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第130話

 リントヴェルムの声はゼクスには聞こえていなかったが、奏とリントヴェルムの会話のやり取りで薄々ではあるが状況を理解しているようだった。


「生け贄ではなく花嫁とは……」

「はっきり言われたわけじゃないけど、やっぱりシェリルを花嫁にしたいみたいなんだよね」

「カナデも花嫁だろう。断ればどうにかなる問題か?」


 リントヴェルムはあっさり奏を花嫁にすることを諦めた。良識があるからというわけではなさそうだが、単に好みの問題かもしれない。しきりにシェリルの美しさを称えていた。それもうウットリとした声で。


「シェリルが美人だから一目惚れでもしたんじゃないかな。断るのは難しいかも……」


 諦めてはくれなさそうだ。シェリルは完全にロックオンされている。人外生物にまで見初められるなんて美人は大変だ。


「それでは生け贄とかわらない」

「そうなんだよね。〈ドラゴンの花嫁〉みたいに上手くはいかないよ」


 〈ドラゴンの花嫁〉のように花嫁がいて大円団になればいいが、現実はドラゴンにささげる花嫁がいない。花嫁が存在しなければ、ドラゴンにささげるのは、ただの生け贄だ。

 そもそも物語では花嫁は喜んでドラゴンに嫁いでいる。ゼクスと結婚を約束しているシェリルが花嫁になれるわけがないのだ。


「私が花嫁という名の生け贄で落ち着くしかないのかな……」

「それは考えるな。まずはドラゴンを説得できる材料がないか頭を使え」

「材料って言われても何も思いつかないよ」


 リントヴェルムがどうすれば納得してくれるのか。どこかにドラゴンの花嫁になってもいいっていう人いないかな、と奏は現実逃避した。


「ドラゴンは花嫁の条件をどういっていた?」

「あ、それね。どうも召喚で力を得た女性ってことらしいよ」

「……なるほどそういうことか。やはり召喚は生け贄を呼ぶためのもので間違いないな」

「だよねぇ」


 召喚で花嫁となる人間を作り変えてしまっている。ドラゴンの花嫁に必要な力を召喚によって与えているのだ。花嫁の意思など関係ない。

 「花嫁」という綺麗な言葉で誤魔化しているだけで、はっきりいって花嫁は生け贄だ。

 ドラゴンの側からすれば、自分の力によって傷つくことのない花嫁が誕生して万々歳だろうが、勝手に花嫁にされてしまった人間はたまったものではない。

 シェリルはそんな力に振り回されて、ただ生活するだけでも人の手を借りなければいけない。

 ドラゴンの花嫁にならなければ、この先もひたすら苦労をするだけだ。逃げ道を塞がれている。


「いっそうのことシェリルに断らせてみる?」

「それでどうなる。簡単には諦めはしないだろう」

「良心に訴えかけるのはどうかな。王様と引き離されたらシェリルが命を絶つかも的な感じで」

「良心があればいいが」

「あるかなぁ」


 リントヴェルムは話が通じないという感じではないが、二人の花嫁に断られたら失恋の痛手で暴れるかも知れない。


「カナデ様は生け贄に乗り気ではなかったですか?」


 ゼクスと二人で意見がまとまらず唸っていると宰相が口を挟んできた。


「宰相さんの意見としては私を候補にしたいということかな」

「いえいえ。そんなことは思っていませんよ。純粋に疑問に思ったものですから」

「生け贄ならいいけど。花嫁はちょっと……」

「花嫁なら死ぬことはありませんよ」

「好きな人がいるのに別の人の花嫁は嫌だよ。死んだほうがいい」


 スリーという恋人がいなければ、ドラゴンの花嫁になってもかまわなかった。殺されることがないのだからドラゴンの花嫁になることを考えただろう。

 けれど、奏はスリーを選んでしまった。そして、ゼクスという恋人がいるシェリルも同じだろう。

 だから解決策を模索している。


「私の意見ですが、良心に訴えかけることは悪い作戦ではないと思いますよ」

「そうかな」

「それだけでは弱いとは思いますが」

「何か考えがあるの?」

「ただで花嫁を得ようとするなど片腹いたいので脅しましょうか」

「はい?」


 奏は「ドラゴンを脅す」と強気発言をする宰相の顔をポカンと見つめる。いったいどういう思考をしているのか。一国の宰相ともなると腹黒さが半端ない。


「わが国はドラゴンによって甚大な被害を被っています。損害賠償の請求をしましょうか。その上で、なお花嫁を欲しがるようなら狩ってしまいましょう」


 ドラゴンに損害賠償。思ってもみない発想だった。


「そんな話が通じるとは思えないが」


 ゼクスが渋い顔をする。そんなゼクスを宰相がにこやかに説得する。


「こう考えてはどうでしょうか。ドラゴンは何故わざわざ弱い人間を花嫁に仕立て上げるのか。それは他に花嫁となるドラゴンがいないからだと考えられます。ある意味弱みですね」

「それで?」

「貴重な花嫁を傷つけることは本位ではないでしょう。たとえそれが身体でなくとも。無理やりが好みという性格でしたら、私たちはとっくに死んでいますよ。だから脅せます」


 花嫁が他にいないことを逆手に取る。リントヴェルムの性格すら考慮に入れて、宰相は断言した。

 しかし、ゼクスはすぐに答えを出さず、リントヴェルムと直接会話をした奏に、成功の可能性を確実にする答えを求める。


「カナデはどう感じた?」

「口調は尊大だったけど悪いドラゴンには思えなかったよ」


 奏がリントヴェルムに感じた印象は決して悪いものではなかった。二人の花嫁を前に浮かれている感じは可愛いとすら感じた。

 個人的な意見としては、お互いが納得するような終着点を見つけ出したい。


「それならばもう少し詳しい話を聞いてみてはどうでしょうか。使者という人物についても気になりますからね」

「そうだな。どうもきな臭い。聞いておいて損はないだろう。そこから打開策が見つかるかも知れない」


 リントヴェルムの背後に見え隠れする使者。話し合いをするなら情報は引き出すべきだ。


「それとシェリル様にも意見を聞いておきたいのですが」

「シェリルのか?」

「当事者ですから」


 ゼクスはシェリルに意見を聞くことを渋っていた。シェリルが黙っていることも非常に気になる。とんでもないことをいいそうな予感がする。


「シェリルはどう思った?」

「……花嫁になってもいいわ」

「駄目だ!」


 シェリルが考えそうなことだ。奏はシェリルを召喚した黒幕を呪った。八方塞がりでシェリルが自ら志願しないわけがない。


「シェリルの意見は却下するから王様は落ち着いてね」

「でも!」

「はいそこ! 意見は却下! シェリルはちょっと黙っていてね」


 強引にシェリルを黙らせる。建設的な意見しか認めない。


「宰相さんの作戦を決行ってことで!」

「ドラゴンを脅すのは初めてですからねぇ。失敗しないようにしなければ」

「頼りにしているからね」

「善処しましょう」


 こうして作戦は決行されることになった。行き当たりばったり感はいなめないが何とかなると信じるだけだ。

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