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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第1話:特別幕:軍外郭特殊部隊イリーザ、強制制圧作戦
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制圧戦闘問題とぼやきのドルスの奇策

 カークの言葉はある意味盲点だった。

 手持ちの戦闘力で圧倒できなければ制圧作戦など不可能なのだから。

 

 幸いだったのはそれに対する答えを持っている人間が居たことだ。プロアはその経歴から闇社会勢力に詳しい。その経験から判断して彼ははっきりと顔を左右に振った。


「それはない。精術武具を取り扱う闇社会の組織というのは自分自身でも精術武具で武装している連中ばかりだ。かつては盗用した精術武具は威力を発揮できないなんて話もあったがそれは過去の話だ」


 私は不安を抑えきれずにプロアへと問いかける。


「闇社会でも精術武具の取り扱いに習熟してきているってこと?」

 

 その問いにプロアははっきりと頷いた。


「そうだ。最近ではかなり練度の高い連中も増えている。それ相応の戦力を揃えないと一点突破でぶち抜かれるぜ?」


 プロアは裏社会を相手に盗品精術武具の密売エージェントをやっていた。裏社会の事情についての精通ぶりは半端ではないのだ。その彼が私に覚悟を求めてきた。


「さぁて、どうする? ルスト隊長?」


 私は両手の指を組んで思案する。必要情報が揃いきってない現状でどう判断するか? も重要だった。


「軍警察の実力執行部隊は、無用の殺傷を防ぐために高威力の武装は認められていないわ。犯人の生け捕りが基本ですからね。私たちの加勢だけでは今回の組織を圧倒する事は難しいと考えるべきね」


 バンダナのプロアが言う。


「増援を確保すべきだな」


 散切り頭のゴアズもそれに同意する。


「確かに戦力不足です。正規軍に協力を要請しますか?」


 しかし、ガタイの良い武闘派のカークが二人をたしなめた。


「まて、軍警察の案件に正規軍を中途半端に引っ張り込むと、軍警察の上の方がへそを曲げるぞ?」

「ではどうすれば?」

「それはだな――」


 まさに異論百出。言い争いの様相まで呈してきた。私が一旦話を止めようと立ち上がったときだ。

 それまで場の片隅で沈黙していた一人の男がのっそりと面倒そうに右手をあげた。


「ちょっとまってくれや。1ついいか?」


 その声の主はドルスというやさぐれ男。無精髭が目立ち一見するとやる気のない不真面目男にしか見えない。皆の視線が集まる中で、私は彼に問いただした。


「何か腹案でもあるの? ドルス」

「ああ、とびっきり良いアイデアがあるぜ。ルスト隊長」


 やさぐれてて面倒くさがり屋。それでいてボヤキ癖が絶えないさえない男。どんな場でもいつも一歩引いて斜に構えている。

 だが、だからこそ、彼はいつでも独自の視点を持っている。そういう意味でも有益な抜け目のなさがあった。


「聞かせて、ドルス」

「おう」


 ドルスは腕を組み、背もたれによりかかりながら答えた。


「正規軍に掛け合って20名ほどの制圧部隊を臨時編成させるんだ」


 だがその意見に武闘派のカークが驚きの声をあげた。


「おい待て! 本当に軍警察の任務に正規軍を駆り出すのか?」


 カークの疑問は続く。


「さすがに無理だ。精術武具を有した犯罪組織であるなら精術武具を所有した将兵を集めなければならん! それだけの人材の派遣を正規軍の上の方が許さんぞ?」


 カークの言うことはもっともだった。私もはっきりとうなずいた。相応しい理由もあるのだ。


「カークの言うとおりね。それに精術武具はそれぞれの才覚によって発揮できる力が全く異なるわ。集団で扱う場合、その能力の均一化が問題になるのよ。1ヶ月に満たない短期間でそれだけの部隊錬成を行うとなるとものすごく手間がかかるわよ?」

 

 精術武具は私の専門の1つだ。私の説明を聞いて、ダルム老が右手で書類をひらひらさせながらため息をつく。


「精術武具のとんだ弱点ってやつだな」

「えぇ、そうね」


 だがそんな否定意見、ドルスにはすでに織り込み済みだったようだ。

 苦笑いしながら彼は言う。


「まてよ、誰が精術武具技能者を集めるって言ったよ」

「えっ?」

「隊長、俺の特技よーく考えてくれよ」


 その一言に彼の意図が分かった。彼は通常の軍人や傭兵とは一味違うのだ。

 私は彼の特技を思い出した。


「そうかあなた銃火器が得意だったわね」


 それが彼が導き出した切り札だ。誰もが納得して頷いている。

 

「あぁ、今、正規軍の兵器工廠に出入りしてるんだが、つい最近面白いおもちゃが出来上がった」

「面白いおもちゃ?」

「あぁ、今回のような、建築物内の拠点制圧案件にうってつけの代物だ。そいつを数十丁規模で調達できるんだ」


 つまりは新型銃を借り出せるコネがあるということらしい。


「それで?」


 ドルスは口元に笑みを浮かべて秘策を告げる。


「あえて〝精術武具の使えない人間を集める〟」

「なんだと?」

「どういうことですか?」


 カークもゴアズも、そしてみんながそろって驚いていた。だがドルスは意に介さず続けた。


「精術武具の適性が無く、そのことを苦に思っている奴は少なくない。そういう連中を集めて銃火器の取扱い技術を短期間で仕込むのさ」


 ドルスは精術武具が使えない。その代わりに剣技や銃火器技術が優れている。自らの経験を生かした卓越したアイディアだった。


「正規軍からすれば兵の技能を高められるし、戦闘手段が増えて困ることはねえ。兵からすれば新技術を会得するチャンスだ。やりたいやつは山ほど集まってくるだろうぜ。そういう利点があれば正規軍も軍警察に手駒を貸し出すのに素直になるだろうぜ」


 その案は、政府組織にも強いダルム老も乗り気らしい。ニヤリと笑うとドルスと話し始めた。


「装備はお前が兵器工廠に掛け合って出させるんだろう?」

「ああ、それにあてはできてる。あとは軍警察と正規軍が、それぞれ素直に首を縦に振ってくれるかどうかなんだが」

「それなら任せろ。組織との交渉は俺の仕事だ」


 元執事の本領発揮だ。俄然、声に勢いが現れている。

 二人のやり取りを見ていたが、プロアも機会をとらえて声を発した。


「これで決まったな」


 彼も自らが何をするか腹をくくったようだ。身を乗り出して自らの意見を述べる。


「俺は裏社会界隈を動いて闇夜のフクロウの内部事情を探る。こういう情報は少しでも多い方がいい」

「くれぐれも慎重にね」

「あぁ」


 それに続いてカークが行動方針を決めたようだ。


「それならば、残りの連中で制圧対象組織の活動潜伏拠点を内偵調査するのはどうだ?」


 その言葉にゴアズも同意した。彼も自らの特技の活かし方を見つけたようだ。


「いいですね。それならば私の持っている武装で人間の存在や構造物を詳しく探知できます」


 なるほど、妥当な流れだ。私は残る二人にも声をかけた。


「パックさんも、バロンさんも、カークさんたちに同行してください」


 その問いかけに残る二人は同意の意思を示した。


「承知しました」


 そう落ち着いた声で答えるのは黒髪の小柄な東方人のパックさんだ。

 異国人だがフェンデリオルに帰化して我が国の国籍を持っている。素手の格闘武術に優れた人だ。落ち着き払った表情で自らのできることを説明する。


「貿易都市のガローガの周辺でしたら土地感があります。東部山岳地帯は歩いて肉体の鍛錬をしていたことがありますのでお任せください」


 いかにも武術家の彼らしい言葉が出る。

 そして、その傍らでずっと沈黙していたバロンさんも答える。

 長髪にキャソック姿の無口な印象の大柄な男性だ。

 彼の冷静な声が聞こえてくる。

 

「了解した。何かあれば力になろう」


 バロンは弓狙撃手だ。目の良さと勘の良さは人並外れて優れたものがある。彼ならば意外な情報を掴んでくるだろう。


「よろしくお願いします。私は皆さんの情報を待ちながら、軍警察と打ち合わせを行い制圧作戦の詳細手順を固めていきます」


 これで当面の行動方針が決まった。私が徹頭徹尾に指示を出さなくとも、独自に行動方針を決められるのが私たちのチームの強みの一つと言えるだろう。

 最後にダルム老が皆を見ながら言う。


「それじゃあ、何かあったら軍警察本部に連絡を取るってことでみんな頼むぜ」

「おう」

「了解」

「了解です」

「心得ました」

「了解っと」

「了解」


 それぞれに返事が帰ってきて、それと同時に速やかに立ち上がる。

 私も遅れて立ち上がり全員に号令をかけた。


「それでは、イリーザ行動開始!」

「了解!」


 その言葉を合図に8人全員が一斉に動き出したのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字脱字があったので送っておきました。 「軍警察の実力執行部隊は、無用の殺傷を防ぐために高威力の武装は認められていないわ。犯人の生け捕りが基本ですからね。でもしかし、私たちの加勢だけで…
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