第3話
自称神様がブツブツと何やら言っている。
「迎えは来ていないな。ということは……」
奏は意識が戻ったものの、身体は動かない状態だった。
いまだに居座っている神様を名乗る男の行動を気にしつつも、死にかけの状態を保っている自分に驚きを隠せない。
一度は途切れた意識が戻ったからといって死を免れるとは思えない。
「移動するぞ」
男はそう言うと奏の身体を持ち上げた。
奏は突然の男の暴挙にパニックになったが、身体が動くわけでもなく、無抵抗で連れて行かれる。
男の動作は決して乱暴ではない。それでも移動は奏にとっては苦痛であった。男がゆっくりと奏に気遣うように歩を進めている。
しばらくすると奏の身体から苦痛が遠ざかる。不思議なことだが、何故かそう感じたのだ。
「眼を開けられるか?」
男も奏の様子に気付いたようだ。
奏は瞼に力を入れたが、持ち上げられそうになかった。ただ、少しだけ光を感じることができた。
「無理はするな」
そうして気遣う男に運ばれているうちに、徐々に身体の感覚が戻ってくるようになった。冷たくなっていた指先の感覚も足の感覚も、力こそ入らなかったが戻っているようだ。
奏の目から一筋の涙がこぼれ落ちた。