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第147話

 マガトに城へ滞在する許可が下りた。それを聞いたマガトは驚いたがリントヴェルムがパッと顔を輝かせると仕方ないかというように肩を竦めた。


『部屋は一緒か?』

「別々だ」

『そうか。つまらぬ……』


 リントヴェルムは同室希望らしいが、マガトは断固拒否の姿勢だった。


「一緒でもいいんじゃないの?」

「冗談じゃないぞ」

「いやだってリントヴェルムはマガトとしか話せない設定だよ?」

「うっ、そうだったぜ」


 ゼクスが強引にマガトを城に滞在させるのもそういった事情があるからだ。

 まだリントヴェルムがドラゴンと明かす段階にない。それまではどうしてもマガトがリントヴェルムと一緒にいる必要があった。


「せめて隣の部屋にするとか」

「そうだな。それならかまわないぜ」


 リントヴェルムに懐かれたとはいえ、出会ったばかりで四六時中一緒にいるというのは精神的に疲れるだろう。

 寝る時ぐらいは一人になりたいというマガトの気持ちは十分理解できた。


「リントヴェルムの嫁探しが騎士団合同の見合いパーティーになったんだってな」

「うん。リゼットがもう気合をいれていてね」

「そりゃいい。その調子でリントヴェルムにいい相手を見つけてやって欲しいもんだ」

「マガトも参加だよ」

「俺が? 騎士団じゃないぜ」


 どうも誤解があるようだ。ゼクスは騎士団のためといったが、実際は遠征隊のために用意された褒美だ。当然、独身のマガトは参加資格がある。


「本当は騎士団っていうか遠征隊がメインの企画だったんだよ」

「おお! 俺も嫁さんを貰えるかも知れないのか!」

「良かったね。マガトは目立つから有利だよ」


 遠征隊だけでなく騎士団も一緒となるとかなり大規模なパーティーになるはずだ。

 そういう場では目立つほうがいいだろう。セイナディカの女性は肉食系が多そうだ。インパクトで声をかけてもらえる確立が高くなる。


「そういうもんか? どういった女性が参加するか知らないが騎士と一緒なら出る幕がないと思うぜ」


 騎士団はやはり花形職業だ。当然モテる。そういう意味では兵団と比べるべくもない。マガトもそう言いたいのだろう。


「そうかな。私は兵団の人達ってワイルドでいいと思うけど」

「ワイルド?」

「逞しい男性って意味かな」

「それをいったら騎士も一緒だぜ」

「野生的で荒々しい? そんな感じだよ」


 例えるなら肉食系。かならず需要はある。リゼットも騎士ではなく兵団の男性を選ぼうとしているくらいだ。


「怖がられるんじゃないのか?」

「優しく接してあげれば大丈夫! むしろ人気者になること間違いなし!」


 言い切ったがマガトは信じられないという顔をする。


「俺が人気者? ありえねぇ……」

「そこは騙されたと思って信じてみてよ!」

「まあいいか。一人くらいは確保できんだろ」


 マガトは随分と消極的だった。奏は不思議で仕方なかった。

 なぜならマガトはけっこう格好いい。異国出身だからか小麦色の肌は健康的で、背が高く鍛えられた肉体は妙な色気を放っている。

 その肉体美に見とれる女性は後を絶たないはずだ。それなのにこの自信のなさはいったいどうしたことだろう。

 モテないと思っているのは兵団に所属しているからなのか。だとしたら兵団はどれほど恐れられている集団だというのだろう。


「カナデ様、俺のことはいい。それよりリントヴェルムだ。ドラゴンだってことは隠しとくんだろ。それでどうやって嫁を見つけるんだ?」

「そうだよね。どうするんだろ」


 リントヴェルムの花嫁が見つかったとしても正体を明かしたとたんに逃げられそうだ。

 もし逃げられなかったとしても騙していたことが後の禍根とならなければいいのだが。

 リントヴェルムがドラゴンであることをいつゼクスは公表するのだろうか。


「カナデ様も知らないのか」

「その辺は王様が考えていると思うんだよね」


 ゼクスが考えなしでリントヴェルムを城に招いたとは思えない。リントヴェルムの花嫁探しを大々的にするくらいだ。混乱を招かないよう策は練っているだろう。


「そうか。ゼクス王に任せるほかないか」

「そうだよ。言い出したのは王様なんだから丸投げでしょ!」


 ゼクスの側近には頭脳となる宰相がいる。きっと今頃悪知恵を働かせている。


「カナデ様、もしやそちらにマガト様がいらっしゃいますか?」


 リゼットがひょっこりと部屋に顔を出した。どうやらマガトを探していたようだ。


「いるよ」


 リントヴェルムとマガトが城に滞在することになったのは予定にないことだった。そのためまだ部屋の準備が整っていなかった。

 奏は、手持ち無沙汰にしている二人を自室へ招待していた。


「リントヴェルム様もご一緒ですね」

「うん。リントヴェルムも一緒だよ。リゼット、二人に何か用?」

「ええ。情報収集も兼ねてご挨拶に参りました」

「情報収集?」

「合コン参加者にいくつか質問をさせていただきたいことがありまして」


 すでにリゼットは合コンに向けた準備を始めていた。情報収集までする徹底ぶりに驚かされる。

 そして、質問内容を聞いてリゼットの本気を悟った。どうしてそこまで合コンに力を入れるのか。リゼットは参加するわけでもないのに不可解だ。


「マガト様、リントヴェルム様。改めましてリゼットと申します。このたびは合コンに参加されるということで少々お時間をいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「構わない」

「ありがとうございます。それでは早速ですがお二人の好みの女性像をお聞かせください!」

「……こ、好み?」


 リゼットの勢いに押されてマガトがたじろいだ。


「そうです! これは全員に聞いていますので詳しくお聞かせください!」

「リゼット、全員に聞いてまわっているの? 聞いても把握しきれないんじゃ……」

「いえ大丈夫です。しっかりと記録していますので!」


 リゼットは合コンを企画するだけに留まらずカップル成立も目論んでいた。どこのお見合いおばさんかという勢いだ。

 そういえば鍛冶職人のリナルトもリゼットに相談して恋人を作ることに成功していた。リゼットはどこまでも本気だった。


「マガト様は美人と可憐では、どちらがお好きですか?」

「どっちかといえば可憐だろうな」

「年下と年上では?」

「どっちでもいいぜ」

「積極的な女性をどう思いますか?」

「悪くはないが……」

「そうですか。では我が儘な女性は好きになれませんか?」

「我が儘の程度による」


 リゼットの質問がやけに具体的だ。マガトに薦めたい女性がいそうだ。


「貴族のお嬢様と聞いて思い浮かぶのは?」

「散財だ」


 マガトに貴族のお嬢様は無理だ。一言で終わっている。

 兵団では人気のお嬢様もマガトには厄介でしかないようだ。


「では小動物はお好きですか?」

「ああ。癒されるな」

「身長差は気になりませんか?」

「とくには。ただあまり小さいと抱き潰す危険がある」

「……それが本望という女性がいたら?」

「それはどういう意味だ」


 リゼットがマガトに薦める女性を変えてきた。あまりに具体的すぎてマガトが怪訝そうな顔をしている。


「失礼しました。うっかり先走ってしまいました。それでは最後の質問です。マガト様は相手の女性に何を望みますか?」

「……そうだな。あえて望むとすれば俺に愛させて欲しいってことぐらいだな」


 マガトは自虐的な発言をした。過去に愛を受け取ってさえもらえなかったような言い方だった。

 マガトは十分素敵な男性だと思う。それが自信につながらないのは何かあったとしか思えなかった。


「マガト様に愛されたい女性はすぐに現れます。期待していてください!」

「どうだろうな」


 意気込んで言うリゼットに対してマガトの返事はどこまで冷静だ。


「次はリントヴェルム様ですが、マガト様にお伝えすればよろしいですね?」

「ああ。俺がリントヴェルムに聞こう」

「では。具体的に理想の女性像があるか聞いてください」

「リントヴェルム。どういう女がいい?」


 マガトが簡潔にリントヴェルムに言った。これでリゼットの求める答えが得られるか疑問だ。


『ドラゴンに怯えない女性がいい』

「そんなことはわかっている。もっと具体的に言え」

『む。例えるならイアルのように無垢で──』

「俺に理解できるように例えろ!」


 リントヴェルムが抽象的な女性像を言い募ろうとするのをマガトが遮った。喧嘩になりそうな雰囲気になっている。奏は口を挟むべきか迷った。


『美醜に拘りはない』

「どんな不美人でもいいって?」

『女性はすべて美しい』

「お前! 女なら何でもいいのか!?」


 女性に対してある意味失礼な物言いにマガトが切れ気味になっていた。

 リントヴェルムはドラゴンだからなのか人間の容姿に対して拘りがなかった。

 それにしてはシェリルに見惚れていた気がしたが、本当に性別が女性なら誰でも構わないのだろうか。


「リントヴェルムに好みを聞くだけ無駄じゃない?」

「そんな気がしてきたぜ」

『何がそんなに問題だ……』


 リントヴェルムは何もわかっていなかった。リントヴェルムはきっとフィーリングで選ぶタイプなのだろうと奏は結論づけた。


「わかりました。リントヴェルム様には体当り方式がいいでしょう!」

「あ、うん。そんな感じで」

「そうだな。それでいいと思うぜ」


 リゼットの意見に反対の声は上がらなかった。

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