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第59話

「ドラゴンって肉食なの?」

「さあな。あれほどの巨体が人間を食らうだけで維持できるとも思えないが、案外異世界人なら腹の足しになるか?」

「奏は丸呑みにしても栄養にならないな」


 ゼクスの冗談に真面目に返すイソラが憎らしい。生贄のことで折れなかった奏に意趣返しをしているようだ。


「そんなに痩せてないよ!」

「いろいろ足りないところがあるじゃないか。そんなんじゃ嫁に行けないぞ?」

「余計なお世話だよ!」


 イソラが足りないと思われる箇所に視線を飛ばしてくる。


「俺が貰う予定だから問題ないよ」


 胸が少々足りない自覚のある奏は、憤慨してイソラをポカポカと叩いていたが、スリーの言葉の威力に絶句して動きを止める。

 スリーが空気を読まない性格ということをすっかり忘れて油断していた。


「求婚なら後にしろ」


 甘い空気を纏っているスリーにゼクスがなんとも言えない表情を浮かべた。国の脅威について話をしていたはずが脱線している。


「申し訳ありません。つい本音が漏れました」

「……スリーは戦闘以外まるで駄目だな。カナデは神と結婚するべきじゃないか?」


 ゼクスがスリーに駄目出しをする。冗談なのかイソラを勧めてくる。


「奏。今から初めてを捧げてくれてもいいぞ? ゼクス王の推薦もあることだしな」

「イソラは保護者でしょ! 初めては好きな人に捧げるから!」


 奏は顔を赤らめる。スリーが聞いていると思うとそわそわとして落ち着かなかったが、いつまでもイソラに揶揄われたくないので、キッパリと言い切った。


「命は大事にしろよ。生贄になるような真似したら攫いにくるからな!」

「うん。イソラに救われた命は大切にする。ありがとう。イソラが見つけてくれて良かった!」


 イソラが奏の笑顔を眩しそうに眼を細めて見つめる。命を諦めていた最初の出会いから考えられないほどの成長ぶりに安堵したという表情だ。


「今回の呼び出しは俺の勘違いだな。カウントしないことにするさ。次は本当に日本に帰りたくなったらすぐに呼び出していいぞ」

「うん!」

「片道切符だ。それを肝に銘じておけよ」


 イソラから異世界転移は何度もできることではないと説明される。神の力は万能ではないようだ。日本に帰るならもう二度と異世界へ渡ることはできないのだ。


「その男に愛想がつきたら俺が嫁にしてやるから」

「うん。その時はよろしくね!」


 イソラが去る。それを奏は悲しくは思わなかった。本当なら会うことさえ叶わなかったのだから。

 たぶんこれが最後の邂逅だ。「さよなら」は言いたくない。笑顔でイソラを見送ろう。


「愛している」

「うん! 私も愛しているよ!」


 男女の恋愛感情と違うことは互いに理解している。それでも愛している。これほどしっくりとくる言葉はない。


「しっかり食わせてもらえ! その栄養不足な身体を何とかしろよ!」

「イソラは私のママだね!」

「せめてパパにしろ!」

「あはははは!」


 イソラの最後の言葉は「ドラゴンに丸呑みされるようなヘマするな」だった。

 イソラが目の前から消えても奏は笑っていた。最後まで笑えていただろうか。イソラが最後の目にする自分の姿が笑顔であればいいと、奏は願わずにはいられなかった。

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