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第26話

 執務室でゼクスはスリー・リーゼンフェルトの任務報告を聞いていた。

 一か月という長い遠征から帰ってきたスリーは疲れた様子を微塵も感じさせなかった。


「対象の動きは限定的でしたが、近隣の村に被害があり、ガラが対処しています。小規模ですが地形の変化が各処で確認されました」


 スリーは淡々と報告を続ける。


「目視可能範囲まで近づきましたが、とくに反応はありません。活動実態も確認できませんでした。王都で地震が発生したようですが、こちらの動きと照らし合わせて無関係であることが確認されました」

「よく目視できたな」


 ゼクスは難しい任務を終えてきたスリーに感嘆の眼差しを向ける。


「少人数ですが影響領域を超えることができました。そちらはアスターが監視をしています。何か変化があれば、すぐに連絡が入るでしょう」

「周期は変化なしということか……」

「そのようです」

「徐々に間隔が短くなっているな」


 予断は許さなくなりゼクスは嘆息する。

 スリーが危険を冒してさえ、多くのことが不明のままだ。監視を続ける以外に現状では手の打ちようがなかった。

 この状況を打破できる手段を模索していて、ゼクスはいまだに決断できずにいた。


「……緊急の要件はどうなりましたか?」

「すまない。こちらの都合で時間が遅くなったな。……特に問題ない。気を遣わせた」

「いえ、余計なお世話とは思いましたが、顔色が優れないようでしたので……」


 スリーに問いかけられてしまうほど、ゼクスは疲れを隠せていなかった。

 苦笑いを浮かべてゼクスはかぶりを振る。

 仕事中は寡黙な騎士にまで心配されるとは、自身が思っているよりリゼットの暴走は堪えたようだ。


 しかし、ゼクスに休息をとるような時間はない。

 目の前の騎士にしてもゼクスと似たり寄ったりな状態だったはずだ。

 ただ、この先に控えている任務を考え、事前に騎士団長へ強制的に休暇を取らせるように指示をしていた。


「休暇はどのくらいの予定だ?」

「五日です」


 スリーにしては思い切った日数だ。休暇は強制したが日数までは指示していない。

 しばらく休暇を取ることは難しい。それを考えれば妥当なところだろう。


「その間はどうするつもりだ?」

「特には考えてはいませんが……」


 スリーが目を瞬く。本当に何も考えていないようだ。


「そうか。城にいるつもりがあるなら自由にしていい」

「そうですね」


 スリーは思案した後、ゼクスの提案に頷く。


「部屋を用意させる。不都合があれば侍従長に対応するよう言っておく」

「ありがとうございます」

「遅くまでつきあわせたな。しっかり休んでくれ」

「はい。では失礼します」


 スリーは執務室を退出した。


◇◇◇


 ゼクスがスリーの報告を聞いて頭を悩ませていた頃、奏は絶望的な状況に頭を抱えていた。


(舌の根の乾かないうちに約束を破りそうになるなんて……)


 リゼットには申し訳ないと思う。奏自身、よもやその日のうちに無理するはめになるとは思っていなかった。


 この感覚はよく覚えている。本当に悪夢としか言いようがない。


(確かに治ったわけじゃないけど……。でも、イソラは大丈夫だって……)


 熱が下がって、ようやく床上げすることを許された。

 リゼットはまだ心配そうではあったけれど、奏の元気そうな様子に、夜になるとしぶしぶではあったが自分の部屋へと戻って行った。

 奏自身も突然の不調に、病気が悪くなったのではと内心びくびくしていたが、それほど熱は高くなく、わりとすぐに下がったことで安心していた。

 しかし、それは間違いでしかなかった。奏は一人になると身体の奥に感じる不快感に気づいた。

 苦しいわけでもない、痛いわけでもない。それでも誤魔化せるものではなかった。


 身体の力が抜けていく。指先が強張っている。冷たい何かが、胸の奥からせりあがってくる。

 奏は胸元を抑えて息を吐いた。


(まだ大丈夫……)


 これはダメだ。誰にも言えない。嘘をつくことになると分かっているけれど……。

 言ってしまえば、きっとこの世界にいられなくなる。それは奏にとっては死刑宣告でしかない。


(リゼットごめんね……)


 奏は意識を失うように眠りに落ちていった。

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