第22話
どことなく奏に元気がないように見える。
訓練に現れたときは気にするほどではなかったが、考え込んでいる姿を何度も目撃したフレイは無視できなかった。
それは王に夕食に招かれたときから感じていた違和感だった。緊張しているだけにしては様子がおかしい。
冗談を口にしているうちは、まだ良かった。徐々に口数が減っていき、食事も進まなくなってくると流石に心配になった。
フレイが部屋まで送って行けば、少しは元気を取り戻したようであった。次の日も顔を合わせれば、前日の事など忘れたようにケロッとした顔で訓練に励んでいた。
だから見逃していた。今に至るまで……。
「カナデ。お前、どこか調子悪いんじゃないのか?」
「え、なにが? どこも悪くないよ」
奏はなんでもない風を装っていたが、フレイは誤魔化されなかった。一瞬だが不自然に視線が反らされたからだ。
「今日は帰れ」
「どうして!?」
食ってかかる奏にフレイは詰め寄る。逃げようとする奏の腕をつかむ。
「……熱がある」
「体温は高めだから」
言うことを聞こうとしない奏に、フレイは舌打ちする。近くにいた騎士にリゼットへの伝言を頼むと奏を担ぎ上げた。
「は、離して!」
「黙っていろ! いつからこんな状態だった!?」
フレイは怒りのあまり怒鳴っていた。
奏が強情なのは今にはじまったことではない。様子がおかしいことには気づいていたのに、今の今まで放っておいたことはフレイの落ち度でしかない。
奏にあたるべきではないことはわかっていたが、それでも怒りを押し殺すことはできなかった。
どれだけ我慢をしていたのか。奏は、フレイに身体を預けるようにぐったりとしている。部屋についたことにすら気づいていない。
「カナデ様!」
「熱があるようだ。寝かせるから着替えを頼む」
フレイの伝言を聞いたリゼットが駆けつけてきた。
意識が朦朧としている様子の奏に目を見張る。表情を強張らせながらも、奏を着替えさせるために動き始める。
フレイが部屋を出ると入れ替わりで医者が入って行く。医者の手配もリゼットはしたようだ。
奏が体調不良のようだから「部屋へ連れて行く」と伝言しただけだが、リゼットは侍女として非常に優秀だった。
しばらくして医者が帰ると、廊下で待機していたフレイはリゼットに呼ばれる。奏の容態を話してくれるようだ。
「精神的な疲労から発熱したようです」
「そうか。それで大丈夫そうか?」
「ええ、熱はそれほど高くはないようです。ただ無理をしたようで、熱が下がったとしてもしばらくは安静だそうです」
フレイは大きく息を吐く。思った以上に動揺していたらしい。
「もっと早く気づいてやれば……」
「フレイ様。カナデ様は無理ばかりするので、察するのは難しいと思いますよ」
リゼットの言うことはもっともだった。奏はきっとたいした事はないと思っていたはず。下手をすれば倒れるまで気づかなかった可能性は否定できない。
「そうは言うけどな……」
「お気持ちはわかりますよ。カナデ様が元気になりましたら、説教されたらいいです」
「ま、それは当然だな」
「では、そちらはお任せいたします。私はそれ以外の方法で反省していただきます」
「それは怖いな……」
リゼットの怒りはフレイよりも深いようだ。説教をされる方がどれだけマシか、奏は思い知ることになりそうだ。