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22センチ目「おとり捜査」

 俺たちは早速、犯人を(おび)き出すための作戦を立てることにした。

 話し合いの結果、俺たちは一つの帰結を導いた。


「それじゃ、おとりを立てるってことでいいな?」


「うん、それが一番だと思う」


 新たな被害者が出るのを待っていては、対応が後手後手になるし、犯人に接触できる可能性も低い。

 それならこちらから積極的にアプローチする方が確実だということで、そういう結論に至ったのだった。


「雄治は夜遅くに襲われたと言ってた。闇討ちという手口を考えると、再び人気(ひとけ)のない夜道を狙ってくるのは間違いない。俺たちはそこを叩く」


 そこで春菜は、悩ましげな顔つきをしながら顎に手をやった。


「でも、犯人はなぜ避人円を使わなかったんだろう? あれを使えば、人目につかずに奇襲できるのに」


「避人円を展開してしまうと、持ち主に警戒される恐れがある。それよりも、持ち主っぽいと思った人物を()めあげた方が手っ取り早いっていうことなんだろう」


「なるほど……犯人はそこまで考えてるわけね」


「そいつ、マジで下衆(げす)いな」


 ゴンタは吐き捨てるように言った。俺もその意見には同感だった。


「じゃあ次に、誰がおとりをやるかだな。これは極めて危険な役になる。ここは俺が――」


「ううん、私がやる」


 春菜は俺の言葉を食い気味に遮り、手を挙げた。ゴンタは目を丸くしながら春菜につかみかかる。


「大丈夫なのかよ、ハルナ!? 無理しなくてもいいんだぞ!」


「無理はしてないよ、ゴンタ。いまの私たちの戦力を考えたら、武装(アムド)が使える私たちが前衛に立って、解析(スキャン)が使える空くんとクリアちゃんのペアが自由に動けた方がいいって思っただけ」


 春菜はゴンタの手をつかみ、静かに下ろさせた。ゴンタは不安そうな顔で春菜を見つめる。


「でもさぁ……オレ、ハルナが心配だよ」


「そのときは、ビシッと守ってくれるんでしょ?」


「そのセリフをここで出すのはずりぃよ……」


 春菜が笑いかけると、ゴンタは困り顔で頬をかき、それからうなずいた。


「分かった。ハルナがどうしてもって言うならオレも協力する。ただし、ハルナの身にもし何かあったら――」


 ゴンタは振り向くと、俺を真っ直ぐに指差しながらガンをつけてきた。


「オレはお前を全力でぶっ殺すかんな」


「ああ、肝に銘じておくよ」


 自分の持ち主が危険に晒されるのだから、ツクモとしては当然の反応だろう。こうして作戦に協力してくれるだけでもありがたいことだと俺は思った。


「作戦はさっそく今夜から開始しようと思う。質問は?」


 傍観者たるイリスを除いて、その場にいる全員が首を横に振った。


「それじゃ、夜九時になったらそれぞれの指定地点からスタートだ。作戦会議は以上!」


 俺がそう締めくくると、春菜とゴンタはそそくさと立ち上がった。


「この後、友達との約束があるから早めに移動するね」


「そういや、そう言ってたな。行ってらっしゃい」


「またな、お二人さん」


 俺は春菜たちを見送ると、大きなため息をついた。

 一人で出来ることには限界があるが、仲間を頼るというのもそれはそれで大変なことだ。


「人間というのは実にか弱い生き物ですね。他人の力を頼らなければ生きていけないのですから」


 背もたれに寄りかかってリラックスしながら、イリスはつぶやいた。俺たちの作戦会議の様子を見ての感想だろう。


「いや、俺は逆だと思うぞ」


「逆?」


「人間はお互い助け合って生きているから強いんだ。自分一人の力なんてたかが知れてると理解しているからな」


 そこでイリスは首を横に振った。


「天使は人間と違って、単独で完成している生物です。神によって生み出され、生殖機能は存在しません。そして、全てを自力で成し遂げることができる。そういう存在なのです」


 その話は初耳だった。だから自分たちは完璧な存在だと言いたいのだろう。

 だが、俺はその意見に対する唯一無二の反証を持っている。


「その完璧な天使様が、どこの誰に負けたんだっけ?」


「それは、その……確率の気まぐれです」


 苦し紛れの言い訳をするイリスに、俺はさらに語りかける。


「いいか、イリス。この世に完璧な存在なんていない。それに、なんでも完璧にこなせるなんてつまらないだろ?」


「つまらないとか、そういう問題ではないと思いますが」


「そういう問題なんだよ。イリスの場合、もう少し感情的になってもいいと思うぞ」


「感情……」


「ま、人間と接してればそのうち分かってくるさ。よし、クリア。オカ研行くか?」


「行く!」


 クリアは嬉しそうに立ち上がると、俺の手をつかんだ。


「またな、天使様」


 俺は席を立つと、クリアを連れて食堂を去っていった。

 出口のところで少しだけ振り返ると、イリスはなにやら真剣に考え込んでいる様子だった。



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