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療養先は!?  作者: 春夏秋いずれ
番外 合コン編
164/201

ヴァイシュの場合

 ヴァイシュは気乗りのしないパーティーに参加していた。

 リゼットが主催の「異世界発の合コン」が面白そうだ、という理由での参加だった。

だから、まさか合コンが見合いパーティーだったなんて気づいていなかった。


 そういえば仲間達が数日前からずっとそわそわとしていた。

 ヴァイシュは女にあまり興味がないため、そんな仲間達の態度が、見合いパーティーに浮かれていたため、とは考えもつかなかった。


 騎士は職業柄モテるが、そのわりに独身率が高い。

 それは危険な職業であるからだ。結婚しても夫に死なれる確率が高い。女性がしり込みするのは理解できた。


 ヴァイシュが女に興味がないのは、単に興味を惹かれたことがないからだ。誤解しないでほしいが、男が好きというわけではない。

 今は仲間と馬鹿をしたりするのが楽しいというだけだ。

 興味を惹かれるような女がいたら逃がしたりはしない。ヴァイシュにとっては女も獲物も一緒なのだ。


 パーティーは立食形式で、それぞれ好きに話し相手を見つけて、食事をしながら会話をする。

 特に気に入った相手がいれば、別の場所に休憩所が設けられていた。そこにはテーブルと椅子が用意されている。ゆっくりと話すためのものだろう。


 ヴァイシュは会場入りすると早速食事を開始していた。

 その途中で何人かの女に声をかけられたが一言二言で去っていった。どうやらお眼鏡にはかなわなかったようだ。

 ヴァイシュにとってはどうでもいいことであったが。


 ヴァイシュは腹が一杯になると、あまりのつまらなさに欠伸を洩らした。触手を動かされるような女もいない、とあっさりと諦めて、もう帰ろうと出口を目指した。


 ところが、その途中で面白いものを発見した。

 ヴァイシュは目を輝かせてそれを観察した。

 どうやらそれは小さな女だった。その女の視線はある一点に集中していた。


(ん? あれってドラゴンのお友達じゃないの)


 女の視線の先には、いつでもドラゴンの側にいる兵団の男がいた。

 ヴァイシュは、女がその男に興味があるだけなのか、と落胆したが、よくよく観察していると違うことに気づいた。


 女は兵団の男といる別の女を見ていた。

 女は兵団の男とその女のやり取りを見ては、表情をコロコロと変えていた。


 ヴァイシュはあまりの面白さに噴きそうになった。


(あれは何がしたいのかねぇ)


 まさしくデバガメ。そういう趣味の持ち主なのだろうか。

 そこでヴァイシュは女を観察することをやめた。

 意図が分からないなら直接聞こうと、女に近づいて行く。


「見ているだけでいいの?」


 ヴァイスは軽い調子で女に声をかける。滅多にお目にかかれないような美少女が、怖い顔で振り返った。

 ちょっと見ない銀髪に琥珀の瞳。琥珀は珍しくもないが、銀髪に琥珀の組み合わせは美少女を神秘的に輝かせていた。

 美しい女ならリゼットで慣れていたヴァイシュだったが、輝くような美少女には目を見張った。


「なにか?」

「……いや。さっきからあの二人を気にしている風だと思ってさ」


 ヴァイシュは鋭い美少女の視線にたじろいだものの、当初の疑問を解決するべく立て直した。

 美少女の視線の先にいる二人を指差して答えを待った。


「貴方はあの二人を見てどう思う?」

「どうって、似合っているんじゃないかな」


 兵団の男は酷く目立つ外見をしていたが、隣に立つ女は目立つ容姿ではないが、兵団の男に見劣りするようなことはなかった。

 落ち着いた雰囲気の女は、野生的な兵団の男と絶妙に釣り合いが取れていた。


 ヴァイシュが正直な感想を言うと、美少女の顔が喜びに輝いた。ヴァイシュに詰め寄る勢いで捲くし立てる。


「そうよね! あなたの言うとおり二人はお似合いよね! ああ、良かった! これで安心して見ていられるわ!」

「あの二人とどういう関係?」

「私のお姉さまよ! お姉さまってば、すぐに遠慮するのよね。私のことばかり気にかけてちっとも恋人を作ろうとしないのよ! それじゃ駄目だって私は頑張ったわ!」

「ああそう」


 美少女の姉とやらをヴァイシュは眺めた。外見どおり大人しい性格のようだ。

 美少女の姉というがあまり似ていなかった。似ているところがあるとすれば琥珀の瞳ぐらいだろう。


「マガト様っていうのよ! 本当に素敵な人ね! お姉さまにぴったり!」


 美少女は興奮ぎみだ。よほど二人のことが気がかりなのだろう。自分のことは置き去りに、二人のことを観察し続ける意気込みが迸っている。


「あんたは恋人いらないのか?」

「私はいいのよ。どうとでもなるから」


 美少女は自分のことを分かっているようだ。小さな身体に似合わず活発な様子を見れば、好きな相手には遠慮なく迫りそうである。

 それに、これだけの美少女なら男たちが放ってはおかないだろう。

 ここでヴァイシュは妙だと思った。美少女に近づく男が全くいないことが不自然なのだ。


「なあ。あんたはもしかして参加者じゃないのか?」

「いいえ。参加者よ」


 美少女は参加者のようだ。ヴァイシュは首を捻った。美少女がいるのに、誰も声をかけてくる様子がない。

 騎士団は朴念仁の集まりではない。はっきりいって女に飢えている野獣だ。

 それなのに美少女に目もくれないとは、一体どうなっている。


「……小さくて見えないからとか?」

「小さいって、私のことよね」

「悪い、聞こえていたか。他意はないよ」


 美少女に話かけたつもりではなかった。飢えた獣たちが美少女を見逃す理由を捻り出したら、うっかり口から漏れていたのだ。


「私ってやっぱり小さい?」

「まあ。大きくはないね」

「そうよね。でも、もう成長しないと思うのよね」

「そうなの? まだ成人前でしょ。だったら成長するんじゃないの」


 美少女は子供のように小さい。

 ヴァイシュはようやく納得した。

 騎士達は美少女の小ささに尻込みしたのだ。

 たしかに、ちょっと抱きしめただけで潰れそうな気がする。


「私は成人しているわよ。いつも子供に見られるのよね」

「え? 成人しているの? 差し支えなければ年齢を知りたいけど……」


 ヴァイシュは美少女に年齢をきくことを躊躇したものの、好奇心には勝てなかった。


「二十三歳よ」

「リゼットより上かよ!」


 ヴァイシュは年齢を聞いて驚いた。

 美少女は少女ではなかった。


「というわけで、私は小さいままよ」

「そうか。悪かったな」


 ヴァイシュはなんとなく謝った。


「いいわよ。慣れているから。あ、私ってば名前も名乗ってなかったわ!」

「あ、俺もだ。いまさらだけど、ヴァイシュだ。よろしく」

「リティエルよ。リティって呼んでね」

「リティね。可愛い名前だ」


 リティはヴァイシュに誉められてはにかんだ。

 その微笑みにヴァイシュは何故だか、落ち着かなくなった。


「ところでヴァイシュはこんなところで油を売っていていいの?」

「ああ。つまんないから帰ろうと思っていたところ。リティに会ったから、もうちょっといようかな」

「そうなんだ。あ、ヴァイシュはリゼットに好みを教えてないの?」

「なんでだ。リゼットに好みを教えてどうする」


 たしかにリゼットは見合いパーティーの参加者に話しを聞いて回っているようだった。

 ヴァイシュの所にも来たが、リゼットの話を適当に聞いていたら、何故か怒って帰ってしまった。

 「女の好み」を聞かれた気はするが、そんなものをリゼットが聞いても意味はない、とヴァイシュは思っていた。


「リゼットってば、事前に参加者の好みを聞いて、当日はさりげなく相性のいい相手と話せるように考えていたみたい。ほら、参加者がけっこう多いじゃない。集めてから、さあ勝手にどうぞじゃ、なかなかいい相手にはめぐり合えないと思うのよ。リゼットはちゃんと考えているのよね!」

「……なるほどね」


 リゼットがそんな意図で参加者に好みを聞きまわっていたとは驚きだった。

 見合いパーティーを開催するだけでも手間だろうに。


 道理でリゼットの気合が半端ないと思った。


「ヴァイシュはどういう人がいいの?」

「俺は特にない。そういうリティはどうなんだ?」

「私はマガト様押しだったのよね」


 ヴァイシュは目を見張った。リティエルは好みの男が別の女といて平気なのだろうか。


「おいおい。じゃあ、なんで姉ちゃんに譲ってんだよ」

「だって、マガト様は小さい女は好みじゃないんですって!」


 振られた理由を元気よく語るリティエルにヴァイシュは呆れた。


「ああいう男がリティの好みか?」

「マガト様は素敵だけど、私の好みにあてはまる人は大勢いるわよ」


 リティエルは恋多き女のようだ。ヴァイシュは段々リティエルに興味を覚えはじめる。


「どんな好みだ?」

「そうね。私を抱き潰すことに遠慮しない人よ! あ、もっといえば情熱のあまり抱き潰して、後悔して甘やかしてきたりする人ね!」

「俺には理解できないね……」


 リティエルの好みはヴァイシュには到底理解できるものではなかった。


「そうなら騎士でも兵団でもより取り見取りだね」

「そうなんだけど、ほとんどの人は私を見て尻込みするのよね」

「そりゃそうだよ」


 リティエルを相手にしたらどんな男でも体格差に戸惑うはずだ。

 リティエルが綺麗であることも原因だろう。男はリティエルを傷つける想像をして逃げ出す。


「でも騎士がいいのよね! 私は騎士になりたかったけれど、反対されたから子供に期待したいの!」


 ヴァイシュはリティエルの騎士姿を想像した。そして、あまりの恐ろしさに身震いした。

 リティエルは騎士になってもすぐに潰されかねない。騎士団は思う以上に荒くれ集団だからだ。


「だんながでかけりゃ、子供が期待できる、か。リティに似たらどうするわけ?」

「そうなったら諦めるしかないわね! いいのよ。大きな子供が欲しいから結婚したいわけじゃないんだから!」


 熱弁を振るうリティエルにヴァイシュはタジタジたったが、内心を誤魔化すように興味なさげに声を出す。


「ふ~ん。リティは一応、結婚したいんだ?」

「そうよ。だんな様が騎士って素敵よね!」


 リティエルは騎士に夢を見すぎている気がした。

 まあそれも仕方のないことではあった。


 きっとリティエルは第一騎士団しか知らないのだろう。

 花形の騎士といえば第一騎士団を指す。城の常駐している第一騎士団を見ていれば憧れもするだろう。


 第一騎士団は貴族中心の団だ。身奇麗な男たちが多い。

 第二騎士団とはわけが違う。第二騎士団はお世辞にも綺麗とは言い難い無骨集団なのだ。

 兵団ほどの粗野さはないものの、遠征中心で害獣を狩る任務についているので、厳つい男たちが多い。

 そんな第二騎士団はリティエルが憧れを抱くような要素はまるでないのだ。

 だから、リティエルが好みそうな集団を遠目に見つけて、


「リティの好みのヤツらならあっちにいるよ」


 ヴァイシュは第一騎士団がたむろしている場所を指差した。

 同じ騎士団所属とはいえ、貴族の鼻持ちならないヤツらをリティエルに薦めるのはヴァイシュも嫌だったが、リティエルの好みに合うなら迷うことはなかった。

 なんとなくだが、リティエルは貴族のような気がする。それなら第一騎士団を押すことに問題はないだろう。


「いないわよ」


 リティエルはヴァイシュの指した方向を見てからすぐに落胆した表情になった。

 ヴァイシュは、本当にいなかったのだろうか、と疑問に思った。

 リティエルは一瞬で視線を逸らしたからだ。


「私の好みって特殊なのよ。リゼットも呆れていたわ」

「なんだ。わかっていたの」

「わかっているわよ。だからお姉さまを観察しているの!」


 リティエルは見合いパーティーに参加しても誰にも相手にされない、と思っているらしい。

 それは間違いだ。少なくともヴァイシュはリティエルに興味を持っている。

 リティエルはどうか知らないが、リティエルが嫌でなければ、すぐにでも口説きたい。


「騎士はともかく抱き潰しにこだわらなきゃ、だんな候補なんてすぐに現れるんじゃないの?」

「そうかしら。でも、やっぱり抱き潰されたいわね」

「……そりゃあれか。エロい意味で?」


 ヴァイシュはニヤリと笑った。そういう意味ならいくらでも抱き潰してやりたい。


「そういうことは結婚してからよ。まずは普通に抱きしめて欲しいわね!」

「へぇ。それも込みってことか」


 ヴァイシュは益々リティエルに興味を惹かれた。こんな面白い女には会ったことがない。

 ヴァイシュがニヤニヤしている横で、リティエルは真面目な顔をしていた。そしておもむろに爆弾を落とす。


「ヴァイシュって騎士よね。ちょっと私を抱きしめてみない?」

「ちょっとって、何……」


 ヴァイシュはリティエルの提案に怯んだ。

 真面目な顔をして、とんでもない発言をする、と流石に咎めた視線をリティエルに送った。


「駄目?」


 リティエルが見つめてくる。ヴァイシュとの身長差で上目遣いになっていた。これで落ちない男はいないだろう。


「俺なんかでいいのかよ」

「いいわよ。よく見たら貴方は私の好みよ」


 リティエルが良ければ、ヴァイシュに異存はなかった。

 だが、この場でリティエルを抱き潰すのは遠慮したい。


「とりあえず、俺のことはだんな候補にしておいて」

「ヴァイシュは抱き潰してくれると思ったのに……」

「リティ。こんなところで抱き潰せないでしょ。二人っきりになれば遠慮しないから我慢して」

「二人っきりになったらしてくれるの?」


 リティエルの積極さにヴァイシュは自制心を試されている気がした。

 リティエルのいう抱き潰しの意味は、ヴァイシュが求める意味とは違うと分かっていても下半身が滾りそうだ。


「本当に拘るねぇ。リティ、言っておくけど、俺は紳士じゃないよ。あいつらとは違う。覚悟できているの?」


 ヴァイシュはそう言って第一騎士団を見遣る。

 リティエルは簡単に「抱き潰せ」と言うが、ヴァイシュが本気になったら、リティエルがどんなに怖がっても止められる自信はなかった。

 脅すつもりはないが、男を煽るとどうなるか、少しは理解させる必要がある。


「ヴァイシュって、やっぱり第二騎士団だったのね! 第一騎士団の騎士って苦手なの。たいして強くもないのに偉そうに、私を守りたいなんて、うっとうしく寄ってくるのよ。あれで口説いているつもりならどうかしているわ!」


 ヴァイシュは唖然とした。リティエルは騎士に夢を見るよう女ではなかった。


「リティ。本気で第二騎士団狙いだったんだ?」

「そうよ! 兵団の人も好みだわ。でも、参加人数が少ないからどうしようかって思っていたの」

「……ああ、うん。わかった。リティ。前言撤回するよ。だんな候補はなしだ」


 ヴァイシュがそう言うと、リティエルが泣きそうな顔をした。

 自惚れでなければ、本当にリティエルに好意を寄せられている、とヴァイシュは破顔した。


「候補はやめた。リティエル。結婚してくれ」

「……ヴァイシュはせっかちなの?」

「騎士相手に油断していたら、リティはすぐに掻っ攫われるよ。俺はそんな間抜けじゃないからね」


 リティエルが小さいという理由で逃げだす男ばかりではない。

 特に騎士は油断ならない。それは第一だろうが第二だろうが関係ない。


 そして、リティエルがここで姉を観察できる状態にあるのは、きっとリゼットが何かしたのだろう、とヴァイシュは推測していた。

 わざわざ参加者の好みを聞いてまわったのだ。

 リゼットの姿は見えないが、陰から相性のいい相手同士を誘導するくらいはやっていそうだ。


 リゼットに好みを教えていないヴァイシュと、リティエルの出会いは全くの偶然だろう。

 こんな好機を見逃すなど、ヴァイシュには考えられなかったが、リティエルの返事はにべもなかった。


「結婚はお姉さま次第よ」


 リティエルは姉より先に結婚をする気がないようだ。

 ヴァイシュはリティエルの姉がどうなったのかと目線を向けた。

 そこには今にも兵団の男に捕食されそうなリティエルの姉がいた。

 ヴァイシュは、すぐにでもリティエルを嫁にできそうだ、と歓喜した。


「リティの姉ちゃんはもう逃げられそうにないねぇ」

「え?」


 それを聞いたリティエルが慌てた。観察途中で目を離したために、姉の状態に気づいていなかったのだ。


「……さずがマガト様! 私が見込んだだけのことはあるわね!」

「リティは何を見込んだのかな?」

「マガト様の情熱でお姉さまをどうにかしてくれればいいなって思っていたの」

「おいおい」


 自分の姉に対してそれはないだろう、とヴァイシュは呆れ返った。

 リティエルの言う「どうにか」は間違いなく、ヴァイシュの想像と同じはずだ。


「相手はマガト様なのよ! お姉さまはペロリといただかれるわね!」

「ペロリって、お嬢様の言葉とは思えないねぇ」


 セイナディカの女が積極的であることをヴァイシュは知っていたが、あまりにも明け透けなリティエルに驚く。

 普通の貴族ではありえない発言だ。


「私はお嬢様じゃないわ」

「リティは貴族じゃないんだ?」

「今は違うわよ」

「今は?」

「私が十歳くらいまでは貴族だったわね。でも没落したから今は宿を経営しているわ!」


 リティエルが貴族らしからぬ発言をするのも頷けた。幼少期は貴族だったからヴァイシュは勘違いしたのだ。


「ヴァイシュは、私が貴族だったら相手をしてくれそうにないわね」

「そうでもないよ。リティなら貴族でも掻っ攫うかな」


 ヴァイシュが本気で欲しい、と思えば身分など関係がない。

 晴天の霹靂とはいえ、貴族の身分に釣り合うだけの肩書きをヴァイシュは手に入れていた。どうとでもなる。


「ヴァイシュって、意外と情熱的なのね」


 リティエルは感心しているが、ヴァイシュはどちらかといえば軽い、と思われることが多い。「情熱的」と言われたことは皆無だった。

 情熱的に見えるとすれば、それはリティエルを相手にしているからだ。


「リティエル。はぐらかしてるんじゃないなら返事が欲しい。それともこんな求婚は話しにならないか?」


 ヴァイシュはリティエルを急かした。

 少なくともこの場で婚約まで漕ぎつけたかった。口約束だけで構わない。


「抱き潰しが先よ」

「……敵わないねぇ」


 ヴァイシュは、リティエルを引き寄せると抱きしめた。

 小さなリティエルの身体は完全にヴァイシュに囲われた。端から見たら襲われているように見えただろう。


「ヴァイシュ。力がはいってないわよ」

「大事にしたいから、これで勘弁してくれない?」


 ヴァイシュは一瞬だけ腕に力を込めた。そして、すぐにリティエルを開放する。


「仕様がないわね。結婚してあげる」

「本当にリティには敵わないよ……」


 リティエルは強気の言葉とは裏腹に真っ赤な顔だ。

 ヴァイシュは、そんなリティエルに心臓を射抜かれて、しばらく放心するのだった。


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