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第57話

「生贄ってなに?」


 二人の話を黙って聞いていた奏だったが、不穏な単語を耳にしては黙っていられなかった。だたでさえ、これからどうなるのか不安でしかたないというのに、黙っていれば自分の未来が確定しそうな会話の流れになっているのだ。

 それに国が滅ぶという事実も無視はできない。


「****への***だ」

「え?」


 ゼクスの答えは奏には理解できない音として認識された。忘れていたが、召喚に関する事項は翻訳されないようになっていた。


「ああ、カナデは理解できなかったな」


 ゼクスは苦々しく吐き捨てた。


 奏はようやくゼクスに疑われていたと気づいた。召喚に関する話題を振ってこないゼクスに疑問を抱いていた。奏の曖昧な態度から推測されたのだ。


「それほどカナデが大事ならば連れ帰ればいい!」


 ゼクスの苛立ちは奏を縮こまらせた。イソラが庇う様にしてゼクスの前に立ちはだかる。


「それできない。少し待て。力を抑える」

「イソラ?」

「これで意味が解るはずだ」


 ブツブツと呟いていたイソラが奏の頭に手をかざした。特に変化は感じないが、これで今まで理解できなかったことが理解できるようになるのだろうか。


「ゼクス王は、おまえを生贄にするために召喚したらしい」

「え?」


 召喚には当然目的がある。色々と想像を巡らせていたが、一番当たって欲しくなかったパターンだ。

 奏はゼクス達に聞こえないように小声でイソラに確認する。


「生贄確定なの?」

「今のところは」

「生贄ってやっぱり殺されるよね?」

「どうだろうな。ドラゴンの生態は謎だからな」

「ドラゴン? リゼットがいるらしいって……本当にいるんだね。痛くないといいな……」


 ドラゴンなら奏など丸飲みにしそうだ。叶うなら苦痛は感じたくない。


「ちょっと待て。本気で生贄になる気か?」

「えーと、それで解決できるならいいかなって」


 奏は半ば本気だった。イソラが苦り切った顔で反対する。


「俺が拾った命を無駄にする気か。笑えない冗談だぞ」

「でも帰らないといけないなら、使ってもらったほうが無駄にならないと思うよ」


 どうせ死ぬのなら意味のある死がいい。この世界には大切に思う人達がいる。その人達の役に立てるなら自分の命は無駄にならない。


「おまえを生贄に差し出すくらいなら、俺が連れて帰るからな」

「でも、無理でしょ?」


 日本にいられなかったから今ここにいる。イソラが奏を異世界へ導いたというのに何を言い出すのだろうか。


「いいや。日本は無理だが俺の世界には連れていけるな。ただ問題がないわけでもない」


 本当に問題だらけだ。一つ増えたくらいではもう心が揺らぐことはない。奏は冷静に問いかける。


「何が問題?」

「配偶者以外は連れ帰れない」

「配偶者……」


 配偶者といえば家族のことだろうか。奏が考え込むとイソラがとんでもないことを言い出す。


「嫁になるか?」

「嫁!?」

「!!!!」


 いきなりのプロポーズに奏は驚きの声を上げる。イソラにしか聞こえないように小さい声で話していたが、驚きすぎて声が思いのほか大きく響いてしまった。

 それを聞いた男達が息を飲む。とくにスリーは驚愕のあまり声が出ない様子だ。


「何を話しているかと思えば二人は恋仲でしたか。それでご結婚されるので?」


 宰相がにこやかに煽るようなことを言う。その宰相をゼクスが睨む。


「話が逸れている」

「そうですか?」

「今は関係ないことだろう」

「そうですかね? このままカナデ様を連れ去る算段をしているようですよ」


 鋭い指摘に奏は思わず宰相を見てしまう。バッチリ眼が合うと微笑まれた。


「奏を生贄にくれてやる気はないからな」

「本人がいいって言っているのに」


 宰相を牽制するイソラに奏は不満をぶつける。一番の解決方法をイソラは許さない気だ。


「生贄になるだと?」

「王様はそのつもりで召喚したんでしょ」


 生贄にするつもりで召喚したはずだ。今さら何を言っているのだろう。ゼクスは優しいだけの人ではない。だから驚かれるとは思わなかった。


「生贄にするつもりはない。最初からそんな目的のために呼んだりしていない!」

「じゃあ、どうして召喚したの?」


 ドラゴンを相手に何が出来るのだろうか。それこそ生贄を捧げて襲ってこなくなるのなら最善だろうに。


「召喚は保険に過ぎない。そもそも成功するとは思っていなかった」

「王様はチャレンジャーだね。でも成功したらどうするか考えてはいたでしょ?」

「ドラゴンが生贄を求める理由が定かではない。それこそ生贄を捧げたから襲ってこないという保証がない。退治できるものならそれに越したことはない」


 力を求めたということだろう。シェリルの力を目の当たりにすれば、当然の選択だろう。

 国の存亡をかけてゼクスは戦うことを選んだということだ。


「私じゃ戦っても勝てないよね。やっぱり生贄になるのが一番じゃない?」

「軽々しく言うな。神に救われたのだろう」

「イソラは私の意思を尊重してくれるよ」

「そんなものは尊重しない。おまえは馬鹿か!」


 ゼクスに怒鳴られて奏は肩を竦めた。意思はすでに固まっている。

 そんな奏の頑固さにイソラは呆れて黙り込んだままだ。


「王様はシェリルに戦わせるの?」

「あの娘には無理だ」


 ゼクスが断言した。


「召喚した意味ないじゃない」

「そうだな。意味などない。最初から我々でどうにかするべきだった」

「うん。じゃ、生贄に決定!」


 ゼクスにはとても世話をかけた。国が大変という時にも関わらず守ってさえくれた。恩返しはするべきだ。


「それは神と話し合え」


 頭痛がするというようにゼクスが眉間を揉んだ。

 奏はゼクスにストレスを与えたことを心苦しく思いながらも、堅い決意を心に刻んだ。

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