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第9話

 奏は人生で今が一番幸せだと感じていた。走ることもできるし、二十四歳にもなって、思わずやってしまったスキップすら楽々こなしてしまい、有頂天であった。


 気が付けば廊下を走り、時にはスキップを織り交ぜながら全力疾走。障害物などなく、走ってくれとばかりに続く長い廊下を全身全霊で攻略する。

 もはやゼクスから逃げるために部屋を出たことなど、すっかり忘れていた。


 早朝ということもあって人影もない。奏を止めるものは誰もいなかった。

 だから全く注意などしていなかった。目の前にあるものが邪魔とさえ感じていた。

 大きく踏み出した足は高く舞い上がり、そして──、


「ひゃ、あ、ああああああああー!!!」


 空が近いと感じた時には、奏は勢いよく外へ飛び出し、落下していた。


ドスーン!


「……っい、痛たたた!」


 落下した時はかなり焦ったが、無事に着地することができた。足が少し痛いくらいで、特に問題ないようだ。


「え! こんな高いところから落ちたの? え?」


 自分の身体を確認して安堵した奏は、落下したであろう場所を仰ぎ見て、口をあんぐりと開ける。

 信じられないことに三階はあろうかという高さのバルコニーから落下したのだった。


「骨折していてもおかしくないのに、な、なんで?」


 いくら環境が身体によかろうが、死にかけて間もない身体がこんな丈夫になるわけがない。

 有頂天で走り回っていた時のおかしなテンションから素に戻り、今は混乱するばかりだ。

 もう一度、バルコニーを見て顔を引き攣らせていた奏だったが、そのバルコニーからゼクスとリゼットが顔をのぞかせると、彼らから逃げていたことも忘れて安堵の表情を浮かべる。


「カナデ! 問題ないようだな!」

「カナデ様! お怪我はございませんか!」


 二人に心配をさせてしまったことを激しく後悔しつつ、奏は「大丈夫だ」とアピールするように笑顔で手を振ったが、


(あれ?)


 ゼクスの断言したような言葉に首を捻る。


「王様! この世界の人はこんな高さを平気で飛べるの?」

「は? 飛べるわけはないだろう。……いや、飛べないこともないか?」


 奏の言葉に反論しかけたゼクスだったが、やや自信なさげに答えを濁す。


「じゃあ、王様! 飛んでみて!」

「……ああ」


 奏の勢いに押されるようにゼクスは返事をしたが、騒ぎを聞きつけてやってきた騎士達にやんわりと制止される。


「ゼクス王。そのようなことは我々が……」

「そうか? 飛べそうか?」

「問題ないでしょう」


 ゼクスを制止した騎士の一人が、一緒にやってきた騎士に目配せする。どうやら彼が飛んでみせてくれるようだ。


「鎧は脱げ」

「了解……」


 騎士達は軽く声を掛け合うと準備を始めた。

 奏のいる場所からその様子はうかがえなかったが、固唾をのんでその時を待つ。


トーン!


「わ! すごい!」


 あり得ない高さから飛んだというのに、軽い音をさせて奏の前に着地した騎士。足が痛くて泣きそうになった奏とは大違いだ。


「ゼクス王!?」


 奏が騎士の凄さに感動していると、バルコニーにいるもう一人の騎士の慌てたような叫び声が聞こえた。


トン!


 軽やかに王様が着地をしていた。


「騎士ならばこのくらいは問題ないということだな」


 どこか自慢げにゼクスが言う。


「王様まで……」


 騎士の制止を振り切って飛んでみせたゼクスに奏は唖然とする。この世界の人はどんな身体能力をしているのだろうか。


「じゃあ、騎士ってみんな強いの?」


 実は騎士がいると知った時から奏はドキドキしていた。

 身体が弱いせいで自室に閉じこもりきりだったため、奏は沢山の物語を読みふけってきた。そして、物語にでてくるいろんな登場人物の中でも特に騎士が大好きだった。本物を目の前にして興奮しないはずがない。

 

「強いな。ああ、そこに称号持ちがいたな」

「称号! どんな!?」

「********だったか?」


(肝心なときに翻訳されないって……)


 奏は心の中で涙を流す。期待していただけに残念すぎる。


(あそこにいる人だよね)


 奏は気持ちを切り替えてゼクスが示した騎士に視線を向ける。バルコニーから顔を覘かせている騎士は、先程から険しい顔をしてこちらの様子を注視している。

 距離があるためはっきりと見えないが、称号がつくほど強そうな雰囲気はない。

 明るめの茶色の髪とそれより少し濃い茶色の瞳で、顔立ちも厳ついというほどでもなく、どちらかと言えばさわやかな騎士だ。

 隣にいるゼクスの派手な外見と比べるとかなり印象が薄い。

 その騎士は鋭い視線でゼクスの周囲を警戒している。その落ち着いた態度に奏はとても好感が持てた。


「私は奏っていいます! 私の師匠になってください!」


 奏は全開の笑顔で、その騎士に向かって叫んだ。

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