密室会議 ―新たなる情報―
そしてその時だ、控えの間の入り口となる扉から一人の男が姿を現した。
フェンデリオル人とフィッサール東方人の混血の男のデルファイだ。大きなしくじりをしていたが、先だってのとある夜に古に特別に許しを得て居た。
とは言え本当であれば、この男はこの階層に入って来れるような立場ではない。伝令と言う特別の役目があるが故だろう。
「古大人! 正大人!」
デルファイの声に古と正は振り返り、正が声をかけた。
「何事です?」
「申し上げます。猫大姐の配下の者より密報が届きました!」
その言葉に残る4人は、伝令役のデルファイに視線を向けた。
正が言う。
「話しなさい」
「はい、旋風のルストの行動目的の一部が判明したそうです。行動目的は〝在外商人〟との接触だそうです」
「ほう? 在外商人ですか?」
「は、はい」
そこに古が告げる。
「へぇ、面白いところに繋がったな。在外商人といやぁ、最近何人かとつながりができてたな」
「はい、確実なところが幾つかあります」
「するってぇと、今現在、在外商人と絡みがある人間といえば――」
「〝ケンツ・ジムワース〟博士」
「――だな。いよいよ金銭的に追い詰められて誰でもいいから金を出してくれるのを待ってるはずだ」
「はい」
そこで正は不愉快そうに侮蔑の笑みを浮かべた。
「〝戦わぬ平和主義〟――そんな絵に描いた餅なぞ、なんの価値もない。戦って勝ち取ってこそ真の平和は守られます」
それは〝正〟と言う男の信念のようなものであった。古が珍しくも真剣な表情で正の言葉に頷いていた。
「その通りだ。戦わないやつはただの豚だ。耳障りな鳴き声を上げながら残飯を漁るただの豚だ」
「御意、〝古大人〟のそのお言葉、私も感じ入るものがあります」
「ああ、そうだろうぜ。何しろお前は〝虎の男〟だからな」
笑いながらそう答え、右手で拳を作ると正の胸板を軽く叩いた。
「さて――、状況を整理するぞ」
「御意」
正は、古の視線を受けて、周囲を見回しながら言う。その場に居合わせた
〝淵老師〟
〝猫大姐〟
〝水〟
そして、癖っ毛の小柄な少女、
さらには壁際に離れて佇むデルファイ――、
彼らは首魁である〝古大人〟へと視線を注いだ。
正が語る。
「改めて情報を共有しますが、この国の国家級の英雄である〝旋風のルスト〟が、このイベルタルの街にやって来て早速行動開始しています。とりあえずの行動先は〝北の女帝〟と呼ばれる〝シュウ・ヴェリタス〟の所です。英雄扱いの小娘と北の女帝とが繋がりがあったのは想定外でした。早急に対策を立てる必要があります」
そこに古は自らの声で語り始める。
「はっきり言えば、今までイベルタルの闇社会裏社会の連中が俺たちに敵わなかったのは、中心となり采配を振るうことのできる〝指揮官役〟がいなかったからだ」
そこで初めて今まで沈黙を守っていた癖っ毛の少女が口を開いた。
「ねぇ、古」
「なんだ? 幻?」
誰もが恐れる古と言う男に幻は臆することなく呼び捨てで問いかけた。だが、古も怒り出す様子はない。幻と言う独特の雰囲気を持つ少女の扱いには慣れているようだ。
「シュウ・ヴェリタスのおばさんじゃだめなの? 何しろあの人〝女帝〟とまで言われてるんでしょ? 表社会も裏社会も一つにまとめられそうなんだけど?」
「まぁ、もっともな疑問だな」
古の言葉に、正が補足する。
「仰ることは分かりますが、人間には適不適と言うものがあります。人にはそれぞれ見合った性分というのがある。あの女帝と呼ばれる女は、権力で何かを支配することには長けているが、最前線の戦闘集団を統率することには向いていない。ましてや実戦で利害の異なる組織を即席でまとめ切れるような指揮能力は彼女自身には無いと言っていい」
そこに淵老師も言葉を挟んだ。
「シュウ女史は、支配者としては有能だが、それぞれの現場指揮に関しては、前線指揮官として有能な人間を配下として抱え込むことで自らの軍団を維持している。そして彼女にはそれを可能とする四人の優秀な部下がいる」
さらに猫大姐も続ける。
「最側近のアシュレイ、作家にして貿易商人のガフー、商人ギルドの頭役のバナーラ、イベルタル武林の重鎮艮大門、この他にも2人ぐらいいたはずだね」
そして最後に水、男のようにガッツリと腕を組みながら鋭い視線で意見を述べる。
「シュウの取り巻きは1人1人は優秀だし、それぞれの持ち場所に関してはまかせても構わない。でも全体で統率をとるとなるとシュウの野郎が采配を振るわなければならない。そうなると時間がかかることが許される政治の駆け引きや商売に関しちゃそれで構わないが、素早い判断が必要な争い事や〝戦争〟に関しては身動きが取れないと言っていい。つまりだ」
水はみんなを見回しながらはっきりと告げた。
「戦闘の指揮采配を振るうことのできる、優秀な戦闘指揮官が居れば、連中もあたしらに対抗することが可能になるってことだ。そういう事だろう? 古 大人?」
部下たちの推測の言葉に古はニヤリと笑みを浮かべた。
「正解だお前ら。そして今ここに、シュウたちのところに誰がやってきた?」
その言葉に答えたのは癖っ毛の少女の幻だった。







