第10話
騒ぎも一段落して遅い朝食兼昼食を食べた後、奏たちは場所を移してゼクスの部屋へ集まっていた。
「迷惑をおかけしまして……」
「俺も配慮が足りなかった」
「カナデ様は悪くありませんよ。ただし、お怪我などされていたら私は泣きましたから」
奏とゼクスは互いに非を認めて言葉をかけあったが、リゼットの言葉を聞いて固まる。
奏は調子に乗ってしまった自分を心の中で罵倒する。
「さすがリゼット、カナデの弱点をいとも簡単に……」
「なにか言いましたか? ゼクス様?」
「いや、気のせいだ」
奏はそんな二人の会話にさえ気づく様子もなく項垂れている。
「ゼクス様のせいで」
「全面的に俺が悪かった」
すっかり元気がなくなってしまった奏。リゼットの怒りはゼクスに向かったが、ゼクスはこじれる前に全面降伏を決めた。
気まずい雰囲気を払拭するようにゴホンと咳払いしてから、ゼクスは先程の騎士とのやり取りを思い出して奏に聞く。
「ところで、本当に騎士団へ入りたいのか?」
「騎士団に入りたいわけじゃなくて、騎士の訓練に混ざりたいだけだよ」
「だから師匠になって欲しかったのに」と奏は未練がましく言い募る。
「スリーは強いが、指導者向きではないと思うぞ」
「でも、彼がいい」
「無理を言うな。しばらくは任務でそれどころではない」
本人からも「任務があるから」と断られている。説得を試みて詰め寄ると少し困ったように、もう一人の騎士を勧められたが、奏は諦めきれずにいた。
確かにもう一人の騎士も強いのかもしれない。実際にバルコニーから飛んでみせたその身体能力には驚いたものだが、どうしてか別の騎士に師事しようと思えなかった。
それで苦肉の策として、騎士団の訓練に混ぜてもらえないかと考えたのだ。
「訓練に混ざるのは、やっぱり邪魔なのかな」
無理を言っているのは分かっている。奏はゼクスの顔色を窺う。ゼクスの許可がなければどうすることもできないからだ。
「まあ、カナデなら邪魔ということにはならないはずだが……」
「一度、見学されたらどうです?」
歯切れの悪いゼクスにリゼットがそう提案する。
「ああ、それがいいか。騎士団長には話をつけておくから、見学してきたらどうだ?」
「王様は?」
「急ぎの案件があるようだ……」
実は少し前から、もの言いたげにゼクスに視線を向ける人物がいた。無言のプレッシャーにさすがのゼクスも無視できないのだろう。苦笑しながら奏に同行できないことを詫びる。
「リゼットも一緒だから平気だよ」
「そうだな。だが、あまり無茶はするな」
ゼクスが心配そうな顔をするが、奏はヒラヒラと手をふり平気なことをアピールする。
「私がお止めしますから」
「「ははは……」」
リゼットの宣言に、奏とゼクスは引き攣った笑いで答えた。