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第17話

 被害状況をわざわざフレイが教えに来てくれた。地震の規模は小さく、大きな被害がないようで奏は安堵する。

 ところが、話し始めてすぐにフレイの笑みが炸裂して奏は戦く。フレイの微笑みは威力抜群だった。一瞬意識を持っていかれそうになった奏は我に返る。


「は!」

「突然どうした?」


 奏は動揺する。赤面しているはずだ。フレイは黙ってさえいれば王子様といえるほどのイケメンなのだ。


「なんでもない」


 奏はバッと眼を逸らす。イケメンの微笑みは直視すると大変なことになる。


「邪魔したな」


 フレイは奏の動揺に気づくことなく、話は終わったと来たばかりなのに帰ろうとする。奏は慌ててフレイを引き留める。


「ま、待って」

「用はすんだ。もう遅いから帰る」

「お茶でも」

「いや、いい」

「フレイが! 意地悪を言わない!」


 思わぬフレイの冷淡な態度に、奏は絶叫した。


「カナデが俺をどう思っているか分かっているつもりだったが、認識が甘かったというわけか」


 フレイが脱力した。顔には疲れが滲んでいる。


「明日も訓練をするか?」

「フレイが大丈夫ならしたい」

「じゃ、明日な」


 フレイは軽く手をふると、引き留めたそうな奏を無視して部屋を出て行ってしまう。


「明日が怖いー!!」


 奏が恐怖の叫びをあげた。そんな奏の叫びは、欠伸を噛み殺しながら岐路についたフレイには全く聞こえていなかった。


◇◇◇


「つ、疲れた」


 奏は一人になると思わずそう呟く。

 フレイが帰ってからかなり時間がたっている。リゼットも隣の部屋へと戻っていったので、一人きりの部屋はそれまでの騒がしさが嘘のように静かだ。


 この世界に来てからまだ二日しかたっていないというのに、濃密な時間を過ごしたように感じる。

 実際、いろんな出来事が次々に起こった。息をつく暇もないというのはこういう事だろうか。奏はそれらのことを思い返して溜息をつく。


 奏はいっこうに訪れない眠気に、まだ緊張していることを知る。

 リゼットやフレイと楽しい会話をしていても、どこかで緊張を強いられていた。信用できないとかそういうことではない。

 二人のことは気に入っている。出会ったばかりなのに、昔からの気心の知れた友人といるような気持ちでいる。


(王様は何のために召喚なんてしたのかな)


 本来なら奏は召喚されることはなかった。それは断言してもいい。

 イソラに詳しい話を聞いていないから、というか教えてもらえなかったというべきか、奏はこの世界について何の知識もなかった。

 言葉が分かるから意思疎通はできる。けれどイソラの意思なのか、重要な部分は翻訳されないため肝心のことは何一つ分からない。


(イソラは療養以外のことは考えるなって言うけど……)


 ゼクスは重要なことを話そうとしていた。曖昧に誤魔化し続けていたけれど、いつまでも通用するのか分からない。

 ただ、リゼットがとりなしてくれたのか、ゼクスが無理に話をふってくるようなことはなくなった。

 地震が起こってしまったせいで、忙しくしているのだろう。昼食後はゼクスと顔を合わせることはなかった。


 そのことに奏は安堵していた。

 しかし、今日のところはリゼットやフレイの二人といることで気を紛らわせることができたに過ぎない。


(何かの役割を担うために呼ばれたんだよね。いったいなんだろう?)


 何を期待されているのだろうか。熱狂的な出迎えを思えば、何もしないでは済まされないのではないか。

 けれど、奏はどうすることもできない。期待されるだけの力がないことは誰よりも分かっているから。


(身の振り方を考えないといけないかな)


 このまま城に留まれば、いずれは役割を果たすことを迫られることになるだろう。その時になって、誤魔化しきれる自信は奏にはなかった。


(どうしたらいいのかな)


 正直にすべてを打ち明けることはできない。それはイソラに禁止されているから。命の恩人であるイソラの言葉は何よりも優先すべきことだ。

 イソラが奏のために考えたことなら、それがどんなに苦渋を伴うことになろうと信じて従うつもりだ。

 けれど本当は大きな変化に怯えている。自由に動き回れるようになった身体にも、いつ元の世界に戻れるかも分からないという現実にも。


(考えてもどうにもならないよね)


 なるようにしかならないなら、好きなように行動しよう。そうして、どうしようもなくなったら……。


(諦めたらイソラ怒りそう)


 「俺が助けた命を粗末にするな!」と言って怒鳴りそうだ。

 柄が悪いとしかいいようのない自称神様は、その見た目と違ってとても優しい。


 「通りすがりにボランティアしただけだ」と言っていたけれど、送り出してくれた時には、心配のあまり過保護としかいいようのない注意を山ほどしていた。


(腹は冷やすなって。一番笑えたよ)


 子供に言い聞かせでもするように、しつこいくらいに。

 「俺が一緒に行ければいいのに」なんて、本当にイソラは心配性だ。そこまでの義理なんてないのに。


(イソラ。弱音を吐いてごめん!)


 イソラの言葉を思い出せば、不安な心も徐々に落ち着いてくる。


「打倒フレイ! 怖くなんてないから!」


 奏はもう一度気合を入れ直した。

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