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第86話


 リゼットは意見を通せて満足したのか、おとぎ話の続きを話す気になったようだ。


「さて、続きですね」



──そこで目にしたのは、見たこともないような巨大な生物でした。全体に黒い皮膚はごつごつとしていて、四肢は信じられないほど太く、その足には鋭い爪が生えていました。背中には大きな翼があります。


 ルカはその生物が何なのかわかりませんでした。ただ、言えることは恐ろしい存在であるということだけでした。近くにいるだけでルカの身体は震えました。ランランと光る赤い瞳が今にもルカに向けられそうです。

 ルカは襲い掛かられる前に、急いでそこから逃げ出そうとしましたが、その巨大な生物の影に小さな女性を見つけて驚きました。そこには妹のセラがいたのです。ルカは妹をようやく見つけることが出来たのでした。


 しかし、セラはルカに気づいていません。巨大な生物はセラを見つめています。ルカはハッとしました。もしやこの巨大な生物が妹を攫ったのではないかと……。

 そして、それは確信に変わりました。ルカがいることに気づいたセラが逃げようと身体を動かしたその時です。巨大な生物がセラを逃がさないとばかりに咆哮したのでした。セラはその咆哮に身体を硬直させ、倒れてしまいました。その顔は恐怖をにじませています。瞳はルカを捉え、助けを求めていました。

 ルカは妹をすぐにでも助け出したいと思いましたが、一人でこの巨大な生物から妹を助けるのは無謀だと思いました。それはセラにもわかっているようでした。ルカは必ず助けに戻ることを伝えるようにセラを見つめました。セラには言葉がなくても伝わったようでした。力強く頷きました。


 それからルカは迅速に行動しました。証拠にと巨大な生物の爪痕がついた岩を背中に背負い、王城を目指しました。大きな岩を運ぶのはルカとっては困難でしたが、気持ちを奮い立たせ、どうにか王城へたどり着くことができました。

 ところが王城の門番に不審者として捕らえられてしまいます。ルカは話さえ聞いてもらえないことに絶望しました。このままでは妹を助けることはできない。ルカはどうにかして牢から逃げ出そうとしました。

 そこへ、岩を背に王への謁見を望んだ奇妙な女性に興味を持った、その国の王子がやってきたのでした。ルカは王子にこれまでの顛末を話ました。王子はルカの話を聞いて驚いたようでした。

 最近では城下でも失踪する女性がいて、その調査を王子はしていたのです。ルカの話は信憑性が高く、王子は王に軍を派遣することを要請しましたが、王は難色を示します。王子は王を説得するとルカに誓いました。


 しかし、ルカがいくら待っても王子が王を説得できたという知らせは届きません。

 しびれを切らしたルカは王城を後にします。王子が王を説得できることを祈りながらセラの元へと急ぎました。


 それを聞いた王子は王の説得を諦め、私兵を募ってルカの後を追いました。王子はルカの行動力と聡明さ、なにより妹を想う優しさに心を打たれて、いつしかルカを愛するようになっていたのでした。その想いは王子に力を与え、ルカより先に東の森へとたどり着いていました。

 ルカの話では半信半疑だった王子でしたが、実際に巨大な生物を目の前にして、これがドラゴンであると確信しました。


 王子は見識を広げるために色々な国を訪れたことがあります。その時にドラゴンという生物が遠くの国にはいるらしいという話を商人から聞いたことがあったのでした。

 目の前の生き物はそのドラゴンと特徴が一致します。

 商人からはドラゴンに出会ったら逃げるように言われていましたが、王子はルカとその妹を助けるまで逃げるつもりはありませんでした。


 王子とドラゴンの戦いが始まりました。ドラゴンの力は凄まじく、一方的に蹂躙されるだけでした。王子はそれでも粘り強く戦い続けました。

 ルカがようやく辿りついた頃、王子はボロボロになっていました。今にも倒れそうです。

 ルカは王子の勇ましさに胸がいっぱいになりました。ただ成り行きを見守るしかなく、王子の勝利を祈り続けます。

 しかし、王子の粘りもそれまででした。ドラゴンは王子に尾の一撃を与えました。王子は血を吐き、倒れてしまいました。

 ルカは王子に駆け寄りました。王子は息をしていましたが、その命が尽きるのも時間の問題でした。

 ドラゴンは王子にトドメを刺そうと迫ります。ルカは王子を殺させまいと身を挺して庇いました。ルカは死を覚悟しました。


 その時です。轟音と共に別のドラゴンが現れました。ドラゴンが増えてしまい、今度こそ終わりだ、とルカは思いましたが、そのドラゴンはルカを一瞥すると、王子にトドメを刺そうとしていたドラゴンに襲い掛かりました。

 ルカは唖然としてその光景を見ているほかありません。


 ドラゴンの死闘がはじまりました。


 ルカはその隙に妹を助け、瀕死の王子を手当しました。

 理由はわかりませんが、後からやってきたドラゴンはルカ達を助けてくれたようです。


 ドラゴンの戦いは続いています。決着はなかなかつきません。待つわけにもいかず、ルカは王子と共に東の森を後にしました。


 数日して王子の意識が戻った頃、王城に一人の青年が姿を現しました。その青年は王子の傷を癒すというのです。なかなか傷が癒えずに苦しんでいた王子が、その青年から与えられた薬を飲み干すと王子の傷は簡単に直ってしまいました。感謝した王子に青年は言いました。

「ルカを花嫁に欲しい」と。


 それを聞いた王子は、ルカは自分の花嫁であると青年の要求を退けました。ルカは驚きましたが、王子を憎からず思っていたので嬉しくなりました。

 ところが、青年は命を救ったのだから、ルカは自分の花嫁であると主張します。ルカは青年とは初対面です。命を救ったとは、どういうことかと問うと、青年は自分がドラゴンであると告げました。

 ルカも王子も信じられません。そこで青年は二人に東の森へ来るように言うと王城から去りました。


 ルカは王子と共に東の森へ行きました。するとどこからともなく青年が現れました。青年はルカを見つめると一瞬のうちにドラゴンへと姿を変えました。ルカと王子は青年がドラゴンであると信じました。

 しかし、王子はルカをドラゴンの花嫁にすることには納得できませんでした。例え自分たちの命の恩人だとしてもそれだけは聞き入れることはできません。


 ドラゴンはそれでは困るといいます。話を聞くと、年頃の娘を攫っていたドラゴンは弟で、伴侶が見つからず狂ってしまったというのです。

 狂ってしまった弟を兄であるドラゴンは殺したのでした。狂ってしまえばもう殺すしかありませんでしたが、ドラゴンの悲しみは癒えません。

 そして最悪なことに、兄であるドラゴンも伴侶が見つからずに狂ってしまう可能性があるということでした。ルカが花嫁になれば狂わずに済むというのです。


 ルカは悩みました。ドラゴンが狂ってしまえばどうなるかは火を見るよりも明らかです。

 ドラゴンは無理強いするつもりはないようでしたが、その瞳は悲しそうでした。ルカを花嫁にすることを諦めているようにも感じました。

 その瞳を見て、ルカはドラゴンの花嫁になることを決意しました。


 しかし、それは妹のセラによって阻まれます。ルカがドラゴンの花嫁になることを迫られていると知ったセラは、二人に気づかれないように東の森まで来たのでした。

 セラはドラゴンに言いました。姉の変わりにはなれないかと。


 ドラゴンはセラを見つめて言いました。セラは弟の伴侶だった可能性がある。いくら死んだとはいえ、弟の伴侶を横取りするような真似はできないと。

 セラはそれを聞いて悲しくなりました。セラは自分を救ってくれたドラゴンの花嫁になら喜んでなりたいと思っていたからでした。

 セラは涙をこぼしました。それを見たドラゴンは慌てました。

 ルカを花嫁にと考えてはいましたが、どちらかと言えば、セラに心を惹かれていたからです。


 明らかにセラに心を移しているドラゴンに王子は言いました。実は王がセラを花嫁にしようと考えていると。

 ドラゴンは驚きました。弟には申し訳ないとは思いましたが、ドラゴンはセラを花嫁にすることにしました。

 ルカはドラゴンに嫁ぐことを決めたセラに不安を感じましたが、セラの嬉しそうな表情を見て安堵しました。


 それから間もなくして、国では大々的に王子とルカの結婚式が行われました。セラは青年姿のドラゴンと共に姉の門出を祝いました。

 姉妹はそれぞれに伴侶を得ることができ、それはそれは幸せに暮らしました。


めでたし、めでたし。

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