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第54話

『WHAT?(どういうこと)』


 いきなり「異世界です」と説明して伝わらないことはわかっていた。けれど、かみ砕くにしてもどう説明すれば納得してもらえるのか。

 奏は色々と考えることを放棄して、ここが異世界であることをシェリルへストレートに告げたが、案の定伝わらなかった。

シェリルは母国語に戻ってしまうほど困惑している。


「あのね、地球じゃないどこか別の世界らしいよ。シェリルの言葉も通じていないでしょ。ちなみに召喚っていうのは、必要な人材をその世界に呼び寄せることをいうのかな? たぶんそんな感じ」


 我ながら説明とは呼べない曖昧さだ。召喚をかなりオブラートに包んで説明してみたが、要は誘拐されたようなものだ。しかし、シェリルに真実は告げられない。


『そんな世界があるのね』

「そうだね。ビックリしたでしょ」


 こんな適当な説明でシェリルは何かを理解したようだ。どこまで理解してくれたか、突っ込むことはやめておく。自分の首を絞めるだけだ。


『カナデはどうして言葉がわかるの?』

「さあ? どうしてかな」


 奏は誤魔化すように笑顔を浮かべた。言えないこともある。


『私はどうして呼ばれたの?』

「私も知らないよ」


 これは本当のこと。シェリルが誰にどんな目的で呼ばれたかは知らない。


『カナデも召喚されたの?』

「どうだったかな」

『何も知らないのね』

「ごめんね」


 奏は先程から胡散臭い笑顔を浮かべていた。我ながらどうして笑えていられるか疑問だ。シェリルにいろいろ質問されるが、ほとんど何も答えられない。


『これからどうなるの?』

「それはわからないけど、王様ならシェリルをいじめたりしないから」


 シェリルの立場は奏とは違う。奏はシェリルの不安を取り除けるだけの説明はできそうになかったが、ゼクスが酷い扱いをしないことだけは、はっきりと伝える。


「王様が何をしても信じてあげて」


 これからどうなるのか不安なのは奏も同じだ。むしろシェリルを気にかけている場合ではない不安定な立場になってしまった。

 ゼクス次第で今後はシェリルに関われなくなることは有り得なくはない。この世界の人々と言葉で意思疎通ができないシェリルが、奏しか頼れる相手がいないというのに、状況次第では助けてあげられなくなるかも知れない。

 シェリルには頼りにするべき相手を間違えないで欲しいと、奏は切に願った。


◇◇◇


 奏が予想するより早くリゼットが戻ってきた。

 シェリルはゼクスに会いに行く心の準備が整わなかったようだ。しきりに奏を気にして最後まで一緒に行くことを望んでいるようだった。

 奏は必死になり過ぎないように注意しながらも固辞し続けた。うっかりシェリルにほだされないようにすることはとても大変なことだ。

 美人に縋りつかれれば思わず頷きそうになる。それを断り続けることは精神的に疲れる。

 リゼットに促されて奏と離れる時、何度も振り返っては立ち止まっている様子に心は沈む。こんな出会いかたをしていなければ仲良くすることができたはずなのに……。


(覚悟するにはどうしたらいいのかな……)


 奏に残された時間はそれほど多くはないはずだ。

 ゼクスは怪我をしていてすぐには動けないようだが、長く奏を自由にしておくほど優しくはない。王として必ず何かしらの説明を奏に求めてくるだろう。

 奏はその時になって、どこまで事実を話すべきか悩んでいた。


(日本に帰るなら説明する必要あるかな……)


 帰れば確実に死に至る。それは言っても仕方ないことだ。優しい彼らに真実を告げることは酷だ。

 そして奏自身も口に出してしまうことにためらいがある。逃れられない運命なのだとしても言いたくはない。


(最後まで嘘を突き通すしかないかな)


 簡単に結論はでそうになかった。

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