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ミンナ、ソラノシタ  作者: 早乙女なな
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第2章 フェレータ

エルは、言葉を失った。

"太陽に別れを告げた者"なんて、初めて聞いた。

「"太陽に別れを告げた者"ねぇ。そういう世界があるとは思わなかったけど。裏の社会って訳?」

「まぁ、そんなもんだな」

エイチはホッとため息をついた。

「まるで排水管だな、ここは」

「好きなんじゃないの。こういう場所」

「別に。暗い場所が好きってだけだよ」


エイチはそう言うと、またため息をついた。

すると、エルはある事を思いついた。

「ねぇ、エイチ」

「何だよ」

「太陽に別れを告げた者って、つまり、太陽に別れを告げたんだから、夜に活動するんでしょ。ってことは…ヴァンパイア?」


「んな訳ねぇだろ」

エイチが言った。

「確かに、人よりは早く走れるし、武術も出来る。ただし、それは生まれつきじゃなく、人から教えてもらって、練習しての結果だ」

「ふぅん」

エルは思った。この人、以外に面白いのかもしれない。


「じゃあエイチはさ、何歳ぐらいからそうなったの?」

「10歳だよ」

エイチは答えた。

「15の頃には、もう好きなだけ走って、遊んでた」

「そーなんだ」

エルは、軽く答えるだけにしておいた。






夜になった。外は明かりが少なくなり、トンネルの中は真っ暗だった。

すると、エイチがライターをつけてくれた。

「ありがとう」

エルは少し考えた後、こう質問した。

「煙草吸うの?エイチはさ」

「吸わない」

エイチがキッパリと言った。

「明かりの代わりだ。火だから、意外と明るい」

エイチは、エルの服にフードが付いているのを確認すると、こう言った。

「おい、エル。フード被れ」

「何で被らなきゃいけないわけ?」


エルが反抗すると、エイチはこう説明した。

「太陽に別れを告げた者は、顔を隠す。目の色を見られるとマズイ」

「じゃあ何で私とは目を合わせたの」

エルが言うと、エイチは

「何だか、お前は信用出来た」

と言った。そして、顔を赤くして下を向いてしまった。エルは気づかず、何も言わなかった。







朝、エルは目を覚ました。一瞬、昨日の事は全て夢だったのかと思ったが、トンネルの風景を見て、少し嬉しくなった。

「起きたか」

先に起きていたエイチが声をかけた。

「朝食買ってきたぜ。ほらよ」

「ありがとう」

エルはそう言うと、コンビニのパンをもらった。


「これ、コンビニで買ったの?」

「そうだ。24時間営業の所を狙った。夜の3時でも行けるような場所じゃないとな」

エイチはそう言うと、パンを頬張った。

「調子はどうだ。俺と一緒になってから2日目」

「別に。腹が減ってるだけだよ」

エルはエイチと同じように、パンを頬張った。


「お前、そんなに食べてないか?」

エイチが聞くと、エルは

「当たり前でしょ」

と答えた。

「昨日は学校から帰ってきてそのままここに来たんだから。それに、昨日はここに来てから何も食べてないし」

「そっか」


とエイチはそっけなく言った。

「じゃあ、何か買ってこようか。お前も疲れてるだろ」

「いいよ。私が買いに行くから。エイチだって、あまり外に出たくないでしょ?」

「あぁ。ありがとうな」

エルは、エイチに言われた通りにフードを被ると、近くのコンビニに向かった。





エルが太陽に顔を出すのは昨日ぶりだった。今頃誘拐事件にでもなっているのだろうか。そんな事を考えていたエルだった。

暗闇にずっといたせいで、目が慣れてしまったのだろうか、明かりが眩しかった。

エルはフードを深く被った。

自分とはバレてはいけない。バレてしまったら、最悪の生活に逆戻りだ。


なぜだかわからないが、エイチといた時はとても安心できた。エイチは、自分の気持ちに寄り添ってくれているように思えたのだ。

「ふぅ」

と、エルは一息ついてコンビニの中に入った。

今、エルは大分怪しいと思われているだろう。こんなに天気が良いのにも関わらず、フードを深く被っているのだ。

エルはとりあえず、自分とエイチ用のご飯を買い、すぐに店を出ようとした。


「っ!」


出入口のドアには、行方不明書かれた紙が貼ってあった。その紙に印刷された写真は…。

(私だ…。)

エルが笑顔で写っている写真が印刷されていた。もう、小さな家出では済まされなくなってしまっているのだ。

「心配だよね」

後ろから声がした。振り返らずに、ドアに反射した姿を見てみると、その人は至って普通の男性だった。

「その子は友達かい?」


なぜ、ここまで聞いてくるのだろう。

そうか、この人は一般人のフリをした警察官なのだ。そう思ったエルは、こう答えた。

「うん。気になる」

それだけ言うと、エルは足早に店を出た。





エイチがいる場所に戻ると、とてつもない安心感に襲われたエルは、その場に崩れ落ちた。

「はぁぁ。疲れた」

「おい、大丈夫かよ?」

エイチが笑いながらエルに近づいた。

「バレそうになったんだよ?笑い事じゃないって」

「バレそうになったって…家出をか?」

まぁそんなとこ、とエルが言った。


「もし私がここにいるってバレたら、すぐに警察官が来る。そしたら家に連れ戻されて、最悪な生活に戻っちゃう。そんなの嫌だ。だから急いで戻ってきたんだよ」

ふーん、とエイチは空を仰ぐ。といっても、トンネルの中だが。

「とりあえずメシ食え。腹減ってんだろ?」

「うん、ありがとう」


エルはエイチの言う通りに座り、今買ってきたものを袋から出した。

「おう。美味そうなの買ってくるじゃん」

「へへっ。センス良いでしょ」

2人は一斉におにぎりを頬張り始めた。

途中、エルが

「そういえば」

と口を開いた。

「エイチな今何歳なの?」

途端、エイチの顔が曇る。

「俺は…止まってるんだよ。20歳でさ」

「どうして?」

「わからない。太陽に別れを告げた者は20歳で年齢が止まるらしいんだ。俺も詳しい事はわからない」


エルは絶句した。エイチは、ずっと20歳のままなんだ、、、。

「そうか…悪い事聞いちゃったね」

「いいや、良いんだよ。話し相手がいないよりマシだからな」

ここでも、エルは何も言えなくなった。

「…エイチ、暗い話やめようよ。何か楽しい事しようよ」

エルがそう言うと、エイチは

「楽しい事って言ったってなぁ」

と言って、頭を抱えてしまった。

「何か面白い事でも起きれば良いんだけどなぁ」

エルは一瞬、エイチの瞳がキラッと光ったような気がした。






その日の夜。

「はぁ…はぁ…行くな…駄目だ…」

エイチは寝言を言っていた。悪夢にうなされている。

「お前だけ行くとか…許さねぇよ…」

そこまで言うと、エイチはまた深い眠りについてしまった。

その横で、エルはエイチの寝言を一部始終聞いていた。







朝日が、街を少し明るくし始める。

先に目を覚ましたのは、エルだった。

「うっ…眩しい…」

エルは堪らずにフードを被った。すっかり暗闇に慣れてしまっている。

「…少し覗こうっと」

エルはフード越しに、街の様子を伺っていた。


と、その時だった。

「キャッ」

誰かが、エルの腕を掴んだのだ。エルは、腕を掴まれた方を向いた。

「だ、誰?」

「ここにいるだろう。フードを被った奴がもう1人」

「誰の事…?」

エルは足がすくんでいた。どうしてもう1人ここにいる事がわかっているの?

「ったく。小娘が」

エルを掴んだ者が言った。声からすると、男らしい。


すると、男はエルを地面に押し倒した。

「ちょっ!何する…」

エルは咄嗟に叫んだ。

「エイチ!助けて!」

男は、エルの口を抑えると、ポケットからナイフを取り出した。

(まだ、死にたくない…)

エルは心の中で思った。

(こんな事なら、まだ家にいれば良かった…)


すると、なぜか男は

「うっ!」

と言って横に倒れた。後ろには、いつの間にか起きたエイチがいた。

「エイチ…!」

「おい、逃げるぞ。ここはもう危険だ」

エイチが手を差し伸べる。エルははその手を取り、立ち上がった。

「一応、この男も連れて行く」

「でも…私を殺そうとした奴なのに…」

「聞けよ、調べたい事がある。それに、こいつはもう死んでるから平気だよ」

「う、うん」


エイチは、早くしろとエルを自分の背中に乗るように促した。

「しっかり捕まってろよ。結構スピード出すからな」

「うん」

エルはエイチの背中にしがみついた。と同時に、エイチが物凄いスピードで走り始めた。エイチの片方の腕には、息をしていない男の身体があった。

「エル、飛ぶぞ!」

エイチは勢いよく飛び出した。エルは必死にエイチの背中にしがみつく。

「エイチ、速いよ!」

「これくらい速くねぇと、追いつかれるからな」

エルは振り落とされないように、腕に力を入れる。前方から冷たく、そして強い風が吹いてくる。エイチは慣れているのか、全く平気な顔をしているが、エルには目をつぶるので精一杯だった。エルにとって、こんな移動手段は初めてだった。

少し怖いという気持ちがあるのと同時に、非日常のような感じで楽しい、という気持ちもあった。


しかし、そんな気持ちも長くは持たないらしい。

「エイチ、もう限界!」

エルの腕の力が弱くなっていくのが、エイチにもわかった。

「大丈夫だ、もう少し待ってろ」

エイチは最後に、今までにないスピードで走ると、途端にゴロンと地面に転げ落ちた。

「痛っ!」

エルは突然の事に声を上げた。

「急にスピード落とさないでよ!」

「まだそこまで技術がねぇんだ。勘弁してくれよ」

エルもエイチも息が上がっている。そんな中、エルは目の前に大きな横丁のような看板があるのに気づく。

「エイチ、ここって…」

エルが全く起き上がれないのに対し、エイチは少しずつ息を整え始め、そして立ち上がった。


「ようこそ、"リンオウ"へ」


エイチが看板を指さす。

「リンオウ…?」

エルは、エイチが指さす方へと目を向けた。

そこの看板には、漢字で


" 凛 王 "


と書かれていた。


かなり長いもんで、更新はかなり遅いかと思います。

気長に待ってください。

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