猫のような女と、女傑と、仮面の男
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■読者様キャラ化企画、参加キャラ■
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猫野たまさん キャラ名:猫麗珠
水守風火さん キャラ名:水風火
深淵の道化師さん キャラ名:淵小丑
「猫か」
そこにいたのは漆黒の髪の美しい婦人。目元のお化粧も麗しく自らの美に自信を持つかのように堂々としていた。濃紫の漢服のドレスを身にまとい、右手には漆塗りの扇子を手挟んでいた。
左手にガラス製のグラスでワインを嗜んでいたが、それをテーブルに置いて古に向けて語りだす。
「頭のいい子を年数をかけて使用人として内部に潜り込ませたのよ。長い時間をかけて信用を掴むためにね。でも、普段から連絡は一切取ってないの。少しでも怪しいところがあれば排除されてしまうからね」
「えらく慎重だな。そんなに時間を費やして意味があるのか?」
「もちろんあるわよ。信頼さえ掴んでしまえば。本当に必要な情報を厳選した1度だけ確実に掴むことができるから」
「ほう? そこでここぞという時に情報を流させるというわけか?」
「ええ、情報ってのは、正確で重要なものが一つあればいいのよ。無駄に数の多い情報なんて混乱の元よ」
古はそこで初めて口元に笑みを浮かべた。質の良い情報、それが彼の価値観の一つのようだ。
「よくやったぜ。猫後で可愛がってやる」
その一言に猫大姐の顔がパッと明るくなった。
「本当? 信じていいのね」
「俺がいつもお前に嘘ついたよ」
「つかないわよね、私には。ある一つの事だけ除いてね」
「あ?」
とぼけた風の古に猫は嫌味を言う。
「とぼけちゃって。いつになったら正妻にしてくれるの?」
「お前まだそれを覚えてんのかよ」
「当たり前じゃない。酔った席の話とはいえ、男が口にした約束よ?」
「分かったよ。今度のでかいヤマが終わったらな」
古が観念して約束をするのを猫は聞き逃さなかった。
「約束を守ってくれる男って好きよ」
熱っぽい視線で見つめてくる猫に古は苦笑まじりに歩み寄ると、その首筋をそっと触れて撫でてやる。猫は本当の飼い猫のように目を細めていかにも嬉しそうにしている。
その猫と席を並べている者は他に3人いる。
道袍姿の素っ気のない表情の、切り揃えた癖っ毛髪の小柄な少女、
年齢不明の気配を放つ長袍姿の、切り裂かれたような目と口が描かれた仮面の男、
さらに焼けた素肌の上に胸にさらしを巻いて、腰から下は男性物の褲褶のズボンを履き、その上に毛皮の上衣を羽織っている咥え煙草の長髪の女――の3人。
その3番目のいかにも女傑という言葉が似合いそうな革製の上衣姿の女が、古と猫を揶揄する。
「いいのかい? 古?」
「水? それはどういう意味だ」
女傑というに相応しい風体のその女は水と呼ばれていた。
「そんな大事なこと、こんな簡単に約束しちまってさ。後で反故にして刺されても知らないよ?」
水の言葉に古はかすかに苛立ちを浮かべながら言い返す。
「俺は仲間内の連中に対して口にした約束は、絶対に違えないぜ?」
「そうだね、そうだったね。悪かった」
「まぁ、その約束を果たすにも次のでかい山をこなしてからになるんだがな」
「するってぇと、大仕事が始まるのかい?」
その言葉にその場に居合わせた部下たちの顔を眺めながら、古ははっきりと言い放つ。
「おそらくは、この街で商売をしていくうえで、のるかそるかの大一番になるだろうぜ」
古のその言葉に仮面の男が反応した。
「ほぅ? いよいよですか。古大人」
「あぁ、このイベルタルの街の連中が本腰あげて俺たちに歯向かおうとしているらしいぜ」
「ほう? あの〝イベルタル都市自治会議〟の腰抜け連中が? 我々に全く歯が立たなく、あげくが、都市の自治権利を侵害されるのを恐れて正規軍に協力を求めることもできずにいる、どっちつかずのあの連中が?」
ある意味狂気を感じさせるまくし立てるような口調で淵は喋った。
「身の程知らずという言葉を彼らに改めて教えてやりたい」
「そこまで言ってやるな。哀れすぎるだろ」
「ハッハッハ、事実ですよ! 自由を行使することで繁栄を極めている者たちは、いざという時に自由であるがゆえのまとまりの無さ故に組織として集団としての小回りが効かない。統率力と言う点においては、この国において我々を凌駕する存在はどこを見ても見当たりません」
「えらい自信だな。淵老師」
「ええ、ワルアイユでの失態と敗北は二度と繰り返しません。私が手塩にかけた仮面の軍勢【蒙面】は更なる強化を施して万全の体制を敷いておりますので」
仮面の男は淵と呼ばれた。それが彼の名前らしい。
古は淵に告げる。
「期待してるぜ。淵、次の作戦ではお前に直々に動いてもらうからな」
「御意、古 大人」
淵は手のひらと手のひらを水平に重ね合わせる拱手で礼意を示した。







