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第5話

 眩しいくらいの光を感じる。奏は眩しさに目を細めて慣れるのを待つ。


「ようこそおいで下さいました。*****様」

「*****様、どうぞ声をお聞かせください!」


 光に慣れた視線を向けると口々に言葉を浴びせられて奏は驚く。

 そもそもこんなに大勢の人々が、まるで奏を出迎えるように集まっていたことに困惑する。

 どこか広い場所にいるらしいが、奏はどこかも分からずに視線を彷徨わせる。


「そう煩くするな。驚かせてしまっただろう。すまないな」


 奏の困惑を代弁するように言葉がかけられたが、声の主がどこにいるのか分からない。近くから聞こえてくるようであったが、見える範囲にその人物は見当たらない。

 答えることをためらっていると、奏の前に集まっていた人々が声の主に道を譲るように脇へ移動してく。

 奏の目の前に目の覚めるような金髪に紫眼の美丈夫が現れた。奏は一瞬息が止まった気がした。

 これほどまでの美形にお目にかかったことがなく、異性に免疫のない奏は激しく動揺する。


「名前を聞いても?」

「……奏といいます」

「カナデか。いい名前だな」


 人々が道を譲ったのだから身分は高いのだろう。それなのに随分と気さくに声をかけてくる。


「あの、ここは?」

「セイナディカという国だ。カナデは*****として俺が召喚した」

「召喚?」

「カナデは異世界からきたのだろう?」

「よく分からない」


 奏は曖昧に言葉を濁す。


「カナデ、突然のことで混乱しているのだろう。こんなことは本来すべきでないことは分かっているが……。カナデは、*****として**を***くれないだろうか」


(何を言われているかさっぱり分からない……)


 奏はこの世界へ来る前に、イソラから言われたことを思い出していた。

 別の世界へ行っても不自由がないように言葉を翻訳できるようにしてくれたようだが、肝心な部分は全く翻訳されていない。

 療養中は不要な雑事に煩わさないようにイソラが仕掛けをしたらしいので、そのせいかもしれない。


 それにしても召喚されて来たことになっていることが驚きだ。事実は全く違うわけだが、イソラには目的を伏せておくように約束させられていたので、こちらの事情は知られるわけにはいかない。


「あなたは王様よね」

「そうだが……よくわかったな」

「そういう感じだから」

「は?」

「だから、名乗りもせずに一方的に話を進めようとしたり、勝手に触ろうとしたり、偉いから許されると思っている。権力者はそういうものなの?」


(ああ、言っちゃった。本当にこれでいいのかな……)


 奏は王様に近づかれて手を取られそうになった瞬間、咄嗟に身をひるがえしていた。べたべたと触れられたくなかったこともあるが、イソラに授けられた作戦を決行している最中だからだ。


 イソラの作戦とは「とにかく舐められないように横柄な態度でいること」というハードルの高いものだ。

 イソラは「最初が肝心だ」と言っていたが、王様を相手にこんなに偉そうな態度でいいのか、と奏は不安になる。

 けれど、王様は奏の態度を咎めるどころか謝ってくる。奏は腰の低さに眼を瞬く。


「悪かった。俺はゼクス・ヴァイゼ・アーベントロート。セイナディカ王国の王だ」


 話している途中、ゼクスはじりじりと奏に近づいてくる。そのままどこかへ連れ去られそうな圧力を感じて、奏は戦々恐々とする。

 奏は冷静に対応しながらも逃げ出したい気持ちで一杯になる。

 それに色々と誤魔化さなければいけないことが多すぎる。当たり障りのない会話を続けるのは難しいと奏は焦りを浮かべる。


「仕事にいかなくていいの?」

「仕事中だ」


 ゼクスに冷静に返されてしまった。仕事を理由に早々に退場してくれればいいのにという甘い期待はあっさり砕ける。

 奏は溜息をつく。ゼクスが近いこともそうだが、ゼクス以外の存在が無言で様子を窺っていることも溜息の原因だった。

 会話自体はゼクスとしているだけだが、最初からいる人々の視線を無視できるわけがない。居心地が悪いったらない。

 

「部屋を変えて落ち着いて話をしないか?」


 奏の溜息をどうとったのか、ゼクスがそう提案してきた。本格的に奏に召喚理由を話そうというのだろうが、説明されても翻訳されることはないので意味はないのだが……。


「ごめんなさい。疲れているから……」

「休めるように部屋へ案内させよう」


 ゼクスはあっさり身を引く。

 奏はこちらの顔色を窺ってくるようなゼクスの視線が気になって仕方なかったが、一度一人きりになりたくて無理を通した。

 自ら異世界へ来たけれど、この状況に混乱していないわけではい。少し頭を整理したい。


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