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第33話

 スリーが訓練場に姿を現すと、騎士達は驚きに騒めいた。


「副団長どうしたんですか!?」

「元だよ。間違えないで」

「任務中ではなかったですか?」

「休暇中だよ」


 スリーは騎士達に慕われているようだ。次々と声をかけられている。

 そのうち「訓練をつけてくれ」と要請されて、困った顔をしていたが、何かを思いついて騎士達に頷く。


「いいよ。たまには本気を出すかな。カナデ様、見ていて?」


 奏は、スリーの視線に有無を言わせぬ圧力のようなものを感じて、コクコクと頭を縦に振る。

 スリーの本気を感じた騎士達は蒼褪めている。奏は見てはいけないものを見てしまった気分になる。


「フレイ、見学していい?」

「……勝手にしろ」


 隣にいたフレイの表情は険しい。拳を握りしめて、ギリッと音をたてて歯を食いしばっている。


 スリーと騎士達の打ち合いが始まった。スリーは一度に何人もの騎士の相手をしているが、誰一人としてスリーに木剣を当てることはできていない。

 圧巻としか言いようのない光景に奏は見入る。

 スリーはたいして動いているように見えないが、騎士達の剣筋を見切ってヒョイヒョイと避けている。すれ違いざまに足を引っかけると騎士達は面白いように転がっていく。

 騎士達は頭ではわかっているようだが、スリーの動きを避けられない。何度も挑戦していくが、息を乱しているのは騎士達だけでスリーは涼しい顔をしている。


(副団長をどうして辞めたのかな)


 奏は不思議で仕方なかった。実力もある上に騎士達に慕われている。左遷とか降格という感じでもない。別の任務があるようなことを言っていたけれど、副団長をやめる必要があったとは思えない。

 実際に騎士達の認識では、まだスリーが副団長なのだ。本人は否定しているが、騎士達は「元副団長」と決して呼ばない。


「面白いことになっていますね」

「リゼット、来たの?」


 訓練場にリゼットが顔を出した。楽しいことを嗅ぎつけたと言わんばかりにスリーと騎士の攻防を眺めている。


「情報が入りまして。面白そうなので見に来ました」

「情報? 侍女って騎士団のことまで把握しているの?」

「侍女はそんなものですよ」

「ええー!」


 奏は侍女の能力に空恐ろしいものを感じた。この国の侍女は諜報活動でもしているのだろうか。実は裏で国を牛耳っているなんてことは……。恐ろしい想像をしてしまった。


(きっと「家政婦は見た!」的なあれで……)


 奏は何とかして不穏な想像を散らそうと首を振る。


「あれ? リゼット様?」


 スリーが大して書いていない汗を拭きつつ、奏の元へやってくる。リゼットの姿を見つけて驚く。


「スリー様。ここでは『リゼット』と呼び捨てにしてください」

「あ、しまった!」


 スリーが敬称をつけてリゼットを呼んだ。

 スリーとの打ち合いで惨敗して動けなくなった騎士達は、親しそうなリゼットとスリーを見比べて絶句している。


(あ、この人は知っているんだ)


 奏はその理由を知っていたから、あまり驚きはしなかった。


 リゼットとゼクスがイトコ同士ということはあまり知られていない。騎士達が驚くのも無理はないだろう。

 二人の仲がいいことは周知の事実だが、それは恋人同士として認識されているようであった。ゼクスを恋敵として挑戦する勇者は、今のところ存在していない。

 それがスリーの登場で騎士達に大きな誤解を招くこととなる。


「副団長!? 横恋慕ですか!」

「は? 何のこと?」


 スリーは意味が分からず目を見開く。


「リゼットちゃんは可愛いですから、気持ちはわかります!」

「え? リゼットが可愛いのは認めるけど、そういうんじゃ……」


 スリーは次々に浴びせられる騎士達の言葉に困惑している。そんなスリーの困惑をよそにリゼットがスリーに声をかける。


「スリー様。訓練場にいらっしゃるなんて珍しいですね」

「ああ、カナデ様がいるからね」

「そうですか。は!? もしや昨日の……」

 

 スリーの答えにリゼットが息を呑む。得心がいったようにスリーへ視線を送る。


「口に合ったようで良かったよ」

「……いつの間にカナデ様の好みを把握したのでしょう。こんなところに伏兵がいたとは驚きです。スリー様、意外とやりますね」


 リゼットとスリーが謎の会話をしている。


 奏はそんな二人の仲の良さが騎士達の誤解を招く原因に違いないと二人にジッと視線を注ぐ。ただし、それが本当に誤解かどうかは微妙なところで勘ぐってしまう。


「カナデ様は強い男性はお好きですか?」

「え?」


 リゼットが急に話題を転換する。ふられた奏は戸惑う。どうして好みの話になったのだろう。


「たぶん、好きかな?」


 嫌いではない。けれど、はっきり好きと言えるほどでもない。奏は曖昧に答えた。


「スリー様! 良かったですね!」

「それリゼットの好みじゃなかったっけ?」

「ここにも朴念仁がいたとは……」


 スリーの答えにリゼットはガックリとしている。


「カナデ様は強いから好きだな」


 奏は二人の会話についていけずにいたが、スリーから妙な告白をされて複雑そうな顔をした。


「強くないですが……」


 「強いから好き」と言われて嬉しい女性がいるとでも思っているのだろうか。


「リゼット、否定されたよ!?」


 奏の言葉に拒絶を感じ取ったスリーが大慌てでリゼットにすがりつく。リゼットといえば、哀れみのこもった眼でスリーを見ると、容赦ない駄目だしをする。


「スリー様! やり直しです! 出直してきてください!」

「え、間違った? いったいどこが……」


 リゼットの駄目だしはスリーに通じなかった。リゼットの視線が冷たくなっていく。


「カナデ様、撤退です!」

「あ、うん」


 スリーに呆れ果てたリゼットに半ば引ずられるようにして、奏は訓練場を後にしたのだった。

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