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第110話

 あっさりとした挨拶を済ませたアリアスが退場した後、しばらくしてから訓練場に集まっていた騎士達は解散した。

 騎士達の士気を高めるために集めたようだが、果たしてあれで良かったのか。

 最終的には、アリアスの一言のせいでグダグダ感が半端ない。


 それでも一応は、新たな将軍も決まったので良しとするしかない。騎士達もアリアスの将軍就任を喜んでいることは間違いないのだから。


 奏は、騎士達が去っても迫力がありすぎた、スリーとアリアスの戦いの余韻に浸っていた。

 心臓がバクバクして落ち着かないくなるほど、英雄とされているスリーが本気で戦う姿に、ウットリと見惚れてしまった。


 しかし、スリーがアリアスに敗北して意気消沈しているように見えて、なかなか声をかけられずにいた。


「お、お疲れさま」

「どうしたの? 腰が引けているよ」


 どう声をかけるべきかと悩んでいたせいか、少し挙動不審になっていたようで、スリーに突っこまれる。


「えっと、迫力が凄くて驚いた、というか」

「ああ。本気で挑んだけれど、アリアス様は強かったよ」


 戦い方を知らない奏だったが、アリアスの強さが普通でないことはわかった。

 騎士団から離れてさえ、その強さに陰りが見えない。料理人にあるまじき強さに奏は疑問を持った。


「アリアスはドーピングしているの?」

「ドーピング?」

「興奮剤みたいなものを飲んでいるのかなって」

「……それはないよ。近いことはしているようだけどね」


 奏の疑惑にスリーは一瞬険しい顔をしたものの、心当たりがあるようだ。


「アリアス様はメイエリング前将軍と定期的に戦っているらしいね。訓練はしていないけれど、強いわけだよ」

「そんなに凄い人なの?」

「歴代将軍の中でも最強と言われているね。俺も何度か手合わせしているけれど、まともに勝てたためしがないよ」


 スリーが勝てない相手に、アリアスはかなりの勝率で勝てているらしい。

 勝負の頻度は不明だが、決して少なくはないだろう。


「実践訓練みたいな感じかなぁ」

「そうだね。メイエリング前将軍命とは命がけの勝負になるから」


 アリアスの強さの源が、命がけの勝負というのなら、ドーピング疑惑もあながち間違いでもなさそうだ。

 常に危険を伴っている騎士と違って、料理人では常に強さを意識することが難しい。

 あえて過酷な戦いに身を置くことによって、弱くなってしまわないように、アリアスは自らを追い込んでいるのだ。


「アリアスって、何気に勤勉だよね」


 アリアスはカリスマ性以前に努力家であった。行動がぶれることもなく、一貫した姿勢に自信が漲っている。

 そして、恐ろしく強い。

 そんな人材が目の前にいたら将軍に推すことは必然だ。


「でも、将軍って柄じゃないと思うけど」

「そう?」

「うん。騎士団の人達が苦労しそう」


 騎士団は必ずアリアスに振り回される。そんな予感がする。


「アリアス様はいい将軍になるよ」

「早速引退宣言していたけどね」


 心底嫌がっていたアリアスを思い出して、奏は忍び笑いを漏らした。あの引退宣言は絶対に本気だ。


「宰相が辞めさせてはくれないだろうね」

「そうだよね。あ、そういえば宰相さんの名前は、ヴァレンテさんっていうんだね」


 初めて宰相の名前を聞いた。アリアスが連呼していたので、何となく覚えてしまった。

 あまり接点のない宰相だったが、名前を知ったことで少しだけ親しみを感じられた。

 ただ、だまし討ちのような挨拶を強要された記憶が新しく、あまり近づきたいとは思えなかった。

 宰相の黒い笑みもバッチリ目撃している。はっきり言って腹黒い。親しくなるのは危険すぎる。


「カナデ様なら名前を呼んで頂いても構いませんよ」


 ゼクスと会話をしていた宰相が、奏達の会話を聞きつけてやってきた。


「そういうわけにもいかないかな」

「ヴァレンテでもヴァルでも、好きなように呼んで頂いていいのですよ」


 にっこりと微笑む宰相に奏はたじろいだ。言われるままに名前を呼んだら、いいように扱われそうで怖い。


「え、遠慮しようかなぁ」

「残念ですが、無理強いは致しませんよ。ところで、明日の遠征ですが、護衛の希望はありますか?」

「え? スリーさんが護衛じゃないの?」


 驚いてスリーを見るが、特に反応はない。宰相から話は通っていたということだろう。


「基本的にはそうですが、移動はシェリル様と一緒ですから、護衛人数を増やします」


 初遠征となる奏とシェリルは馬車での移動となる。騎士団のように馬で駆けることが出来ないからだ。

 ドラゴンのいる国境付近の未開の森までは遠い。

 途中で宿に泊まれる間はいいが、そこから先となると害獣や野党が増えていき危険が増す。

 今はまだ静観している近隣国も場合によっては動かないとも限らない。

 非戦闘員である奏とシェリルの二人を一度に守るには、人数が多いに越したことはないということだった。


「う~ん。希望っていってもジーンさんくらいしか思い浮かばない」

「兵団の方ですね」

「うん。でもシェリルがいるから無理じゃない?」


 男嫌いのシェリルは、比較的見た目が温和そうな宰相にさえ近づかない。騎士達にも怯えている始末だ。

 そんなシェリルが、ジーンを筆頭に、筋骨隆々で粗野な彼らを見たら卒倒するのでないか、と危惧する。


「そうですねぇ。シェリル様はどなたにでも同じ反応でしょうから、ここはカナデ様の意見でいきましょう」


 確かにシェリルの男嫌いを気にしていたら護衛など、とてもつけられないことはわかるが、宰相は容赦なさすぎないだろうか。

 奏としては、気心の知れたジーンや兵団が護衛になってくれるなら、道中も不安が少なくて助かるが、シェリルの気持ちを思うと、簡単に賛成するわけにもいかなかった。


「小さくて細い感じの護衛とかいないよね」

「そんな護衛ではカナデ様にも瞬殺されかねませんね」


 もっともな意見だ。奏に瞬殺されるレベルでは、もはや護衛とはいえない。


「慣れてもらうほかないかな」

「癒しを投入する予定なので心配は無用ですよ」

「癒し?」

「明日のお楽しみです」


 宰相もシェリルだけに心労を与えるつもりはないようだ。宰相は微妙に信用できないが、悪いようにはならない気がした。

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