ゴアズ〝故郷〟より出立する
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■読者様キャラ化企画、参加キャラ■
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いしやんWRX様 【イシヤ・ウェリックス】
T-TIME様 【テオ・テパゥゾ】
一仕事終えてイシヤは振り向いた。視線を他の2人にむけながら問いかける。
「いかがですか?」
その言葉にゴアズが答える。
「お見事です。完全に黒狼王の顎の力を自らのものとしましたね。何より一切の〝恐れ〟がない」
二人のやり取りにテオも声をかける。
「イシヤよ。おぬしに与えたその精術武具は〝歌精系〟と呼ばれるもので極めて扱いが難しいのはよく知っていると思う。そして歌精系を扱う上で最も障害となるのが、武器そのものを〝恐れる心〟だ」
テオの言葉にゴアズも同意するかのように頷いていた。
「歌精系の精術は〝音〟を操る。波動や振動を自由自在に制御し様々な効果を生む。その威力は絶大であり1つの武器で何十人何百人という相手を一気に葬り去ることも可能だ。だがそれゆえに自らの体に跳ね返ってくる〝反動〟も極めて大きい」
テオは自らの左手を差し出し示した。
「歌精系の武器を使い続ければ様々な障害を負うことになる、わしのこの両手のようにな」
そう語る彼の音は荒れ果てていた。手のひらは自然にまっすぐに開けることができず指は中途半端に曲がっている。自らの意思で思うように開くことができない。それは、両手の神経が破壊されているということを意味していた。
「自らの体の機能を奪われていく。その恐怖は歌精系を扱う上で最大の障害となる。わしが長年にわたり後継者を得られなかった一番の理由だ」
それでも、テオの表情に後悔はなかった。晴れやかな顔でイシヤに歩み寄る。
「だが、もう何の問題もないな」
そっとイシヤの肩を叩いてその努力の成果を労った。
「ありがとうございます」
感謝の言葉を返すイシヤは満足げに頷いていた。
そこに、ゴアズも語りかける。
「歌精系を扱う上で最大の要点は〝自らの心の動き〟と〝武器の威力〟を完全に同調させることです」
ゴアズは自らの両腰に下げた一対の2刀の剣を抜いて言う。
「歌精系は、音でその真価を発揮します。荒ぶる心の時は荒ぶるが如くあらゆるものを粉砕し、穏やかな心の時は技を発動したことを誰も気がつかない程に静かに効果を表す」
そう言いながらゴアズも眼前の岩の1つを自らの剣――天使の骨で突き刺しつつ聖句を詠唱した。
「精術駆動 ―灰は灰に、塵は塵に―」
その言葉を発した瞬間、一切の真断も無く岩は粉微塵に粉砕され完全に砂に還った。その時のゴアズには余分な力は一切こもっていない。
その光景にイシヤは驚きの表情を浮かべ、テオは感心しつつもはっきりと頷いていた。
「実にお見事、わし以上に歌精系を扱い慣れているようですな」
イシヤもゴアズに告げる。
「素晴らしい技です、私もそこまで到達できるように精進して参りたいと思います」
ゴアズは天使の骨を腰に収めながら答えた。
「大丈夫、あなたならきっとやれますよ」
「はい」
お互いを認め合ったのだ。
そんな二人にテオは言う。
「二人ともそれくらいにして朝飯でもどうだ」
「いいですね」
「わかりました」
そして3人はテオの自宅へと向かう。その道すがら自宅の入り口近くに近づいたときだった。一頭の馬を走らせて何者かがやってきた。ボタンシャツに野戦用ジャケットと言う職業傭兵には定番のスタイルだ。
イシヤが言う。
「誰でしょう?」
ゴアズが答える。
「職業傭兵ギルドの方のようですね。おそらく私に用件があるのでしょう」
その言葉の通り馬上の彼が駆け寄りながら大きな声を出す。
「ガルゴアズ1級はおられますか?!」
「私です! 何用ですか?」
「速報伝文です! ギルド連絡網に登録がありました!」
彼は馬の上から一通の書面を差し出した。それを受け取りゴアズは視線を走らせる。そしてそこにはこう記されていた。
『プロアより、ゴアズへ、北部都市イベルタルの東部商業地区にある酒場〝ネクタール〟に来られたし』
それは呼び出しの伝文だった。そして書面にはこう続きがあった。
『ルスト隊長の身辺で大きな問題が生じつつある。イベルタルを巻き込む大きな戦闘になる可能性がある。その問題の解決のためにお前の力を借りたい』
その書面を読み終えてゴアズは落ち着き払ったままつぶやいた。
「隊長――」
その瞬間、彼の表情は一変していた。穏やかな普段の彼から、常に戦場にその身を置く傭兵としての顔だった。
その時の彼にイシヤが声をかけた。
「どうしました?」
「申し訳ない、緊急の招集がかかりました。大至急、イベルタルに向かわなければ」
その言葉に驚きつつもテオが言う。
「何か問題でも起きたのかね?」
「はい。私が現在、所属している戦闘部隊の隊長をしている人物の身辺に問題が生じたようです。さらにより大きな事件に発展する可能性があります。申し訳ありませんがこのまま向かわせていただきたいと思います」
「そうか、残念だが任務とあれば致し方ないな」
「ええ、そうですね」
ゴアズの言葉に、テオとイシヤは素直にゴアズを送り出した。
「事件が解決して落ち着いたら、またここに来ようと思います」
イシヤが言う。
「お待ちしてます。あなたとは剣の技についてもっと交流を深めたいので」
テオもゴアズに語る。
「いつでも来るがいい。自らの故郷と思って」
それを聞いたゴアズの顔は何よりも嬉しそうだった。
「はい、必ず」
ゴアズは戦災孤児だ。両親は既に居らず、帰るべき故郷も無い。そんな彼にとって何よりも嬉しい言葉だろう。
「それでは失礼いたします」
そう言い残してゴアズは自分の荷物を持ち出しながらその地を後にした。向かう先はイベルタルである。







