36センチ目「新たな仲間たち」
俺たちは豪さんに連れられて、彼らが根城にしているというバー『エウレカ』に来ていた。
地下一階にひっそりと開いているこのバーは、隠れ家にするにはうってつけの場所だろう。
中に入ると、部屋の中央でダーツに興じているホスト風の男性がこちらを振り向いた。
「豪さん、おかえり。その人は?」
「新しく我々の仲間に加わってくれることになった、雨宮空くんとクリアさんだ。色々と手ほどきしてやってくれ」
「オッケー」
男性はそう言うと、ダーツを壁際のダーツボードに向かってひょいと投げた。放たれたダーツは放物線を描き、中央のブルズアイに見事突き刺さった。
「よっしゃ!命中!」
ガッツポーズでダーツを終えた男性は、茶髪をかき上げながらこちらに歩み寄ってきた。近くで見ると、なかなかの美丈夫だ。
「俺は鹿野翔太だ。この『エウレカ』の店長をやってる。二人ともよろしく」
「よろしく」
「よろしく!」
俺たちはそれぞれ翔太さんと握手を交わした。
それから翔太さんは、バーカウンターの奥の方へ振り向いた。
「おい美咲、何やってんだよ。新入りが来てんだぞ。挨拶くらいしたらどうなんだ」
翔太さんに呼びかけられたのは、端の方の席に座っているセーラー服の女学生だった。
彼女はいじっているスマホから目を離すことなく、声だけで返答した。
「うるさいなぁ。よろしく。これでいいでしょ」
「ったく……この無愛想なのは、江ノ島美咲。態度は悪いけど、実力はあるんだよな」
「一言多いっつーの」
美咲は吐き捨てるように言うと、再びスマホいじりに没頭し始めた。最近の女子高生はみんなこういう感じなのだろうか。
「それで豪さん、どこまで話したの」
「神器のことだけだ。敵の詳細まではまだ話していない」
「了解。じゃあ、そっから先の具体的な話をすればいいんだな。よし、座ってくれ」
俺とクリアは、近くのカウンター席に隣り合って座った。普段はバーなど来ないので、慣れない空気に少し緊張する。
「酒は飲めるか?」
「いえ、まだ成人してないです」
「それじゃ、ソフドリだな。仲間になってくれた記念に、俺から一杯ずつサービスするよ」
「ありがとうございます」
翔太さんはグラスに手際よくオレンジジュースを注ぐと、俺たちに差し出してきた。ほどよく冷えたジュースが、夏の暑さで火照った体に染みわたる。
翔太さんはカウンターに肘を乗せ、こちらに身を乗り出してきた。
「俺たちは、神器をツクモ化しようとしている集団を阻止するために動いてる。ここまではいいよな?」
「はい」
「その集団は自分たちのことを『蔵人』って名乗ってる。神器の守り手だとかほざいてるが、実際は全然違う」
翔太さんはいったん深呼吸すると、神妙な面持ちで口を開いた。
「やつらの目的は『戦い』に勝ち残り、『願い』を使って人類を滅ぼすことだ」
「人類を、滅ぼす……!」
本来ならば、それは荒唐無稽な絵空事に過ぎない。しかし『願い』ならば、それを実現することができてしまうのだろう。
そんな恐ろしい計画は絶対に止めなければいけない、と俺は思った。
「ちなみに、その『蔵人』ってどれくらいいるんですか?」
「俺たちが調べた限りでは、持ち主だけでざっと十人はいるみたいなんだ」
「そんなに!?」
「ああ。だから、やつらに対抗するには一人でも多く頭数が要るんだ。来てくれて、本当にありがとう」
翔太さんは俺を見て、心底嬉しそうに笑った。
「連中の本拠地は、おそらく九州のどこかにある。俺たちはそれを探し出し、直接叩く計画を立てているところだ」
「作戦や準備がまとまり次第、連絡するよ。それまでは、待っていてほしい」
「分かりました」
いますぐなにか活動するわけではないようで、俺はホッとした。そんな大集団と一戦交える心構えがまだ出来ていないからだ。
俺に要点を話し終えると、翔太さんはふぅとため息をついた。
「今日のところはこんなところかな。暇ならここでゆっくりしていってもいいし、帰ってもらっても大丈夫だ」
俺はクリアと顔を見合わせると、互いにうなずきあった。
「せっかく来たばかりなので、もう少しここで休憩していきます」
「そうか。家だと思って、遠慮なくくつろいでくれよ」
翔太さんは両腕を広げて微笑んだ。
「遠慮しなくていいよ。ガチで」
「お前はくつろぎすぎ!」
相変わらずスマホを凝視する美咲に、チョップでツッコミを入れる翔太さん。この二人の相性は案外良いようだった。
「そういえば、美咲ちゃんはなんで制服なんですか? もう夏休みですよね」
「着るものを毎日選ぶのがだるいかららしい」
「ああ、そういうこと……」
めんどうくさがりな彼女からすれば、何らおかしくはないのだろう。本当にそんな人がいるんだと思い、俺は驚きを隠せなかった。




