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ホットドッグ

作者: あけよん

廃れた商店街の、とある喫茶店へ入った。


店内はあからさまに何十年と何も変えずに経営しているであろう雰囲気だった。大分昔のポスターも貼ってある。壁や天井はヤニの色が満遍なく染み付いている。

レトロという表現とは少し違う、古びた食事処だった。



「いらっしゃい」



奥から店主らしい老父が出てきた。

他に客はいない。老父と私の二人だけで静まり返っている。

メニュー表は無い。壁に料理名の書いた紙が貼り付けられていた。


ホットドッグ...


一番端っこに一番安いメニュー、ホットドッグが書いてあった。



「すみません。ホットドッグとコーヒー」


「少々お待ちを」



マイセンに火を着け、最初の一口を深く吸い込み、そして少し呼吸を止め、吐き出した。すかさずおとずれるくらつき。この時は、時間が停止したと言うより、ものすごくゆっくりと流れている感覚か。


ホットドッグ...


喫茶店のホットドックはやはりスーパーやコンビニとは違う特別なものだ。

パンは表面は焦げ茶色で固くパリっとしているが、中は白くふわりとしている。そしてそこからゆらっと湯気が立つのだ。


昔、都会に出て苦しい日々を送っていたが、そんな中、たまに喫茶店へ行き、マイセンを吸いコーヒーを飲み、ホットドッグを食べるのが一番の至福の時だった。

あの頃を想い出させる雰囲気はこの店にはあった。


ホットドッグは、ケチャップやマスタードを使わずに食べる。最初からかけられている場合もあるが、その時はそれとして食べる。

ただ、パンの味をしっかりと感じたい気もあるので極力使わない。ホットドッグは味付けが無くとも十分に美味しいのだ。一見、安いし大した物ではないと思う人も少なくはないだろうが、立派なシンプルグルメだ。



二本目のマイセンを吸い終わる頃、老父がキッチンからお盆を持って出てきた。

懐かしい想い出に浸れるのに満足感を覚える。そんな自分を大人になったと感じた。


古びたこの喫茶店には、哀愁がよく似合う。


あの頃に帰って十分にホットドッグを堪能しよう。

だが、その一人で盛り上がっていた感情も一瞬にして終わりを告げた。


この店でのホットドッグとは、アメリカンドッグの事だった。




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