第1話
最初は風邪を引いたとか、頭が痛いとか、そんな小さな症状だった。それが段々とひどくなり、気がつけばベッドから起き上がれなくなっていた。
体調不良はいつものこと。小さい頃から虚弱体質で、季節の変わり目には必ずといっていいほど風邪を引くのは当たり前で、そんな慣れからか自分の身体がどれほど弱いのか忘れてしまっていた。
酷く眩暈がする。こんな状態になってようやく、天崎奏は自分の認識の甘さを痛感した。
両親が事故で他界した後、奏はあまり他人を頼ることをしなくなった。
両親の知人には「一人で頑張り過ぎないように、何かあれば頼って欲しい」と言われていたが、仕事で迷惑をかけている自覚があり、なおさら頼ることをしなかった。
長引く体調不良に病院へ行くことを勧められて渋々行けば、とても珍しく治療が難しい病気と診断されてしまった。
「治る見込みは薄い」と言われてしまえば、仕方ないかな、とそう思うだけだった。
そして誰にも相談出来ずに現在後悔する羽目になっている。
昨日はまだ起き上がれた。言い訳するわけではなかったが、一晩すれば体調不良も良くなるだろうと楽観的に構えていた。
もちろん薬は処方されたが、どうせ気休めにしか過ぎない薬だからと飲まずにいた。
とても寒くて苦しい。色々な感覚が遠くに感じる。
「助けて、神様……」
もう自力で起き上がって助けを呼ぶことはできそうにない。
囁きのような言葉を誰が拾ってくれるわけでもない。
それでも死ぬかもしれない不安から何かに縋りついてしまったのは、死から逃れようとする本能かも知れない。
「苦しい時の神頼み」とはよく言ったものだ。
だから、本当に助けを求めたわけではないのに、口から勝手に零れていた。
返ってくる言葉はない。
奏は離れていく意識を保つことを諦めた。