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これは占いですか?

作者: 田中太郎

創作版深夜の真剣文字書き60分一本勝負に、後から参加して書いたものです。

(構成10分ほど、書いている時間60分くらい)

 就職活動をすると、ほとんどの誰もが経験するもの。それはお祈りである。

 今日も、藤林は、落とされたメールを確認する。

「末筆ながら、藤林様の今後一層のご活躍を心よりお祈り申し上げます」

「末筆になるますが、藤林様の今後の益々のご活躍を祈念いたしております」

 お祈りをするくらいなら、採用してくれ! とは思うものの、向こうも1人2人を、長い間共に仕事をしていく者として選ぶのだから、悩んだ結果なのだと思うと、文句も言いづらい。藤林は、これで10の事務所に落とされた。このまま内定をもらえなければ、内定無しのまま12月へ突入する。藤林は、パソコンをシャットダウンして、コートを着て外へ出た。

 11月に入ったばかりとはいえ、もう冬は目の前に迫っており、しかも雨があがったばかりで、外はかなり冷えている。もちろん家の中も冷えているし、藤林は暖房をつけない主義だったから、そこまで寒さが変わるということでもなかった。でも、寒いのは嫌いだった。お祈りメールは冬の寒さに追い打ちをかけるように、心に冷たい風を吹きつける。

 あてどなく歩いていると、路地裏に占い師がいた。就活がうまくいっていないような気がするので、一つ占ってもらおう、そう思って近づいていった。

 占い師というのは、どうやら老婆のようで、怪しげな衣装を着て、怪しげなネックレスをつけ、顔を隠すようにフードを被っている。路地裏は少し暗かったが、そのフードの下から、よぼよぼの顔が少しだけ見えた。老婆は小さな机を前にして、小さな椅子に座っていたが、その近くに1回3000円と書かれた札が貼られていた。なんだか高いような気もするが、ええい、どうにでもなれと、その怪しいオーラをまとった老婆の前に立つと、その老婆が藤林に声をかけた。

「お兄さん、今日はどうなさったんですか?」

 かなりしわがれた声であったので、藤林は怖くなってくると同時に、この方の占いは当たるのではないかと思い始めた。

「いえ、就活でうまくいってないもので、今後どうしたらよいものかと思って」

「では、何を占いますか。就活のことですか」

藤林は、ここで悩んだ。就活のことでもよいが、将来のことを占ってもらった方がよいのではないか。将来には、就活の結果も含まれているはずである。多少占いの結果が簡単なものになるとしても、その方がいろいろ聞きだせるかもしれない。

「いえ、やはり将来のこと全般を占ってもらおうかと」

「分かりました」

 老婆は、何やらカードを取り出すと、適当に並べて自らカードをめくっていった。そのカードに書かれていたのは、タロットカードのものではなかった。

「お兄さん、占いの結果が出ましたよ。お兄さんは、そうとう素晴らしい才能を持っていらっしゃる。それを見極められれば、就活も仕事も恋愛事もうまくいくこと間違いなしです。そして、その才能に気づくことができる時期がもうすぐそこまで来ている。今の就活がきっかけになるかどうかまでは分かりません。しかし、かなり近い時期に、ご自身の才能に気づくことができる機会があると思います。私が言えるのはここまでです。後はご自身でその機会をつかむことが必要です。お兄さんがその素晴らしい才能にお気づきになられることをお祈りしています」

 老婆は、そういうと、3000円ですと言って手を差し出した。藤林は、これだけかと思いながらも財布から3000円を取り出して、老婆に手渡した。


 藤林は、家に帰る途中、あのうさんくさい占いについて考えていた。もう少し具体的に教えてくれればリアリティがでるものを。藤林は、占いを基本的に信じてはいなかったが、いい結果が出たときだけは、信じることにしている。というのも、そこでいい結果が出ると、今後の自分の人生に希望が持てるからだ。だから最近は、落ち込んだときや勝負どころなのに決心できないときに、基本的にいい結果が出やすい占いサイトなどを使って、占いをすることが多かった。

 今回の占いはうさんくさいが、何か自分に素晴らしい才能があるというのは魅力的な結果である。そもそも突き進むしかない状況なのだ。あの占い師が。そういうことを自信をもって言うならば、それを理由に突き進むしかない。藤林は、また、暗闇の中にもう一歩足を踏み出すことを決めたのだった。

「今度こそうまくいきますように!」

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