18センチ目「新スキル検証」
俺たちは家の近くの河川敷にやってきた。ここは土地が結構広く、川に沿って見渡す限りの草原が続いている。ここなら多少暴れても問題なさそうだ。
「よし、それじゃ打つぞ、クリア」
「うん」
「解析!」
俺がそう叫ぶと、クリアの両目に青白い光が瞬いた。
しばしの沈黙の後、クリアは訝しげに首をかしげた。
「なにも起こらないみたいですね」
「うーん、何か条件があるのか?」
「あっ!」
振り向いたクリアは、こちらを指差した。
「どうした!?」
「頭の上になんか文字が見える! 面白い!」
「よし、それじゃあその文字を全部読み上げてくれ」
「アマミヤクウ、持ち主:定規、討伐数1。ナターシャ、管理天使」
「おい、まさかそれって……!」
「相手のステータスが見えているということですか!? これは戦うときに相当有利ですよ!」
攻撃するための武器としては使えないが、相手の情報を収集する際に色々と活用できそうだ。
これはもう少し検証してみる必要がありそうだ。
「そのまま、周りを見渡してみてくれ。どうだ?」
「人間がみんな浮かび上がって見える。あと、変な目盛りみたいなのもついてるよ。距離20メートル」
「いまどこを見てる?」
「あそこの木を見てるよ」
クリアが指差した先には、小さな木が生えていた。
「じゃあ、その奥にある自動販売機を見てみてくれ。どうだ?」
「あっ、距離30メートルに変わった」
「距離まで測れるのか……!」
相手のステータス把握と、位置の正確な把握。遠距離・近距離に関係なく、視界が届く範囲ならば発動する。
控えめに言ってもかなり有力なスキルだと俺は思った。
「ねえクウ、これどうやって切るの?」
「ああ、そうだな……なんか説明書とかないのか?」
「そういうときは、ステータスアプリのスキル欄にあるスキル名をポチっと押してみてください」
俺は言われた通りに神スマホのアプリを開き、解析の文字の部分をタッチした。すると、小さなポップアップが表示された。
種別:特殊
説明:様々な情報を解析できるスキル。
解析を終了する際には「解析終了」と発声する。
「なるほど。解析終了」
「あっ、元に戻った。へんなの」
クリアは目をしばしばと瞬いている。スキルを使ったから、目に負担がかかったのだろう。なにかデメリットがあるかもしれないし、乱用は避けた方が良さそうだ。
「ねえねえ、そういえばさっき、クウの他にもう一人持ち主がいたよ」
「なんだって? どこにいた?」
「あそこでボールを投げてる人」
そこには、壁に向かって野球ボールを投げている青年がいた。
壁際にはキャッチャーミットを持ったもう一人の青年が座っており、飛んできたボールを受け止めては、ピッチャーに投げ返している。
「残り十回!」
「押忍!」
ピッチャーは声を発すると、再びボールを投げ込んでいく。
そのとき、近づいていく俺たちに気づいたキャッチャーが、振りかぶったピッチャーを制止して立ち上がった。
ピッチャーもそれを見て、こちらを振り向く。
「ミッくん、もしかしてこの人たち……」
ミッくんと呼ばれたキャッチャーは、俺たちの前に立ちはだかると、野球帽を取りながら頭を下げた。
「お願いします! 見逃してください!」
「えっ、いや、俺たち別に戦いに来たわけじゃないんだ。同類がいるなって思って、様子を見にきただけだよ」
「そうだったんですか」
ピッチャーの青年はほっとした様子で嘆息した。見境なく奇襲をかけるほど、俺たちは野暮ではない。
「初めて会った持ち主が、あなたなんです。だから俺たち、どんな風に応対したらいいか分からなくって」
「雄治が襲われるかもって思ったら、つい焦ってしまって……勘違いしてすいませんでした」
「いや、別に気にしてないからいいって」
彼らは丁寧に頭を下げた。そこまでされると、なんだかこちらが悪いような気がしてくる。
「せっかく出会ったことだし、君たちの練習が終わったら食事にでも行かないか? 奢るよ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「ゴチになります!」
青年たちは大声で謝辞を述べると、再び深々と頭を下げた。スポーツマンらしい、清々しい礼儀正しさだと俺は思った。
「それじゃ、それまで練習の様子を見ててもいいかな?」
「はい、ぜひどうぞ。少し恥ずかしいですけど……」
青年は照れながらそう言うと、ピッチングフォームへと戻った。
キャッチャーの青年も定位置に戻り、投球練習が再開される。
「残り十球! 気合い入れて!」
「押忍!」
ボールがキャッチャーミットの中に吸い込まれる度、パァンという小気味良い衝突音が響き渡る。
俺たちは芝生に腰を下ろしながら、ボールが左右に行き交う様子をしばらく眺めていた。