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第32話

「フレイ様ですね!」

「おう……」


 リゼットはなぜか朝からこの調子で、知り合いでさえ威嚇している。

 心配を通り越して怒りが湧いてきたようだ。放置しておけばそのうち怒りは収まると思いたい。


「迎えにきたが、あれは大丈夫なのか?」

「気の済むまで放っておくしかないかな」


 奏はリゼットの扱いを覚え始めた。無理に止めようとしても無駄だから、こういう時は成り行きに任せるしかない。

 結局のところ、奏にできることは何もない。せいぜいリゼットがこれ以上怒り狂わないように、静かに過ごすことぐらいだろうか。


「リゼット。行ってくるから」

「フレイ様! カナデ様になにかあろうものなら……分かっていますね!?」

「了解だ。問題なく送り届ける」


 フレイは逆らう気さえ起きなのか、リゼットにいい返事を返す。顔は引き攣っていたが、それは見なかったことにするのが賢明だろう。


「カナデ。昨日の変質者を探そうと思うなよ」

「どうして?」


 奏は、はっきりさせるためにもう一度会いたいと思っていたが、フレイに反対される。


「危ないだろ」

「だから変質者じゃないから」

「言い切れない」

「そうだけど、違うから絶対!」


 少なくとも悪い人ではなかったと奏は言い募ったが、「何を根拠に」とフレイに鼻であしらわれる。


「危ない男に近づくな」

「フレイだって男でしょ!」

「へぇ、男って認識あったか」

「お母さんがいいの?」

「そのネタ引っ張るな!」


 リゼットを真似してからかえば、フレイはお返しとばかりに奏の頭を乱暴にかき混ぜる。フレイは加減を知らないから少し痛い。


「フレイなんか禿げればいい」

「それもやめろ。時間がなくなる。急ぐぞ」

「話を振ってきたのはフレイじゃない」


 奏はフレイの理不尽な態度に不満げな顔をする。


(こんなに人気がないんだから、変質者がでたらすぐに捕まると思うんだけど……)


 奏の部屋の周辺は客室が多いけれど人気はあまりない。それはゼクスが奏を守るために、余計な客を滞在させないようにしているからだ。

 奏は守られているだけだと思っているが、実際は奏を守る力は強いために近くに護衛を置けないという理由があり、やむを得ない状態となっている。

 そのため、危険が迫ったときにすぐに対処することは難しいが、逆に知らない人間が近づけば目立ちすぎるほど目立ち、奏の安全は保たれているのだ。


 普段から人気のないこの場所に、人の近づく気配を感じたフレイが、奏に警告する。


「カナデ。止まれ」

「へ?」


 奏はフレイの警告と同時に現れた男に視線を向けた。どこかで見たことがあるような気がしてジッと見る。


「カナデ様。これから訓練?」

「え? あれ? あ!」


 見たことあるもなにも、奏が以前「師匠になって欲しい」と懇願した騎士であった。あっさりと断られたが忘れるはずがない。

 それと同時に聞き覚えのある声に奏は二度びっくりする。


「お菓子は口にあった?」

「お、美味しかったです」

「そっか。俺は甘すぎると思ったけどね」


 騎士は奏の動揺などおかまいなしに会話を続ける。最初の印象とはかなり違っている。あの時は厳しい顔をしていたからかも知れないが、それにしてものんびりとした空気を醸し出す人だ。


「あ、あの、えっと……」


 スリーは遠慮なしに頭を撫でてくる。奏はどうしていいか分からずに困惑する。


「ん? 落ち着いて?」

「どうして、いつも頭を撫でるの!?」


 奏の困惑もお構いなしのスリー。奏は落ち着かなくて、スリーの真意を聞く。撫でられる好意が嫌なわけではないけれど、知り合ったばかりなのにという気持ちのほうが強い。


「いつもってなんだ!?」


 聞き捨てならない言葉に、ようやく覚醒したフレイの突っ込みが入る。


「え? カナデ様だから?」

「疑問形!?」

「ちょ、あんた! 離れろ!」


 フレイが警戒したように奏とスリーの間に入って強引に引きはがす。

 スリーは引きはがされたことに文句は言わなかったが、その視線は奏の頭に注がれている。


「嫌?」

「嫌というか、恥ずかしいんですけど……」


 子供扱いなのか何なのか微妙なのだ。それに大きな手で撫でられるとソワソワとして変な気分になる。


「困ったな。どうしようかな」


 スリーは自分の手をジッと見る。「困った」なんて言いつつ奏の頭を撫でようと虎視眈々と狙っている。


「拘る意味がわからない……」


 スリーに狙われている雰囲気を感じて、奏は逃げるようにフレイの背後に回る。

 それを追いかけるようにスリーの手が伸ばされてくる。しかし、フレイに威嚇されているので、諦めて腕を引っ込めたが、


「カナデ様は諦めて?」


と、奏の説得にかかる。


「邪魔しないでくれないか?」


 奏を背中に隠したフレイに剣呑な視線をスリーは向ける。その視線をフレイは真っ向から受ける。


「俺たちは急いでいる。あんたこそ邪魔だ!」

「……そうか。どうぞ? 行っていいよ」


 ついにスリーが諦めた。奏は少しホッとして身体から力を抜く。

 奏はフレイの背中から顔を出し、訓練場へ足を向ける。

 しかし、スリーが付かず離れずの距離を保ち、後から追ってくる。


(どうしてついてくるの!?)


 奏は怖々と後ろを振り返る。スリーと目が合い、奏の疑問に答えるようなことを言う。


「カナデ様は訓練場に行くよね」

「え?」


 フレイがスリーを睨んだ。訓練場まで着いてくるのだと気付いて機嫌が悪くなっている。


「カナデ。行くぞ」


 奏はフレイに腕を取られて引っ張られる。

 フレイがグッと怒りを抑えつけていた。かなり腕に力が入っていて痛い。


(な、なんだろ。フレイが恐い)


 二人の一色触発という雰囲気に奏は当てられて、無言で足を動かし続けるのだった。

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