3者、情報収集に動く ―闇と東方と正規軍と―
「しかしそうなると、さすがにそうそう簡単にルストに接触するわけにはいかねえな。
ルストが自分の意思でやろうとしている事を、もしも俺たちの介入が邪魔するような事にでもなったら、イベルタルの重要人物たちとの関係性を後々までこじれさせる事にもなりかねない」
「そこまで分かっているなら話が早いぜ」
はっきりと言い切るプロアにドルスは尋ねた。
「それでどうするんだ?」
そこにパックが問いかける。
「そのために私をここに呼び寄せたのでしょう?」
「もちろんだぜ」
真剣な表情でプロアの説明が始まった。
「とりあえず今重要なのは、焦ってルスト隊長に接触することじゃない。今、ルストの周囲で何が起きているのかを正確に把握することだ。そのためには1人では無理だ。まずは俺達3人、それぞれの得意な方面で情報収集を行う」
その言葉にパックとドルスも頷いていた。
「まずパックの旦那は東方人社会の動静を調べてくれ。特にシュウ女史と接触している辺りの状況が知りたい」
「心得ました。いくつかのツテがあるので探りを入れましょう」
「頼んだぜ。そしてドルスのおっさんの方だが――」
「フェンデリオル正規軍や軍警察関係だろう?」
プロアが言う前にドルスは先回りするように答える。
「それなら任せろ。正規軍の裏側にいくつかの繋がりがあるからな」
「くれぐれも慎重にな」
「ああ、こっちの動きを〝向こう〟に悟られないようにするさ」
「それでいい。俺の方はこの街の裏社会のあたりから探りを入れてみる」
「そっちの方は任せたぜ」
3人が3人とも行動の目的が決まった。そして話題はこの場にいない残り4人の存在に移った。
ドルスが問う。
「それともう1つ、ここにいない残り4人はどうする?」
「それは私も考えておりました。彼らに連絡が取れれば良いのですが」
パックも疑問を抱いていたかのようだが、プロアはその点もぬかりはなかった。
「そっちの方はすでに手を打った。職業傭兵ギルドの連絡網を使って、特別伝文として送達するように依頼してある。まぁ、伝文の内容は少しフカしてあるがな」
つまりはまだ状況の詳細が掴みきれていないので、仲間たちを呼び寄せるのに推測を含む誇張した内容で呼び寄せると言うことなのだ。
「そうかその手があったか。ギルドの連絡網を使えば確実にメッセージを送れるからな」
「ああ、特殊部隊イリーザの隊員になってからはギルドの連絡網に定期的に接触する事が強く求められているからな。すでに返事が集まっていて時間は異なるが、明日には4人ともイベルタルに到着の予定だそうだ」
そしてそこにパックが言葉を漏らす。
「そうなると我々の横の連絡ですね」
「任せろ、その点も抜かりはない。俺が昔、この街でやんちゃしていた頃、当時の仕事仲間と連絡を取り合う際にこの店のマスターの手を借りていたんだが、久しぶりに手を貸してもらう」
プロアはそう答えながら指を鳴らした。その音を合図として店の奥から1人の人物が姿を現した。テールコート姿のバーテンダーだった。
「お呼びでしょうか?」
「呼び出してすまない〝マスター〟久しぶりに〝掲示板〟を使わせてもらう」
「承知いたしました。プロア様のお仕事仲間の集合予定の取りまとめでよろしいですね?」
掲示板とプロアは言ったが、それがこの店でのみ通じる〝情報連絡仲介〟の依頼のための隠語だと言うことは明らかだった。
「ああ、それでいい。おっさんも旦那も、明日の夕刻遅くを刻限として、俺たち〝7人〟でこの店で落ち合うことにしよう。その間に何か分かったらこの店に伝言しておいてくれ」
プロアの言葉に、ダルムもパックもはっきりと頷いていた。
「承知いたしました。それでは明日の夕刻に」とパックが答え、
「了解だ。明日、陽が沈んだらまた会おう」とドルスが告げる。
それに対してプロアは言った。
「よし、明日の夕方までが勝負だ。それまでにどれだけの情報を集められるかだな」
3人ともうなずき合う。そこにドルスが言った。
「よしこれで当面の行動が決まったな。大仕事をおっぱじめる前に腹ごしらえと行かないか?」
パックも同意する。
「そうですね、ちょうど夕食の時間ですし」
そんな二人の言葉にプロアも苦笑いしつつ同意していた。
「そうだな。だったら上に行こうぜ。この店の1階なら、酒より料理のメニューが多いからな」
「よし行こう」
「はい」
そして3人は話を終えて席から離れて上へとあがっていく。こうして彼らは勝手に動き出した。







