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第77話

 シェリルを待つ間、スリーは奏への過保護ぶりについてリゼットに追及されていた。


「それでスリー様はカナデ様が心配になったのですね?」

「俺は現場にいたわけじゃないけど、聞いた話によれば、ご令嬢の錯乱ぶりはすごかったみたいだよ。護衛も取り押さえるのに苦労したようだからね。カナデがご令嬢に襲われる心配はないと思うけど、昨日の今日だから少し心配になって」


 奏が神の守護によって守られていることは重々承知ではあったが、それでも久しぶりに姿を見れば、少しの変化でも気になって仕方なかった。

 そわそわと落ち着きなくしている奏に何かあったのではないか、と居ても立っても居られない気持ちになって、焦って行動したせいで逆に不審に思われてしまった。

 スリーは自分の行動が信じられなかった。仕事中は常に冷静でどんなことでも対処してきたはずだ。

 護衛対象が恋人になったとはいえ、少々過剰に反応してしまった気がする。


「贈り物も突然仕事に呼ばれて、直接手渡せなかったし、何日も会えなかったから……」


 本当ならその場で喜ぶ顔を見てから、仕事へ行きたかった。

 しかし、緊急に呼び出されて、終わりの見えない仕事中に持ち歩くわけにもいかず、リゼットに頼むことになってしまった。

 その後、仕事に忙殺される羽目になったことを思えば、結果的に良かったのかも知れないが、気持ちの上で納得できるかといえばそうではなく、不満は募っていた。

 そんな精神状態でいつもしないことをしたせいで、カナデに過保護と勘違いされてしまったのだ。


「スリーさん。贈り物ありがとう。すごく嬉しい」

「すごく似合っているね。リゼットに確認とって良かった。赤色ならカナデによく合う」

「スリー様は自分の色に無頓着でしたからね」


 スリーはこれまで自分の瞳の色の変化を気にせずにいた。奏へ贈り物をしようと決めた時に、ようやくリゼットに確認してもらったぐらいだ。

 今まで誰かに贈り物をしようと考えたことはなかった。こうして恋人に贈り物をすることは初めてなのだ。


「じゃあ、スリーさんは髪の色が変化することも知らなかったりする?」

「いや、それは知っているけど……」

「リゼットは知らなかったよね?」

「そうですね。髪の色が変化するという珍しい現象については知っていましたが」


 リゼットの眼が好奇心で輝いている。どうして気づかなかったのか、その理由を知りたいと目が語っている。

 スリーはそこで目を反らすという愚行を犯した。リゼットがすかさず食いついてくる。


「今まで気づきませんでした。おかしいですね? 髪の色の変化なら誰でも気づきそうなものですが……」

「特定の条件でもあるとか?」


 奏が微妙なところをついてくる。実際にその通りでスリーはひやひやした。リゼットの追及をかわさないとまずい。


「ありそうですね。スリー様はご自分の瞳の色は知らないというのに、何故髪の色の変化は知っているのでしょうね?」


 リゼットは理由を知るまでスリーを逃がす気はないようだ。

 だが、スリーは絶対に理由を話したくはなかった。リゼット相手に分が悪いが応戦する。


「条件があるかどうかよくわからないよ。俺も同僚に言われるまで髪の色が変化するなんて知らなかったからね」

「その同僚の名前を教えてもらいましょうか?」

「え、どうして?」

「スリー様から聞くより早そうです」


 リゼットの本気を悟った。同僚の名前を明かしたら最後だ。同僚は望まれるままにリゼットに話してしまうだろう。それも嬉々として語るだろう。

 それなら自ら理由を話したほうが被害は最小限で済むかもしれない。言い方さえ間違えなければ……。

 スリーは覚悟を決める。


「はっきりしたことはわからない。けれど、体温上昇が関係していると言われているね。訓練の最中なんかは、髪の色も変化しやすいようだよ」

「だから同僚の方が知っていたと?」

「そうだね」

「でも、騎士を相手に模擬戦していたときは変わっていなかったと思うけど」

「……あの時は、本気を出してなかったからね」


 スリーは奏の指摘にギクリとしたが平静を装う。ここは誤魔化さなければ……。


「カナデ様の前で体温上昇? お二人で何をしていたのでしょうか?」

「……えっと、話をしていただけだよ」

「なるほど……」


 奏の動揺ぶりにリゼットの眼がキラリと光った。スリーはこの瞬間に敗北を悟る。リゼットに本当の理由がばれた。

 せめて奏にだけは理由を悟られたくない、とスリーは懇願するようにリゼットを見つめる。


「スリー様でもカナデ様と二人きりとなると緊張するのですね。やはりカナデ様の魅力がそうさせるのでしょうね」


 リゼットがスリーの意を汲んでくれたようだ。スリーは安堵した。が、次のリゼットの言葉で別の地獄に突き落とされる。


「カナデ様は魅力的なので、平気だとは思いますが……」

「何か心配でもあるの?」

「スリー様はああおっしゃいましたが、カナデ様の元に貴族の令嬢が訪れないとは言い切れません」

「ちょ、リゼット!?」


 そんなことがあるはずはない。平民出身のスリーは、貴族の令嬢から熱い視線を感じたことなど、どんなに過去を振り返ってもありはしなかった。

 今までは見向きもされなかった。今さら奏のもとに乗り込んでくるとは思えない。


「スリー様はこの国の英雄です。貴族ではありませんが、十分に令嬢はその魅力を御存じだと思われます。さらにゼクス様の覚えもめでたく、騎士団の元副団長だったのですよ。令嬢が攻めないはずがありません」

「そんなことがあるはずないよ! リゼットは俺に恨みでもあるの!?」

「ありますよ」

「どんな恨みが!?」


 リゼットに恨まれているとは。恐ろしい事実にスリーは蒼褪めた。リゼットには何をされても文句すらいえない。防戦一方で耐えるしかない。


「貸二つで忘れてもいいですよ」

「二つ?」

「恨みと体温上昇の……」

「貸二つでいいから!」


 リゼットに貸を作るなどとんでもない話だったが、ここは穏便に済ますために頷くほかなかった。

 一体何をしてリゼットに恨まれたのかは不明だが、スリーはあえてそこには触れないことにした。どうせ墓穴を掘るだけだ。

 それに奏には絶対にばらされたくない。なぜ体温が上昇して髪の色が変化したかを。

 いくらなんでも奏に欲情していたと知られるわけにはいかない。あの時は本当に奏を襲わずにいられたことは奇跡としかいえない状態だったからだ。


「カナデ様、安心してください。スリー様はカナデ様一筋ですから。令嬢など歯牙にもかけませんよ」


 いったいリゼットは敵なのか、味方なのか。弄ばれている気がする。


「それは信じているけど、セイナディカのお嬢様ってすごいね。肉食系かぁ。私で勝てるかなぁ」


 なぜか奏は令嬢と戦う気でいる。その気持ちは嬉しいがそんなことをする必要は全くない。


「俺に懸想するようなご令嬢はいないよ!」


 スリーは段々と追い詰められている気がした。焦れば焦るほど言い訳めいて聞こえてはいないだろうか。


「あ、ゼクス様に縁談の話がいっているようでしたよ。男爵家とか」

「そんな話は聞いていないよ!?」

「ゼクス様がもみ消しましたから」


 スリーはゼクスに本気で感謝した。出来ればその情報を奏に知られないように、リゼットに口止めをしておいて欲しかった。そこまでゼクスに求めるのは越権行為かも知れないが。


「王様ナイス! やっぱりスリーさんはお嬢様に狙われているみたい。負けないように頑張るね!」

「……カナデ。頑張る必要はないと思うよ」


 奏の闘志に火がついたようだ。スリーは脱力した。いくら奏が頑張ろうと敵はいないのだが……。


「スリーさんは絶対にモテるよ! 弱腰でいたら肉食系のお嬢様に横から奪われちゃうじゃない!」


 嫉妬心剥き出しの奏はやけに可愛く見えた。スリーは独占される喜びに浸るのだった。

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