表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/201

第22話

 どことなく奏に元気がないように見える。

 訓練に現れたときは気にするほどではなかったが、考え込んでいる姿を何度も目撃したフレイは無視できなかった。


 それは王に夕食に招かれたときから感じていた違和感だった。緊張しているだけにしては様子がおかしい。

 冗談を口にしているうちは、まだ良かった。徐々に口数が減っていき、食事も進まなくなってくると流石に心配になった。


 フレイが部屋まで送って行けば、少しは元気を取り戻したようであった。次の日も顔を合わせれば、前日の事など忘れたようにケロッとした顔で訓練に励んでいた。

 だから見逃していた。今に至るまで……。


「カナデ。お前、どこか調子悪いんじゃないのか?」

「え、なにが? どこも悪くないよ」


 奏はなんでもない風を装っていたが、フレイは誤魔化されなかった。一瞬だが不自然に視線が反らされたからだ。


「今日は帰れ」

「どうして!?」


 食ってかかる奏にフレイは詰め寄る。逃げようとする奏の腕をつかむ。


「……熱がある」

「体温は高めだから」


 言うことを聞こうとしない奏に、フレイは舌打ちする。近くにいた騎士にリゼットへの伝言を頼むと奏を担ぎ上げた。


「は、離して!」

「黙っていろ! いつからこんな状態だった!?」


 フレイは怒りのあまり怒鳴っていた。

 奏が強情なのは今にはじまったことではない。様子がおかしいことには気づいていたのに、今の今まで放っておいたことはフレイの落ち度でしかない。

 奏にあたるべきではないことはわかっていたが、それでも怒りを押し殺すことはできなかった。


 どれだけ我慢をしていたのか。奏は、フレイに身体を預けるようにぐったりとしている。部屋についたことにすら気づいていない。


「カナデ様!」

「熱があるようだ。寝かせるから着替えを頼む」


 フレイの伝言を聞いたリゼットが駆けつけてきた。

 意識が朦朧(もうろう)としている様子の奏に目を見張る。表情を強張らせながらも、奏を着替えさせるために動き始める。


 フレイが部屋を出ると入れ替わりで医者が入って行く。医者の手配もリゼットはしたようだ。

 奏が体調不良のようだから「部屋へ連れて行く」と伝言しただけだが、リゼットは侍女として非常に優秀だった。


 しばらくして医者が帰ると、廊下で待機していたフレイはリゼットに呼ばれる。奏の容態を話してくれるようだ。


「精神的な疲労から発熱したようです」

「そうか。それで大丈夫そうか?」

「ええ、熱はそれほど高くはないようです。ただ無理をしたようで、熱が下がったとしてもしばらくは安静だそうです」


 フレイは大きく息を吐く。思った以上に動揺していたらしい。


「もっと早く気づいてやれば……」

「フレイ様。カナデ様は無理ばかりするので、察するのは難しいと思いますよ」


 リゼットの言うことはもっともだった。奏はきっとたいした事はないと思っていたはず。下手をすれば倒れるまで気づかなかった可能性は否定できない。


「そうは言うけどな……」

「お気持ちはわかりますよ。カナデ様が元気になりましたら、説教されたらいいです」

「ま、それは当然だな」

「では、そちらはお任せいたします。私はそれ以外の方法で反省していただきます」

「それは怖いな……」


 リゼットの怒りはフレイよりも深いようだ。説教をされる方がどれだけマシか、奏は思い知ることになりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ