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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第5話:北の街イベルタルにて(中編) ―ルストとイベルタルの闇のキャビネット―
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颯蓬鬆《サー・パンソン》とその信念

「精術と精術武具にそれほど深く関わってらっしゃるあなたならば、我々のような存在に対して苛立ちを覚えられるのは当然のことといえるでしょう。ですが我々が、闇の地下オークション組織というものを始めたことには明確な理由があるのです」

「理由? それはどのような」

「はい、ですがその理由は語る前にある質問させてください」

「はい」


 私は少し疑問に思いながらも彼の言葉で付き合うことにした。


「あなたは精術武具の盗品売買における〝強盗殺人〟による商品の奪取は、取引全体の何割を占めていたと思いますか?」

「強盗殺人? ですか?」

「はい」


 意外な言葉が出てきて私は面食らってしまう。当然といえば当然なのだが商品を売買する際にどうやってそれを手に入れるかという問題はある。

 私は思案して答えを返した。


「そうですね1割というところでしょうか?」


 私の答えは耳にして彼は顔を左右に振った。


「いいえ違います。我々が地下オークション組織を立ち上げる以前は傷害致死を含む強盗殺人は、精術武具の闇取引の件数の半数以上を締めていたのです」

「えっ?」


 驚くような数字に私は思わず声を上げていた。


「そんなに?!」

「はい。この国の闇社会において精術武具は殺して奪う物、と言う考え方が長年にわたり蔓延しておりました。私はその点をどうしても変えたかったのです」

「それで?」

「当然ながら統率のとれた盗品売買ではなかったので無駄も多かった。何より万が一自らの持つ精術武具が奪われた際に、盗まれた精術武具を取り戻すのは至難の技でした。ならば誰かが先鞭となって秩序を作り出すしかないと思ったのです」

「それで地下オークション組織を作ったのですか?」 

「ええ、地下オークション組織を作り上げたのは私の父と祖父です。もうかれこれ30年以上継続しているといいます」


 彼は一呼吸おくとさらに言葉を続けた。


「私たちの組織にはある不文律があります。それが〝殺して奪ったものはオークションでは取り扱わない〟と言う物です。商品となる精術武具を手に入れたとしても、それが強盗殺人で手に入れたものであれば理由の如何を問わずこれを受け付けないものとしています」

「絶対にですか?」

「ええ、絶対です」


 毅然として語るその言葉には一切の迷いはなかった。


「色々と紆余曲折はありましたが地下オークション組織は順調に発展、そして多くの困難を孕みながらも、組織立ち上げから始まり、今日に至るまでの間に、裏社会全体の取引における〝殺して奪った商品〟の件数は大幅に下落しました。かつては半数以上を占めていたのが、今では後から発覚したものを含めても1割も満たない数字にまで下落しております」


 彼は誇らしげに語った。彼らの目的はそれだったのだ。


「盗品売買というのは非常に大きなリスクを伴います。買取手を探すという問題もある、またその買い取りが無事に済めばいいが、失敗した場合さらなる困難の原因になる場合もある。統率して管理している者がいないのだから当然といえば当然かもしれません。

 ですが、そうした行動によって、ある一定の秩序を設けることで殺人による略取を大幅に減らし、盗品売買の流れを把握しやすいようにすることが可能になりました。私は思います、闇社会、地下社会にも秩序が必要だと」

「おっしゃることよくわかりますわ」


 なるほどそういう経緯だったのか――


「オークションと言う買取と処分の場を設けることで、そこを経由しないと一切の取引ができないようにしてしまったのですね?」

「その通りです。そしてその企みはまんまと頭に上ったのです」


 だがそんな彼にも懸念はあった。


「ですが、そんな地下社会の秩序にもある存在により影響が出始めています」


 何が原因なのか私にわかるような気がした。


黒鎖(ヘイスォ)――ですね?」

「はい。あの組織のやり方はあまりにも強引すぎる。何よりオークション組織が瓦解してしまえば、闇社会の秩序はかつての悪夢の時代へと逆戻りすることになります。私としてはそれだけは何としても避けたいのです」


 なるほどものすごくよくわかる道理だ。


「おっしゃることはよくわかります。確かにいかなる場においても、一定の秩序は必要です。ならば――」


 私はある提案をすることにした。


「この後の話し合いにおいて、私はある事件について情報を提供します。おそらくその事件はあなた方にも関わりのある問題です。その問題の解決において協力し合いませんか?」


 それと彼は口元に笑みを浮かべた。


「なるほどなるほど、シュウ女史があなたの事を高く買うわけだ。実に興味深い提案ですね。いいでしょう、その後提案、乗らせていただきます」


 そこで彼は初めて自らの右手を差し出してきた。


「改めて名乗らせてください。地下オークション組織会長代行、颯 蓬鬆(サー・パンソン)と申します」


 私は彼の右手を取り握手する。


「フェンデリオル正規軍、特級職業傭兵、エルスト・ターナーです。改めてよろしくお願いいたします」


 握手を交わした後に彼は言う。


「あなたがご理解ある人で本当に良かった」


 そう語る彼の顔はとても穏やかだったのだ。



 †     †     †



 そして、時計の針は13時の5分前を示した。


「おや? そろそろですね」

「そうですね」

「では先に行かせていただきます」

「ええ、では後ほど」


 歩き始めた彼だったが、足を止めこちらを振りまくとこう述べた。


「ひとつだけ申し添えておきますが」

「はい」

「わたくし、颯蓬鬆(サー パンソン)が地下オークションの重要人物であるということは、ここのとある会議の外では部外秘の極秘情報になっておりますのでくれぐれも口外なさらないように」


 その時の彼の視線は恐ろしく冷たいものだった。その視線の一端に彼の闇社会の住人としての本性の一端が垣間見えているような気がした。


「肝に銘じておきます」


 その答えに彼ははっきりと頷いた。


「それでは――」


 そう言い残して彼は去ったのだった。


 私はシュウ女史の所に足早に戻った。


「シュウ様」

「プリシラかい? 首尾はどうだったい?」

「はい、颯さんとの話し合いは無事まとまりました」

「そうかそれは良かった。気難しいところがあるからね、変に意固地になられたら厄介だったんだが、上手く気持ちが通じたのであれば、それは何よりだ」


 おそらく、シュウさんは颯さんの正体について知っている筈だ。知っているからこそ私の来訪に合わせて彼と引き合わせたのだ。彼女の深謀遠慮を感じずにはいられなかった。


――カチッ――


 壁際の大きな柱時計が歯車の音を刻む。時刻は13時の1分前、


――ボーン――


 独特の重みのある鐘の音を一回だけ鳴り響かせた。

 それと同時にシュウさんも立ち上がった。


「それじゃ行こうかい」

「はい、シュウ様」


 私は彼女と連れ立って話し合いの場へと向かったのだった。


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逆境少女の傭兵ライフと無頼英傑たちの西方国境戦記
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▒▒▒[応援おねがいします!]▒▒▒

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