第23話
奏がベッドの住人になってから二日が過ぎた。高かった熱はすぐに下がったものの、弱った身体はまだ思うように動かない。
「フレイ、あのね」
「喉が渇いたか?」
「そうじゃなくて……」
「果物は食べられそうか?」
リカッセという林檎もどきの皮を器用に剥き始めるフレイ。奏の意識が戻ってから、ずっとこの調子で世話を焼いている。
さすがに夜は遅くまでいるというわけではないが、翌朝からはまた甲斐甲斐しく世話を焼きはじめる。
そうしてフレイが身の回りのことをしてくれているからか、リゼットは顔さえ見せない。
フレイに「騎士団の仕事は大丈夫なのか?」と聞いても、リゼットの所在を訪ねても笑顔で誤魔化されてしまう。
「カナデ、食べさせてやろうか?」
「いいです……」
剥き終わったリカッセを笑顔で食べさせようとするフレイに、奏はたじろぐ。
体調が悪いことがバレた時、あんなにも怒っていたのが嘘のようだ。こんないい笑顔は出会ってから初めて見る。
「怒っているんじゃないの?」
「怒っているように見えるか?」
「見えないけど……」
実は笑顔の裏で、怒りを我慢しているだけなのかと疑いもしたが、フレイは楽しんでいるようにしか見えない。
「侍女の仕事もやってみると、けっこう楽しいな」
二の句が継げない。フレイはまるで別人のようだ。
「フレイ! 願いだから元に戻って!」
「戻る予定はないな」
「そんな! リゼットはどうなるの!?」
「ああ、リゼットは別の仕事に替わった」
奏は茫然とする。別の仕事なんて聞いていない。
「フレイは騎士をやめたの?」
「そうだな。侍女というか侍従か。お前はどう考えても、リゼットより俺がそばについていないと倒れるまで無理するだろうからな」
「でも、リゼットは野望があるから侍女になったって……」
「野望? それは凄いな」
フレイは苦笑いする。リゼットの野望に興味を引かれている様子だ。
「別の仕事って?」
「さあな。俺は聞いていない」
フレイが明後日の方向を向く。何か知っているようだが、話す気は全くないようだ。
奏は嫌な予感がした。普段それほど仲がいいとはいえない二人が結託している。
フレイはともかく、この場に姿を見せていないリゼットには不安しか感じなかった。