第1章 "太陽に別れを告げた者"
"募金をお願いします"
と書かれた箱には、お金が全く入っていなかった。
中学1年生のエラは、学校の募金活動に参加していた。
「今日も集まらなかったわね」
募金活動担当の先生が言った。
「そりゃそうですよ、先生。こんなボロ臭い箱に、誰がお金なんか入れるんでしょうかね」
エラは、皮肉たっぷりに言ってやった。彼女は先生が好きではない。それどころか、学校に来るのも嫌なのだ。
「こんな朝っぱらから集められて、あんまりですよ。もっと寝てたーい」
「勝手に言ってなさい」
先生は冷たく言うと、学校の中に入ってしまった。
エラは、小さく舌打ちをした。
学校の帰り道。エラは心の中で呟いた。
(あんな腐った学校、すぐに辞めてやる。)
エラは、何度も学校を抜け出そうと試みた。10分休憩中、昼休み中にもだ。
しかし、抜け出そうとすると決まって先生に会い、引き止められる。
その時、先生には必ず言われるのだ。
「何度言ったらわかるんだ。お前はここから出ちゃいけないんだよ」
まるで、何かに縛り付けられているようだった。エラには、これが耐えられなかった。
家庭面でも、エラの生活は良いとは言えない。母親はエラが小学生の時に離婚。エラを置いて仕事、他の男と遊んで家を空けていてばかりだった。
エラは、母親にもうんざりしていた。
彼女は家出をしてやろうと思っていた。そしてついに、その時がやってきたのだ。
ある日、母親は仕事の関係で丸一日家を開けることになった。
エラは、この日がチャンスだと思った。
ちょうどその日は雨だった。エラは、この雨の日に外へ出ようと思った。そうすれば、雨が今までの自分の不安、不運を全て洗い流してくれるような気がしたからだ。
計画は、実行された。
エラは、雨の中1人で歩いていた。これがかれこれ約30分も続いていた。
エラはいい加減飽きてきた。何か、新しい展開はないものかと。
そんなエラの気持ちを察したかのように、1人の警察官が遠くの角から顔を出した。
「エラちゃーん、どこだーい」
「うっそでしょ?!」
"嘘だ、有り得ない"
エラは素直にそう思った。母親は今仕事で遠くに行っている。母親が自分を探しに来るなど有り得なかった。
あるはずがなかった。
パトカーのサイレンの音が聞こえて来る。もうそんなにことが大きくなっているのかと、エラは焦った。
「このままだと…捕まるかも」
そんな時、エラはあるものを発見した。暗く、人があまり通らない場所…電車が通る真下の小さなトンネルだ。
エラはこれだと思った。ここなら、誰にも見つからずに済むかもしれない。
エラはズカズカと中に入っていった。
しかし、中には先客がいた。
「誰…あいつ」
その男は、暗いトンネルの壁にもたれかかって座っていた。フードを被っていて、顔はよく見えない。
エラがゆっくりと1歩踏み出すと、足音がトンネル内に響き渡った。
男が、顔を上げた…。
見とれるほど透き通った赤い目。金髪の髪がちらっと見える。
「誰だ」
男が静かに言った。
「うっせえ」
エラはしつこく質問されると嫌なので、反抗的な態度を取った。
するとその男は、笑った。
「はは。チビにしちゃ口が悪いな。嫌いじゃないぜ」
男はエラに
「まぁ、隣座りな」
と言って、手招きをした。
エラはその人に従った。なぜかわからないが、その人には従える気がしたのだ。
「名前は?」
エラが聞いた。男はこう答えた。
「エイチだ。お前は」
「エラ」
エラが答えると、エイチは少し考えた後
「面倒臭いな。エルで良いか?」
と言ってきた。
「別に構わないけど」
エラ、改めエルはそう言って、長いため息をついた。
エイチが口を開いた。
「どうしたよ、そんな長いため息ついて。長いため息は、疲れるだけだぜ」
「知るか」
エルは、また反抗的になった。
「ほら、そういう事言うなって」
エイチは笑った。それから、急に真顔になって
「何でここへ来た」
と問うた。
「家出だよ」
エルが答えた。
「もう家に戻るつもりはないかな。母親にだってうんざりしてたし。街にも戻りたくない」
「じゃあ、お前も俺と同じだな」
エイチが突然そんな事を言ったので、エルは訳がわからなくなった。
「今、なんて言った?お前と同じにされたくない」
「いや、俺と同じだ」
エイチは譲ろうとしない。
「俺みたいに世間から隠れて暮らす奴らは
"太陽に別れを告げた者"って呼ばれてる。俺らの世界には、そんな奴らがうじゃうじゃいる。俺もその1人だ」
だから、お前も同じようなもんだよ。
またまた新しいの、始めましたよ!
これは高二の時に書いていたやつで、友人にも高評価だったやつです笑
ぜひ、評価と感想、お願い致します!