第8話
「くそ! 見つからない! どこ行った!」
「ゼクス様が無理に迫るからですよ」
焦るゼクスとは裏腹にリゼットは冷静に苦言を呈した。
「迫って悪いか!」
「か弱い女子に乱暴はいけません」
にべもなく言われるがゼクスは反論する。
「弱いわけがないだろう!」
「そんなバカなことがありますか!?」
リゼットがくわっと目を剥く。ゼクスはそれに答えることなく無言で走り続ける。
奏に撒かれたゼクスとリゼットは怒鳴りながら、それでも神経を尖らせて城内を疾走しているところだ。
城の構造はいたって単純で迷うような作りにはなっていない。それにもかかわらず、奏を見つけることがなかなかできず、二人は徐々に焦りの色を見せはじめる。
今のところ奏の召喚については、それほど多くの人間が知っているわけではない。
しかし、黒髪黒眼という珍しい容姿はどこにいても目立ってしまうだろう。問題が起こってしまう前に見つけなければならない。
「ところでゼクス様はカナデ様が好きなのですか?」
「何故だ?」
ゼクスは訝しんでリゼットを見る。奏を追いかけている最中にいったい何を言い出すのか。
「その返事次第でどちらに味方するか決めようと思いまして」
「どちらかといえば好きだが……」
出会ったばかりだが好感は持てた。ゼクスが戸惑いながら答えると、リゼットがいい笑顔を見せる。
「解りました。カナデ様の味方をします!」
「は? もうやられたのか?」
リゼットの宣言にゼクスは驚く。リゼットが一日足らずで奏を気にいってしまった。非常に稀なことである。
「メロメロですよ!」
「リゼットをすでに味方につけるとは……」
「ゼクス様が残念な答えを返すからですよ」
「それはどういう意味だ」
二人の会話は続く。ただし、いまだに全力疾走中である。
ゼクスは自分の痛恨の失態に歯噛みする。早朝からこんな事態を引き起こすとは……。
リゼットと軽口を叩いていないとやっていられない心境だ。
「つきあわせて悪いな」
「私は一人でも追いかけましたが。ゼクス様は取り敢えず、朝食を食べに行ったらいかがですか?」
「王が自ら追いかけるまでもない」とリゼットは遠回しに言っているようだ。
普通にしているようで、実はかなり怒っていることにゼクスは遅ればせながら気づく。
「謝罪ぐらいさせろ」
「カナデ様は優しいですから! 許しを得ても無理強いはダメですからね!」
「肝に銘じる」
強引に奏を抱き込もうとしたことは認めざるを得ない。切羽詰まった状態で、成功などないと高をくくっていた召喚に成功してしまったことで、どこか勘違いをしてしまったのだ。
奏がすべてをどうにかしてくれると──。
「それにしてもこれほどまで見つからないとは……」
「そうですよね。隠れるところは多くないはずですが……」
二人は途方に暮れたように顔を見合わせる。城の外に出たとは考えにくいが、もしそうだとすると厄介だ、とゼクスが考えはじめたとき、
「ひゃ、あ、ああああああああー!!!」
どこからともなく悲鳴が聞こえてきた。
「!!!!」
「どこだ!?」
リゼットが耳をそばだてて、悲鳴が聞えてきた場所を特定する。
「カナデ様の部屋から聞えたようですね」
「戻ったのか!」
「見つからないはずですね」
「急ぐぞ!」
二人は急いで方向転換すると奏の部屋へと戻りはじめた。