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32センチ目「防御は最大の攻撃」

 ゴンタは自分の半身を覆い尽くすほどの大きさのその盾を構え、収蔵に向かって前進していく。


「そんなもの、溶かしてしまえばいい! 消化(アシッド)!」


 収蔵の口から唾液の塊が飛び、盾に付着する。


「これならいけるかも……!」


 春菜は驚きに目を見張った。いくつもの固い物質を溶かしてきた収蔵の消化液を受けても、盾が全く溶けていないのだ。


「そ、そんなことあるわけない! 悪食(イート)! そして、消化(アシッド)!」


 近くにあるテーブルを食い散らかした収蔵は、唾液をまとったプラスチック片の(つぶて)をゴンタの盾に向かって浴びせる。しかし、それでも盾が溶けることはなかった。


「そんな馬鹿な!?」


「さあ、反撃開始といこうか!」


 頑強な盾を構えたまま、ゴンタは収蔵目掛けて勢いよくタックルした。盾と壁の間に体を強く挟まれた収蔵は、たまらずのけぞった。


 続けてゴンタは盾を引くと、がら空きになった収蔵の顎に強烈なアッパーを食らわせた。収蔵はその衝撃に耐えきれず、口から血を吐きながらその場に膝をつく。


「収蔵!」


「ママ、来ちゃダメだ……!」


 収蔵はよろりと立ち上がると、辛うじてファイティングポーズを取った。

 ゴンタは三日月模様の盾を構えながら、再びじりじりと距離を縮めていく。


「うおおおおおおおおお!!」


 収蔵は苦し紛れに突撃した。しかし盾によるバッシュを顔面にもろに食らい、後ろ向きに倒れ込む。


 完全にノックダウンした収蔵の下に、女性は慌てて駆け寄った。 


「私の息子をこれ以上奪わないで!」


「はぁ? どういう意味だ?」


「私、事故で息子を亡くしてるのよ! 収蔵は大切な二人目の息子なの!」


「いや、そう言われてもな……」


 涙をこらえながら叫ぶ女性を見て、ゴンタは困惑した様子で頬をかいた。どう対応したらいいか、考えあぐねているらしい。


 一方、その言い分を聞いた春菜は、怒りに満ちた顔でゴンタの隣に並び立った。


「それなら、なぜ収蔵くんに盗みを手伝わせたんですか? そんなことをして、彼が悲しむとは思わなかったんですか?」


「それは……」


 春菜はもう一歩、ずいと踏み出す。


「あなたはただ、自分の欲望を満たすための道具として収蔵くんを利用しているだけです! そんな人に、親を名乗る資格はない!」


「ううっ……!」


 女性は涙をボロボロとこぼしながら収蔵にすがりつく。


「どきな。オレが引導を渡してやる」


 ゴンタは女性を無理やり収蔵から引き剥がした。


「やめて! お願い!」


「覚悟は出来てるよ。一思いにやって」


 泣き叫ぶ女性に比べて、収蔵は非常に落ち着いていた。自らの命運を悟った穏やかな顔で両腕を広げ、腹部の留魂石をゴンタに晒す。


「分かった。じゃあ行くぞ」


「ありがとう」


 ゴンタは腰を落として腕を大きく引くと、思い切り拳を打ち抜いた。留魂石がひび割れ、収蔵の姿が透け始める。


「収蔵!」


「ママは最後まで僕のママだったよ。でも、もう盗みはやめてほしいな」


「収蔵……分かったわ、もうしないわ……だから、行かないで……」


「ありがとう、ママ。元気でね」


 その一言を残して、収蔵は完全に消滅した。

 女性は残された革製のバッグにすがりついて泣き出した。春菜は優しく声をかける。


「収蔵くんのためにも、それから亡くなった息子さんのためにも、ちゃんと罪を償いましょうよ」


「はい……ごめんなさい……」


 その憔悴しきった姿には、先ほどまでの威勢は微塵も残っていなかった。


◆◆◆


 春菜に連れられて、女性は近くの警察署に出頭した。彼女の話を聞いた限りでは、まだまだ余罪がありそうだ。


 女性を送り届けた春菜は、街を歩きながら、どこか悲しい気持ちを感じていた。


「どうして犯罪を犯そうとするんだろう。ツクモの能力に惹かれて、悪いことをしたくなっちゃうのかな」


「いや、オレは違うと思う。だってハルナやクウみたいに、正しい扱い方をしてる持ち主だっているじゃねぇか。その人間の本性が露わになっただけだと思うぜ」


「そっか……」


 道具の機能がもたらす結果は、使い手によって大きく変わりうる。


 良いことのために使えば、良い結果が生じる。逆に悪いことのために利用すれば、悪い結果が生じる。


 きっと、道具そのものに罪はないのだ。原因はいつだって、持ち主の側にある。


「私も気をつけなくちゃ」


「ハルナはそういうタマじゃないだろ。今まで通りでいいんだよ」


「そ、そうかな? ていうか、それって褒めてるの?」


「さあ、どうだろうな?」


「ちょっと、ゴンタ! それどういう意味!?」


 春菜は逃げるゴンタを追いかけて走っていく。少しだけたくましくなったその足取りは、しっかりと地面を踏みしめていた。

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