バロンともう一人のシルエット
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■読者様キャラ化企画、参加キャラ■
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加純様【リサマイン・プレーツォ】
フェンデリオルにある四つの主要都市のなかで、西にあるのがミッターホルムだ。
フェンデリオル国土の西部領域の入り口であり、西からやってくる敵対国家であるトルネデアス帝国への対抗戦略の拠点でもあった。
中央都市オルレアが政治、北部都市イベルタルが商業、南部都市モントワープが食品物流の拠点であるなら、ミッターホルムは軍事活動の最前線でもあった。
  
その中心市街区の一角に月割賃貸のアパートメントがある。石造りの建物で地上4階建て。建物の中央に螺旋階段がありその階段の両サイドに二つの部屋とキッチンを持つアパートがそれぞれ並んでいる。
その2階の片側の部屋に二人の若い男女が滞在していた。向こう半年間の家賃を先払いして二人きりで暮らし始めた。
青臭い言い方だが、そこはまさに〝愛の巣〟だった。
時刻は朝7時、外は晴れておりカーテンの隙間から光が溢れてくる。窓際に設置したダブルサイズのベッドの上で二人は寄り添いながら、清潔なフランネル毛布の下で体を休めていた。
二人とも、まだ寝息を立てて健やかな眠りの中にある。
ただ窓の外の手すり柵の上で囀る鳥の囁きが部屋の中でも聞こえていて男の方の目を覚まさせる。
男は音に敏感だった。そういう感性を必要とする仕事に就いていたからだ。
フランネルから上半身が露出している。着衣はなく引き締まった屈強な肉体が露わになっている。目を覚ますと同じベッドの上で横たわっているパートナーの気配を探した。
「リサ」
彼女の名前を呼ぶが、彼女はまだ眠りの中にある。
彼と同じフランネルの下で体を横たえている。肩から上が露出しているが日に焼けた褐色系の肌が艶やかな光をかすかに放っている。
髪は黒髪で髪の量も極めて豊富、純白のシーツの上に長い髪が広がって美しい模様を描いていた。
男はリサのその頬をそっと撫でる。
「ん――」
男に撫でられてリサはすぐに反応を示した。まぶたが動いて微かに声が漏れる。男はリサの傍らで彼女の顔をじっと見つめていた。
「んん――」
彼女も眠りから覚めたのだろう、ゆっくりとそのまぶたを開いていく。情熱的なブラウンの瞳が男を見つめ返していた。
「バロン?」
目覚めて目の前で顔を覗き込んでいるその男の名前を呼んだ。バロンと呼ばれた男は、リサの頬を撫でながら語りかける。
「よく寝ていたね」
「うん」
「大丈夫かい? 疲れが残ってない?」
「大丈夫よ、あなたと一緒なら」
「ああ」
バロンはリサに微笑みかけながらそっと顔を近づけていく。
二人はお互いの顔を重ね合う。そして再びお互いを見つめながら言葉を交わす。バロンはリサに告げた。
「今日は朝一番でギルドの連絡所に行ってくるよ。この近くだからすぐに帰ってくるけどね」
「お仕事の定期連絡?」
「ああ、仲間から何か伝言があるかもしれないからな」
そう言いながらバロンはベッドから降りる。当然ながら衣類はまとっていない。そのままシャワールームにつながっている隣室へと向かう。
「帰りに、何か朝食になるようなものを買ってこようか?」
リサはフランネルの毛布を引き寄せ、胸元まで引き上げながら答える。
「それなら私も行くわ。この近くに最近できたベーカリーがあるの」
「そうか、それなら一緒に行こう」
「うん」
「シャワーを浴びてくる」
「わかった、あなたの後で私も浴びるわ」
「ああ」
そんなやり取りをして二人の朝は始まったのだった。
そのアパートメントの建物には1つ1つの住宅に独立したボイラーが備わっている。火を起こして数分ほどで体を温めることができる。バロンが先に体を洗い、それと入れ替わりにリサが体を洗う。
男と女では女の方のシャワーの方が長い。ましてや髪型や化粧にこだわりのある女性ならなおさら時間は長い。
だが、その点はバロンは配慮が行き届いている。
リサを焦らせることなく、悠然と落ち着き払ってリサが準備を終えるのを待ってやる。
リサが、シャワーから上がり化粧を終え衣類を身につける。下着はブラレットにパンタレット、インナーシュミーズに、エンパイアスタイルのゆったりとしたつくりのシルクドレス。背中から肩にかけてロングショールを羽織り、足元にエスパドリーユを履いて出来上がりだ。
「お待たせ」
出かけると言ってもすぐ近くなので帽子はかぶらない。部屋着の延長線上のようなものだ。
「行こうか」
「ええ」
バロンが差し出した左腕にリサが抱きついて、二人はその家から外出したのだった。







