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12センチ目「天使をぶっ飛ばせ!」

 俺はクリアに耳打ちすると、とある作戦を伝授した。クリアは驚いた顔をしつつも、こくりとうなずいた。


「どのような作戦を立てても無駄です」


「それはどうかな!」


 俺たちは二手に分かれて駆け出した。

 クリアは真っ先に天使へと殴りかかっていく。一方、俺は砂場の方へ走っていった。


 俺は屈み込んで作業をしながら、クリアの戦いを横目に眺めた。


 拳を振り回すクリアだったが、天使はそれを全てすんでのところでかわしていく。完全に動きを見切られている。そう感じさせるほど流麗で無駄のない身のこなしだった。


 クリアにばかり任せてはいられない。俺は砂がたっぷり入ったバケツを持って、天使の下に駆け寄った。


「クリア、下がれ!」


 クリアはバックステップをして天使から距離を取る。それを見計らって、俺はバケツの中身をぶちまけた。天使の周りに、一瞬だけ砂の膜ができた。


 続いて、隙を見せた天使に殴りかかろうとした俺だったが、その計画は失敗した。

 天使が翼を一振りすると、彼女を中心として猛烈な突風が発生したのだ。巻き上げた砂だけでなく、自分の体まで吹き飛ばされそうになり、俺は慌てて腰を屈めた。


小癪(こしゃく)な……」


 服についた砂を手で払うと、天使は澄まし顔で俺を見下ろした。


「はああああっ!」


 そのとき、天使の背後からゴンタが殴りかかった。天使はとっさに振り向くと、人差し指一本でゴンタの拳を受け止めた。


「オレにも戦わせてくれ!」


「ゴンタ!?」


「オレの力も貸してやる! だから勝てよ、クウ!」


「この戦い、絶対勝つぞ!」


「うん!」


 ゴンタの勇姿を見たクリアは奮い立ったようで、すぐさま駆け寄って加勢に入った。

 

 しかし驚くべきことに、天使は両手の人差し指だけを使って、二人の猛攻を凌いでいく。


「一人増えたところで、同じこと」


 天使はまずゴンタの拳を掴み取ると、掌底をその胸元にぶつけた。ゴンタは苦しそうに口を開きながら、その場にくずおれる。


 さらに天使はクリアのハイキックを掴むと、空中に軽々と持ち上げ、反対側の地面にその体を叩きつけた。クリアは息を吐き出しながら悶絶した。


「さて、遊びは終わりです」


 俺の下に悠々と向かってくる天使に、なおもクリアは立ちはだかる。

 懸命に殴りかかっていくクリアだったが、受けたダメージのせいか、その動きは鈍い。すれ違い様、腹部に強烈な掌底を食らい、即座に変身が解けた。


 地面に転がったクリア定規を、俺は必死に拾い上げた。その様子を天使は呆れたように眺める。


「くっ、来るな! 来ないでくれ!」


 天使に向かって定規を投げつけた俺だったが、その狙いは大きく外れた。定規は放物線を描きながら、天使のわずか後方の地面に落ちた。


大言壮語(たいげんそうご)の果てに、頼りにしていた道具さえも放り捨てる。人間とはなんと愚かな生き物なのでしょう」


 天使は腰に下げている銀色のレイピアを抜くと、俺に向けて突きつけた。


「殺すのか……?」


「これは戦いの最中に起こった『不幸な事故』だった。そう報告すればいいだけのことです」


「そうか……俺、死ぬのか……」


 わなわなと震えながら、俺は天使に懇願する。


「最後に、懺悔(ざんげ)の言葉を聞いてくれないか? 天使なんだろ?」


「よろしい。聞き届けましょう」


 やがて俺は不敵な笑みを浮かべながら、親指を立てて地面に向けた。


「チェックメイトだ」


「……?」


 意味が分からずに首をかしげる天使の背中に、クリアの飛び蹴りが直撃した。


「これで決まりっ!」


 宙返りしてから見事に着地したクリアは、苦しそうながらも笑顔でVサインを作った。

 ぐらりと揺らいだ体を抱きながら、天使は驚愕した。


「なぜまだ動けるのですか!? 変身は解けたはず!」


「解けたんじゃない。()()()()()()んだよ」


「クウがね、『痛い攻撃を食らったら変身を解け』って言ったんだよ。そしたら必ず油断して、隙ができるからって」


「私の余裕までも計算に入れていたというのですか……!」


「虚を突くとしたら、そこしかないと思ったからな。それと、ゴンタの攻撃で分かったんだ。いくらお前でも、視界の外からの攻撃には対応がワンテンポ遅れるってな」


「オレ……役に立てたんだな……!」


「ああ。お前が俺たちを助けたんだよ。サンキューな、ゴンタ」


 俺がサムズアップを向けると、ゴンタはうつ伏せのままサムズアップを返してきた。


 天使は苦虫を噛み潰したような顔で俺をにらんだ。しかしどんな勝ち方であれ、勝ちは勝ちだ。


「人間と道具の可能性、舐めんなよ!」


 俺がそう言い放つと、天使は悔しそうに笑った。


「確かに、少々見くびっていたかもしれません。あなたの名前は?」


雨宮空(あまみやくう)


「クウ、あなたの言い分を認めましょう。ハルナとそのツクモの処遇については、しばし保留することとします」


 天使はレイピアを鞘に収めると、翼をばさりと広げ、夜空へと飛び立つ。


「あなたたちの戦い方は非常に興味深い。これからも期待していますよ、クウ」


 去っていく天使の背中を見送ると、俺とクリアは安堵のあまり、地面にへたり込んだ。

 満身創痍でもぎ取った、とても大きな一勝だった。

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