34センチ目「一撃の重み」
改めてにらみあう両陣営。
この隙に使っておくべきスキルを、俺は忘れずに唱えた。
「クリア! 解析!」
「種族:竹刀、スキル:変身、武装、湾曲、必殺。討伐数は……6!」
つまり、俺たちよりも実戦経験が上ということだ。相手にとって不足はない。
「敵の能力が分かるのか。便利なスキルだな」
「ああ。これで初見殺しは通用しないぜ。解析終了」
俺と豪は不敵に笑いあった。
そして、再び場の均衡が破れる。
今度攻撃を仕掛けたのはクリアの方だった。
クリアは迎撃のジャブを平手で捌きながら踏み込むと、ツクモの急所である腹部目掛けて、中段突きを放った。
するとケンはクリアの拳を逆手で掴み取り、腕をひねって半回転させた。クリアは全身ひっくり返り、背中から地面に叩きつけられる。
「がはっ……!」
クリアは唾を吐き、悶絶する。それでもなんとか、踏み下ろされるケンの震脚を横に転がって避けた。
全身のバネを使って跳ね起きるクリアに、ケンは追撃のジャブを放つ。
すかさずガードしたものの、そのうち何発かが顔面にクリーンヒットし、クリアは鼻血を垂らしながら後退した。
やり取りを見た限り、クリアは若干押され気味だ。出し惜しみをしている余裕はなさそうだった。
〈クリア! スキル行くぞ!〉
〈うん!〉
「刀化!」
クリアが右腕を斜め下に振ると、手首から先が半透明の刃に変化した。
それを見た豪も、対抗してスキルを唱える。
「武装!」
すると、ケンの両手に剣道用の籠手が装着された。右手には竹刀が握られている。
ケンはその竹刀を正中線上に構え、クリアに相対した。
「やああああっ!!」
ケンは剣道家特有の大きな掛け声を発しながら、クリアに突進する。上段から放たれた鋭い打撃をクリアは剣で受け止めた。
「ぐっ……」
うめき声を上げながら、クリアは数歩後ずさる。ケンは立て続けに左右の横薙ぎを放った。クリアはそれを辛うじて受け止める。
クリアはケンの連打の勢いに段々と押し込まれていった。やがて、ジャングルジムを背に、クリアは防戦一方となった。
〈クリア、大丈夫か!?〉
〈このツクモ、一発一発がおもい!〉
〈重い……?〉
剣の切れ味では確実にクリアの方が上だし、体格はさほど変わらない。太刀筋だって、ケンに比べてクリアが明白に劣っているとは思わない。
それなのに、形勢ではなぜかクリアが押されている。俺はそのことが解せなかった。
「分からない、という顔だな」
豪にふと声をかけられ、俺は怪訝にそちらを振り向いた。
「お前たちと俺たちには、決定的な違いが一つだけある。なんだか分かるか?」
沈黙したままの俺を一瞥すると、豪は残念だと言いたげに嘆息した。
「それは、背負っている重みだ」
「背負っている重み……?」
「勝者だけが叶えられるという願いに懸ける想い。散っていった者たちから託された想い。俺とケンはそれらを全て背負って戦っている。絶対に負けられない、負けてはいけないという覚悟がある」
「ふざけるなよ。それなら、俺たちだって背負ってる……!」
それを聞いた豪は鼻で笑った。
「そうか。だが全く伝わって来ない。適当に戦って勝てばいい、そう思っているんじゃないのか? お前たちのようなペアに負けた相手が不憫でならないな」
俺たちを見下したようなその物言いに、俺ははらわたが煮えくり返った。
俺やクリアが馬鹿にされるだけならいい。しかし、いままでに戦ってきた者たちのことまで侮辱されるのは、決して許せなかった。
〈このオヤジ、トンカチのことまで馬鹿にしやがった……!〉
〈トンカチのことを……?〉
それを聞いたクリアは、顔色を大きく変えた。劣勢の苦しそうな表情が消え、両の瞳に闘志の炎が燃え上がる。
クリアは鍔迫り合いをしていたケンを全身を使って押し返すと、前蹴りでさらに遠くへ押しやった。
そうして距離が開いた隙に、クリアはジャングルジムのそばから離脱した。
「ほう……?」
感心した様子の豪を見た後、俺はクリアに向かって叫ぶ。
「クリア! ぶつけるぞ、俺たちの全力!」
「うん!」
その瞬間、神スマホが眩く光り輝いた。俺はとっさに画面の通知を見た。
〈スキル『必殺』が解放されました〉
字面からして、これを打つしかない。
俺は全身全霊を込めて叫んだ。
「必殺!」