第31話
「フレイ様はカナデ様を監督する責任があるはずですね!?」
「そうだな」
「では、どうして変質者がカナデ様に近づくのを許したのですか!?」
リゼットの断言に奏は首を傾げる。確かにいたはずの相手が、いきなり消えたので怖かったが、それだけで何か変なことをされた訳ではない。
頭を撫でられたことにはびっくりしたが、嫌な感じはしなかった。奏が不注意でぶつかりそうになったのに、謝れば許してくれたし、気を付けるように諭してもくれた。常識はある人だ。
「変質者かどうかは……」
「カナデ様はまたそんな……。お菓子をもらったからといって油断してはいけませんよ!」
「子供じゃないんだから、お菓子でつられたりしないよ」
実年齢を知っているくせに、子供扱いされた奏は、口をへの字にしてふて腐れる。
「半泣きで助けを求めてきたのは誰だった?」
「あれは突然いなくなったから、幽霊かと思って……」
実は頭を撫でまくられたことは二人には言っていない。なぜか恥ずかしい気持ちになって、言い出せなくなったからだ。
お菓子をもらったことも最初はすぐに言わなかったが二人にはすぐにバレた。片手で握りしめるには沢山だったからだ。
「それにしても有名店のキャンディーですよ、それ」
机におかれているお菓子をリゼットが指さす。
「そうなの? すごく美味しいよね」
「十分つられているな」
奏の感想にフレイが呆れる。
「フレイだっていくつも食べたじゃない」
危険なものでないことはリゼットによって検証済みだ。念のため毒見はフレイがしている。毒味以上に食べていたが。
「本当に知らない相手でした?」
「顔を見ていないからよく分からない。騎士かな。私が訓練していることを知っていたから」
「それなら騎士団の方なのでしょうね」
「たぶん、訓練場で会っているのかも」
確証は持てなかった。「騎士」と言ったものの騎士とは違うようにも感じた。
奏の知っている騎士とはどこか雰囲気が違っていた。何処なのかはっきりとはしないけれど、騎士ではないのかも知れない。
「次に会えば分かるだろ」
「同意しかねます」
リゼットは眉を顰める。得体のしれない相手に警戒心を剥き出しにする。
「フレイ様!」
「訓練の行き帰りは送ればいいだろ」
リゼットに名前を呼ばれたフレイは鷹揚に頷く。
「そんなにしなくても……」
過保護な二人に奏は困惑する。
「心配のあまりフレイ様が禿げてもいいのですか!」
「禿げてたまるか!」
いくら過保護なフレイでもそこまでの心配はしないだろう。騎士の可能性が高いわけだし、リゼットは大袈裟過ぎるのではないだろうか。
「大丈夫だから」
「油断は禁物です!」
「ちゃんと気を付けるからリゼット興奮しないで」
リゼットは穏便に宥めておかないと後が怖い。
「明日は昼過ぎに迎えにくるから、それまで大人しくしていろ」
二人がかりで来られては言うことを聞くほかなかった。奏は抵抗することを諦めておとなしくなった。