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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第5話:北の街イベルタルにて(中編) ―ルストとイベルタルの闇のキャビネット―
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颯蓬鬆《サー・パンソン》とその正体

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■読者様キャラ化企画、参加キャラ■

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もふもふ大好きさん キャラ名:颯蓬鬆サー・パンソン


 私はシュウさんの特別控え室から出ると、他の人たちの姿を探した。侍女の人に尋ねながら歩けば、個別の控え室がある所にたどり着く。

 その中の一つを私はドアをノックした。


 心地よい音が2回響いて中から声がする。


「どうぞ」


 許しの声が聞こえて私はドアを開ける。


「失礼いたします、エルスト・ターナーです」


 名乗りながら会釈して頭を下げる。


「君か」


 部屋の中にいたのは颯蓬鬆(サー・パンソン)氏だ、華人協会の幹部と言う触れ込みの人だ。若くて細身のシルエット。力強さより頭のキレを感じさせるそんな雰囲気の人物だ。

 身にまとっているのは重い印象のある深納戸色の長衣の漢服で首筋からつま先までくまなく覆っている。ソファーに腰掛け、茶の入ったカップを手にしていた。


「颯さん、少々よろしいでしょうか? お時間は取らせませんので」

「遠慮することはないよ。君なら大歓迎だ」

「ありがとうございます。それでは失礼して」


 私は礼を口にしながら控え室の中に入っていく。静かにドアを閉めると、颯さんは私に椅子をすすめてくれた。


「かけなさい」

「失礼いたします」


 丁寧な受け答えを努めて意識すると、勧められるままに席に着いた。

 

「どういう風の吹き回しかな? 君から僕のところに来るなんて」


 ソファーに腰を下ろし悠然ともたれかかりながら、彼は私の方に視線を投げてくる。


「はい、おりいって少々お話をしたいことが」

「あぁ、構わないよ」


 彼は静かに微笑んでいるがその目線は笑っていなかった。ただのフィッサール系の東方人の商人とするには不可解な点があまりに多いのだ。

 アデア大陸系の人種に多い黄色い肌、黒い髪、黒い瞳、フィッサールの人間としては申し分がない。だが、その気配からして明らかに何かが違うのだ。


 私は努めて落ち着いた声で彼に語りかけた。


「実はひとつだけあなたにお聞きしたいことがあるのです」


 彼の眉が微妙に動く。そして一言だけ。


「それで?」


 私は一呼吸おいて彼に告げた。


「あなたはいったい何者なのですか?」


 その言葉を耳にした彼は少しの間沈黙していた。


「なぜそう思う?」


 そう問われれば答えは一つだ。


「華人協会の〝表の商人〟とするには雰囲気・仕草・目線の配り方、あらゆるものが違います。特に握手や挨拶などで自らの手を相手に委ねない。拱手(ゴンシュ)や、抱拳礼(ボウチェンリィ)と言った所作もしません。あなたから感じるのは他者に対して自らを委ねないと言う強い独立心、相互扶助を旨とする東方人には珍しいことです」


 そして私は突きつけた。


「明らかに裏社会に身を置いた事のある人間ならではの振る舞いです。あなたは一体何者なのですか?」


 再度突き付ける言葉に彼は口元に微かに笑みが浮かんだ。


「さすがだな。〝旋風のルスト〟と言う二つ名を背負うだけはある」


 そして、私をじっと見つめながら彼は言った。


「ときに〝忍び笑い〟は元気かね?」


 それは衝撃的な一言だった。忍び笑いと言えば、私の仲間のプロアの二つ名であると同時に、彼の過去に絡む名前であるからだ。


「プロアが〝忍び笑い〟の二つ名を使っていたのは、今の傭兵稼業の時とその他にもう一つあります。彼は元闇社会の人間です。地下オークション組織に身をおいていたといいます」

「ほう? それで?」 


 颯さんは表情ひとつ変えずに私の言葉に耳を傾けている。私はためらうことなくある事実を突きつけた。


「颯さん、あなたは、もしかして〝地下オークション組織〟に関与する人間ですね? それもかなり上位の立場のお方のはずです」


 私の指摘する言葉に彼は少しばかり沈黙していたが、口元に深い笑みを浮かべるとゆっくりと語り始めた。


「お察しの通りです。私は裏社会の人間です。巷を騒がせている地下オークション組織の会長代行を努めております」


 そう語る彼の姿には悪びれたところは何もない。むしろ、自分が、そのような組織と構成員であることに誇りを持っているかのようなそんな印象すら思えてくる。しかし私にはどうしてもそれが傲岸不遜な態度に思えて苛立ちを覚えずにはいられなかった。なぜなら――


「颯さん、あなたの組織では精術武具を主に取り扱っていますね?」

「ええ、精術武具の地下オークションです」

「そうですか。私は、この国の最高学府で精術武具の真髄について学んできました。自分でも精術武具の取扱いについては誰にも負けないと言う自負があります」

「はい、その点については私も存じております。この国の大学、ドーンフラウにおいて歴史上始まって以来の〝精術の天才〟とあなたが呼ばれているということも」


 大きな組織の重要幹部というのは嘘ではないようだ。情報収集能力は卓越したものがあると見るべきだろう。


「そこまでご存知なら話が早いです。精術を深く学んだものとして、盗まれた精術武具のやり取りが横行しているという事実をどうしても看過できないのです!」


 苛立ちと怒りを隠さずに彼に対してはっきりと突きつけた。だが彼はひるむ様子もなく悠然と構えたままだった。


「教えてください。なぜ地下オークション組織などというものが存在しているのですか? 私にはその存在意義が到底納得できないのです」


 私の放った言葉を顔を背けることなく真っ向から受け止めてくれた。落ち着いて慎重に言葉を選びながら彼は答えた。

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旋風のルスト・外伝 ―旋風のルストに憧れる少女兵士と200発の弾丸の試練について―
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