私には安心するのよ。迷惑はかけないから」


 それはバロンにとって、かつて彼のパートナーだった女性にはありえない態度だった。

 リサは、座して待つより自ら動く。その積極性が彼女の魅力の1つでもあった。情熱的な瞳がバロンをじっと見つめている。


「それに、滞在する場所のアテはあるのよ」


 向かった場所でどう振る舞うか? すでに決めているかのようだ。


「分かれた元夫から、慰謝料の1つに譲渡された小さいタウンハウスがあるの。面倒だから売却しようと思ってたんだけど、管理も兼ねてしばらく住んでみることにするわ」

「身の回りの事は?」

「大丈夫よ、小さい(やかた)だから1人で何とかするわ」


 リサは屈託のないしっかりした口調でそう答えた。

 いざという時は女の方が物事に対してしたたかだ。バロンはその事を強く思わずにはいられない。


「仕方ないな、それじゃあ一緒に行こうか」

「いいの?」

「ああ、構わんさ。ただし、身の安全には十分注意をはらうんだぞ」

「もちろん分かってるわ」


 そう答えるリサの顔は嬉しそうだった。

 そして、バロンはその胸の中で、


――あの人にこの心の強さがあったなら――


 と、思わずにはいられなかった。そのあの人とはバロンのかつての亡き妻の事だ。あの人は心は決して強い人ではなかった。それが生んだ悲劇が一瞬頭をかすめた。でもそれもすぐに消える。なぜなら、今バロンの目の前にはリサがいるのだから。


「一旦戻ろう、そして準備をして早めに出よう」

「ええ」


 そう答えながらリサはバロンにしっかりと寄り添った。2人連れだって歩き始める。


 出発の準備を終えて、リサは木綿地の長期遊行用のワンピースロングドレスとスペンサージャケット、ショートブーツに頭にはスカーフを巻く。かたやバロンは彼にとって定番のキャソック姿で、仕事用の装備も一式揃えていた。

 借りているアパートの鍵を閉めて、1階の奥にある管理人の部屋にそれを預ける。

 

「しばらく留守にします」


 初老の男性はバロンの言葉に、


「お気をつけて」


 とだけ答えて鍵を受け取った。

 そして二人は運河航路の発着場に向かい船に乗る。向かう先はイベルタル、二人を乗せた船は一路、北東を目指したのだった。


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