第136話
昨日の脱線の教訓からかリントヴェルムの元には宰相も来ていた。朝から胡散臭い笑みを浮かべている。今日は波乱の一日になりそうだ。
奏はスリーに荷物よろしく運ばれてぐったりしていた。
『カナデ。大丈夫か?』
そんな奏をリントヴェルムが心配してくれる。その優しさにほろりと涙が出そうだ。
今日の味方はリントヴェルムだけになりそうだ。
しかしリントヴェルムが味方でいてくれた時間はほんの僅かだけだった。視線がスリーを射抜いている。物言いたげだ。
「リントヴェルム、どうしたの?」
『そこの男からカナデの匂いがする』
「うっ」
一晩中スリーに巻きつかれていたせいで匂いが移っていた。奏は恥ずかしい指摘をされて顔を引きつらせた。
『カナデの相手か。そんな危険な男が好みなのか?』
「危険って何が?」
『殺気を放っている。私を害する気か』
だからいっわんこっちゃない、と奏は頭を抱えた。敵意を向けられたリントヴェルムの機嫌がどんどん悪くなっていく。
「王様! スリーさんが殺気を放っているって!」
「スリー! 抑えろ!」
「……了解」
スリーが渋々とゼクスに従う。スリーが暴走しそうになったらゼクスを頼ろう。
「失礼した。機嫌を直してくれないか」
『カナデを守ろうとしたのだろう』
「まったく。昨日と同じ轍を踏むとは。スリーはしばらく離れていろ!」
スリーを連れてきたのは大きな間違いだったとゼクスは悟ったようだ。
「先が思いやられる」
『今日はやめておくか?』
「いや悪いがそういうわけにはいかない。そろそろ騎士達も限界だろう。リントヴェルム、力を緩められないか?」
『済まないがそれは難しい。ここは危険だ。特に今はゼクス王がいる。付け入る隙を与えるわけにはいかない』
リントヴェルムは周辺諸国を牽制していた。セイナディカが戦争を仕掛けられていない理由はリントヴェルムが力を使っていてくれるお陰だ。
セイナディカを守るようなことは何もしていないといっていたが十分守っていてくれた。
「昨日あらかたの質問は終わった。残るは使者についてだが」
『使者か。最近もこの辺りをうろついている。捕まえられれば話が早い』
「頻繁に現れるのか?」
『そうだ。いつの間にかいる。不思議な男だ』
「使者は花嫁を送るという以外に何か言っていたか?」
『言ってはいたが、私には理解できなかった』
使者は神出鬼没だという。一体何者だというのか。
「リントヴェルムと意思疎通ができているな。異世界人か?」
『そう思ったが、それにしては異質だ。ドラゴンの血が流れている』
「なるほどセイナディカの使者と思われるわけだ」
ドラゴンの血を持つものはセイナディカの民だ。リントヴェルムがドラゴンの血を感じ取ったというなら間違いはない。
『すまない。使者についてはあまり情報がない』
「いやいい。存在が確認されればこちらで探そう」
結局、使者についは謎が深まるばかりだった。