71センチ目「空の願い」
ロザリアは即座に膝をついて首を垂れた。
そこには、白いひげを生やし、木の杖を持った小柄な老人があぐらをかいた状態で宙に浮かんでいた。
「おめでとう、雨宮空くん、それとクリアくん。君たちが今回の優勝者だね」
「はい」
俺は力強く首肯する。ツクモ様は俺たちに向かって、人差し指を立てた。
「願いを叶える前に、一つ聞きたいことがある。この戦いを通して、君は何を感じた? 人と道具の関係について、君はどう考える?」
いきなりの深い質問に若干うろたえながらも、俺は思ったままの答えを言うことにした。神様相手にきれいごとを取り繕っても仕方がないと思ったからだ。
「確かに、人間は道具に頼りすぎているのかもしれない。そのせいで人間が堕落してしまったと言う人も中にはいました。だけど、俺はそうじゃないと思う」
俺はクリアの肩をそっと抱き寄せながら、さらに言葉を紡ぐ。
「人間が道具を大切にしてきたからこそ、いまのこの世界がある。人間は自分の利益のためだけじゃなく、相手に対する優しさでも動くことができる。そう感じました」
ツクモ様はその答えを聞くと、興味深そうに俺を見下ろした。
「それじゃ、君はいまあるこの世界を肯定するんだね?」
「全てを肯定するわけじゃありません。人間はときに間違ったこともしてしまう。でも、それはこれから少しずつ変えていけるはずです。俺たち自身の力で」
「なるほど、そういうことか。君のような優しい人間が優勝したこと、私は嬉しく思うよ」
ふっと笑うと、ツクモ様は満足そうにうなずいた。
「さて、それじゃ願いを聞こうか。君の願いはなんだい、雨宮空?」
「俺の、いや、俺たちの願いは――」
二人で考えてきた願いを俺たちが告げると、春菜とロザリアだけでなく、ツクモ様までもが驚いた顔をした。
「本当にそれでいいのかい?」
「はい。それが一番いいと俺は思います」
「そうか、分かった。ならば叶えてしんぜよう」
ツクモ様は杖を振りかざした。部屋の天井が開き、杖から放たれるキラキラとした輝きが飛散していく。
それを見ていると、段々と眠くなってきた。無事に勝ち抜いてほっとしたせいで、連戦の疲れがどっと出てきたのだろうか。
クリアと春菜もどうやら同じらしく、途端にふらふらとし始める。
「次に目覚めたとき、君の願いは叶っているだろう。それまでゆっくりと休んじゃってね~」
どこからか駆け寄ってきたナターシャが、俺の体を抱える。
覗き込んで何やら話しかけられているが、意識が遠くて何を言っているのかよく聞こえない。
ああ、とても眠い。
そこで俺の意識はぷつりと途切れた。




