第13話
「それでは、私はここで見学させてもらいます。頑張ってください。カナデ様」
「行ってくるね!」
奏は、リゼットに着替えさせられた真新しい騎士服に気分が高揚していた。
白を基調にした騎士服は、当然動きやすさを考えた作りをしていて、とてもしっくりくる。
ただ、女性騎士が着るということを想定しているせいか、意外に可愛らしい感じのデザインだ。
今朝リゼットに進められたドレスと比べると、比べものにならないほどシンプルであった。
女性用なのにスカートじゃないのがいい。基本的には男性の騎士服と全体的なデザインは変わらないようで、フレイの服装ともよく似ていた。
「フレイさん? よろしくお願いします」
「フレイでいい。こちらこそよろしく。カナデ様?」
「……奏でいいから」
「カナデね。分かった」
奏は眉を顰めた。
フレイは感じが悪い。様をつけて呼ばれたのに、すごく馬鹿にされた感じがする。
フレイはまだ今朝のことで怒りを解いていないようだ。
「初日だからな。加減はしてやる」
簡単な柔軟から始めることになった。
「身体が固すぎる。よくそれで訓練に混ざるなんていえたな」
「ううっ」
背後から背中を強引に押され、奏は呻いた。弱っていた身体で運動などできるはずもない。固くて当然だろう。
グイグイと押してくるフレイに抵抗を感じつつも、奏は黙々と身体を動かす。慣れないことに四苦八苦しながら、どうにかフレイについていく。
「剣は使ったことは、……あるわけないか」
基礎的なことを終えると、フレイはしばらく考え込んでいるようだったが、訓練用の木剣を手にすると言った。
「聞くだけ無駄だ」とでも言いたげな口調に奏はカチンとくる。最初から友好的とは言い難い態度だったが、それでもフレイはきちんと指導をしてくれるから我慢していた。
しかし、こう何度も何度も気分の悪くなるようなことを言われると、我慢するのも限界だ。
「フレイは根に持つタイプなの!?」
「なにを言っている?」
「怒っているでしょ!」
「今朝のことか?」
「そう!」
しれっと言うフレイに奏は憤慨する。終わったことをネチネチと嫌な奴だ。
「今朝のことなら、もう怒っていない」
「じゃあ、どうして機嫌が悪いの!」
「機嫌? 機嫌なら悪くない」
「嫌味ばかりいうのは怒っているからでしょ!」
「この程度が嫌味か?」
「受け取る側に問題がある」と言わんばかりだ。
「性格悪いって言われるでしょ!」
「言われたことないな」
「嘘!」
「優しいと評判だ」
ああ言えばこう言う。ふざけているとしか思えない。フレイの冷静すぎる態度に更に怒りが増す。
奏は一人ヒートアップしていた。フレイが笑いたいのを我慢していることなど、冷静さの欠けた奏には見抜けるはずもなく、半泣きで喚き散らす。
「もういい! フレイになんか教わらない!」
「おい。泣くほどか……」
半泣き状態の奏に、流石にやり過ぎたか、とフレイは動揺する。今にも団長に抗議に向かいそうな様子に慌てて引き留める。
「悪かった! もう怒らせるようなことは言わない」
「信じられない。性格はすぐに変わらないでしょ!」
「普段は違う」
「じゃあ、どうして?」
「……今朝のことは本当に怒っていない」
突然、歯切れの悪くなったフレイ。理由があるのならそれを知りたい。
奏の荒ぶっていた感情が徐々に収まってくる。
「怒ってないなら何?」
「機嫌が悪いように感じたなら、たぶん緊張していたからだ」
「え? 緊張していたの?」
「召喚された*****様だろう。自覚ないのか?」
奏は目を見張る。最初からわりと普通に接していたのに、緊張していたなんて驚きだ。
「まあ、多少は意趣返しをしてやろうと思ったけどな」
「!」
悪びれた風もなく言ってのけるフレイ。奏の目が吊り上がる。
「やっぱり性格悪い!」
「あーはははっ!」
フレイはついに我慢できずに爆笑した。