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過疎萎え短編シリーズ

過疎ゲーが現実化して萎えてます。 クリスマス特別短編

作者: ペリ一

こちらは「過疎ゲーが現実化して萎えてます。」https://ncode.syosetu.com/n5169el/の本編をある程度お読み頂いた方のみ楽しめる短編となっておりますので、もし本編をお読みでない方は読んでからの閲覧を推奨します。








タカ:ようお前ら。クリスマスだな


ほっぴー:喧嘩売ってんのか?


タカ:被害妄想が過ぎる


タカ:てかお前にはケンタウロスアマゾネスがいるだろうが。いちゃつけよ


ほっぴー:いちゃつくってどうやんだよ。どう足掻いても毛づくろいにしかならんわボケ


ガッテン:お?クリスマスなんかやんの?


タカ:当たり前だろ




タカ:カーリアちゃんのミニスカサンタ衣装、見たくない?


ほっぴー:は?神


スペルマン:機材の調整してくる


七色の悪魔:動画の編集間に合いますか?手伝いますよ


鳩貴族:全裸待機します


ジーク:祭りと聞いて


ガッテン:クリスマス最高


お代官:急にわらわらと湧きすぎじゃないかね君ら


紅羽:あー、あたしは家族とクリスマスパーティーやっから手伝えないぞ


タカ:それはしょうがねぇよ


ジーク:クリスマスの正当な過ごし方


Mortal:いいなぁ


タカ:あ?パーティーはパーティーでやるぞ


Mortal:そうなの?


砂漠の女王:何やら素敵な催しのようですが


砂漠の女王:お代官様


お代官:む?


砂漠の女王:ミニスカサンタとは


お代官:うぅむ


スペルマン:えっちな格好だよ


ほっぴー:もうちょっとオブラートに包めねぇのか


砂漠の女王:わたくしも着ます


ジーク:草


お代官:う、ぐ……


ジーク:ん?


ガッテン:どうしました


ほっぴー:え、何


お代官:み……



お代官:見たい……


タカ:草


ほっぴー:草


ジーク:なんだよ……結構言えんじゃねぇか……!


お代官:ゲーム時代はなかったクリスマスバージョン砂漠の女王……見たいと思う私を誰が責められようか


お代官:三次元のヤンデレは恐ろしいが、それはそれとして砂漠の女王というキャラを愛しているのも事実


砂漠の女王:おっ、結婚ですか?


お代官:いや違うが


お代官:ミニスカサンタ姿は見たいという話だ


ほっぴー:おっ、結婚ですか?で草


ジーク:おかわりする?ぐらいのノリで求婚するな


砂漠の女王:まぁ滅多にないお代官様からのご要望……完璧にこなしてみせましょう


スペルマン:えー、2着もあったかな


砂漠の女王:一着はあるのですね?


スペルマン:あるけど、流石にカーリアちゃん優先させてね?


砂漠の女王:いえ、見せて頂ければ作れますので


砂漠の女王:領域の一部機能が停止しますが、特に支障はありませんわよね?


タカ:えっ


紅羽:やめろ


ガッテン:やめて


お代官:具体的にはどの機能が停止するのかね?


ガッテン:お代官さん!?


お代官:参考までに!参考までにきいただけだ!


砂漠の女王:建物などの修復機能です


お代官:ふむ


砂漠の女王:少しの間であればまり関係ないでしょう?


お代官:そうだな


ガッテン:お代官さん……?


タカ:俺んとこのドアたてつけ悪いからそこだけ直してからにしてくんね?


砂漠の女王:タカさんの部屋は元から機能を停止してますので……


タカ:なんで!?


ジーク:草


砂漠の女王:だってすぐ壊すじゃないですか


タカ:壊してんのは俺じゃねぇ!!!!!!


砂漠の女王:そうなのですか?


タカ:おう


タカ:あ、いや待って


タカ:反射で言っちゃったけどだいたい俺だわ


ガッテン:おい


ジーク:あのさぁ……


ほっぴー:うーん、これは残当!


ジーク:え?ザントマン?


タカ:ちゃんとピースマークつけろよな


紅羽:じゃあドア壊しに行くんでよろしく


タカ:おい待て


タカ:俺じゃねぇジークだ


ジーク:俺じゃなくてほっぴーな


ほっぴー:は?おい


ガッテン:責任のバケツリレーすんな


紅羽:あ、準備手伝わなきゃいけないからちと離席すっぞ


タカ:りょ


スペルマン:じゃあ俺らも準備やっちゃおう


ほっぴー:どこ集合?


タカ:とりま俺の部屋で


ほっぴー:りょ


スペルマン:りょ


ジーク:やる事ねぇし俺も行っていい?


タカ:おう。来い来い






「さて、と」


 掲示板魔法を閉じ、バンシーのお腹枕から起き上がる。


「カーリアちゃんにアポとんねぇとな」


 首をコキコキと鳴らしながら考えを巡らせる。

 ……まぁとりあえずあいつら待ちだな。


 俺はもう一度バンシーのお腹を枕にし寝転がった。







 数分ほど経っただろうか。ドアがガチャンと勢い良く開け放たれる。

 そういう事するからたてつけ悪くなるんじゃんね。やっぱ俺悪くないよな?

 そのドアを乱暴に開けた当人であるほっぴーに少し抗議の意を込めた視線を送る。


「タカ。寝てる場合じゃねぇぞ。急いで準備しねぇと間に合わん」


 なんとなく伝わったみたいだがスルーされた。クソが。


「あいよ」


 起き上がり、ほっぴーに連れられるまま廊下に出る。


 廊下には機材を床に並べたスペルマンとそれをしげしげと眺めるジークがいた。


「あ、タカ氏~」


「おう。ジークお前……寝癖なんとかなんねぇのか」


「え?別に良くね?」


 お前が良いなら良いけどよ……てか隈もすげぇなオイ。


「ほっぴー氏、カメラの調整バッチリだよ」


「お、じゃあカーリアちゃんにアポ取りに行くか……くぅ、編集が間に合うか……?」


「間に合わなくないか?明日にしようぜ」


 俺の提案にほっぴーの表情が歪む。


「ぐ、ぅう……一応クリスマスプレゼントって事にしてぇんだよ」


「じゃーさー」


 間の抜けた声を出したジークに視線が集まる。

 ジークは俺達三人の目線に少し居心地を悪そうにしつつも言った。


「生放送でいんじゃね?」


「……やるじゃねぇかお前。その手があったか」


 えっ。放送事故とか大丈夫なんですか……?









 生放送をやる事になった。

 そうと決まればまた話は違ってくる。


「スタッフが要る。七色の悪魔さんを呼んで来い!」


「俺の部屋で待機してるから呼んでくるよ~」


 わちゃわちゃと人が歩きまわる。

 なおジークはソファでぐったりしている。お前何もしてねぇだろ。


「タカぁ!ジークに咎めるような視線送ってる暇があったらてめぇも働けぇ!」


「うーっす。カーリアちゃんにアポ取るわ」


「生放送の構想は練っとく!……いや待て一人で練ると危険だから手の空いてそうなのついでに呼んでこい!」


「分かった」


 俺の速さの見せ所だな。

 廊下を全力疾走で駆け出した俺は途中でお代官さんに見つかり普通に怒られた。







「呼んできたぞ!」


「あ、あの……ミニスカサンタって……?」


 もこもこのパジャマ姿のまま連れ出されたカーリアちゃんが慌しい現場を見ておろおろする。


「後で説明するっての!……おいほっぴー!」


「うっせぇな聞こえてるよ!ちょっと待て!」


 そう叫んだほっぴーの横ではお代官さんがほっぴーの書いたらしい構想のメモを食い入るように見ている。


「ほっぴー君!流石に初っ端に生着替えはまずいんじゃないかね!?」


「じゃあ代替案出してくれよお代官さん!」


「む、普通にミニスカサンタ姿で登場ではダメなのかね!?」


「それでも盛り上がりはするだろうけど……ロケットスタート決めてぇだろ!?」


「だがあまり飛ばし過ぎると引かれかねないという問題がだな――」



 う、うむ。どうも修羅場らしい。


「カーリアちゃん」


「な、なんでしょうか」


「サンタとか、クリスマスとか分かる?」


「そのような祭りごとがある、ぐらいの情報は得ていますが……具体的な部分はさっぱりです」


 なるほど。こりゃ説明しといたほうが良いな。


「クリスマスってのは……まぁ普通に美味いもん食って賑やかにやる感じの祭りだな。他と違うのはな……プレゼントだ」


「プレゼント?」


「ああ。クリスマスの夜には良い子のとこにサンタクロースってのがやってきて素敵な贈り物をくれるのさ」


「それは、なんとも……素敵な話ですね」


「ああ。そしてカーリアちゃんにはサンタになって貰う」


「え?」


 カーリアちゃんが目を丸くする。


「いやいや、私は異世界出身ですから。というかサンタとはなると言ってなれるものなのですか?」


「なれる。職業とか称号みてぇなもんだからな。とっておきのクリスマスプレゼントを配ってやるんだ。カーリアちゃん」


「え、ええ……私みたいな初心者がなっても他のサンタさんは怒らないものなんでしょうか……?」


 可愛いなオイ。

 じゃなくて。そうか、こっちの事情はよく分からねぇもんな。そういう考えに至るのも無理はないか。


「人の善意の擬人化みてぇなものだから大丈夫だ」


「す、すごいですね……そのような立派な人物が……」


 うん。

 

 ひとまずカーリアちゃんの説得に成功した俺はほっぴーの元へと駆け寄る。


「おいほっぴー。説得終わった」


「やるじゃん人の悪意の擬人化」


「ぶっ殺すぞ」


 なんで俺がサンタと対を成さないといけないんだ。


「で、そっちはどうなんだ」


「あぁ?構想か?終わるわきゃねぇだろ。てかアレだな」


 ほっぴーがチラリとお代官さんの方を見る。

 お代官さんが頷き、ほっぴーもそれに応じて頷いてから、俺の方へ向き直った。


「カーリアちゃん単体でもたせるのはちと冗長だ。アルザでもなんでも構わんから呼んでこい」


「何をやるつもりなんだお前」


「……聖夜の人魔対談さ。てか司会役も要るな。誰かアテをつけてくれ」


 えぇ……








「え?僕?」


「頼むぜアルザ」


 アルザが露骨に嫌そうな顔になる。


「いや僕はバリバリの魔王軍側だからね?人間に媚を売る気にはなれないよ」


「魔王軍と同盟組んだっつーアピールにもなるだろうがよ」


「だいいち僕は男だし」


「そこが良いんだろうがよ」


「え?」


 え?

 あ、いやこれは俺の意見ではなくだな。


「こっちの人間はそういう生き物だ」


「そうなの?」


「おう。頼む」


「……はぁああ……ついに僕もカーリア堕ちか」


 カーリア堕ちってなんだよ。興奮する字面だな。


「じゃあさっさと済まそうか。どこに行けばいいのさ」


「中央の広間で」


「はいはい」


 よしまずは一人。

 ……他に誰かいるか?









「はぁ!?なんで俺……うわっふ!尻尾を触るなよ!」


 モータルの魔物であるライカンスロープだ。ケモナー需要が高い。


「わ、分かったからそれ以上尻尾を触るな」


「出来れば人間形態じゃなく獣形態の方でよろしく」


「えっ……大丈夫か?それ」


「大丈夫だ」


 むしろそっちじゃないと炎上する。


「大丈夫ならいいけどよ……」


 よし。一人いけたな。

 そう長い放送でもないし出演はこのくらいでいいだろ。

 次は司会役だな。


 俺が駆け出そうとする、その直前。

 人狼が俺に向かって言った。


「あ、モータルが後でお前に来て欲しいつってたぞ」


「了解!」


 何の用だ?……まぁ今はそれどころじゃないか。









「え?我輩?」


「おう。身なりもそれっぽくて良い。やれ」


「いやまぁ拒否権はないですし良いですけど……」


「はい決定ぃーーーー!俺の仕事終わりーーーーー!!!!!」


 俺はガッツポーズを決めると、おっさんの肩をぐっと押す。


「さぁ広間へレッツゴー!」


「我輩だけすごく雑な扱いされてるような……」


 当たり前じゃん?








 再び広間に戻る。

 現場はいよいよ慌しさが本格的になり、ほっぴーとお代官さんは構想を終えたのか各員に指示をとばしている。


「おい!ほっぴー!司会役だ!」


「おぉ、ナイスチョイスだ!いじりやすい!」


「え?」


 その言葉を聞いたおっさんが顔色を変えたが、すぐさま確保され打ち合わせに引きずり込まれた。


 ……よし、次はモータルに会わないとな。








「モータル!ここに居るって聞いたが!」


「ん?あー、タカ」


 ドアを開けると、モータル……それに加え東京で出会った親子の二人がいた。


「えーっと……」


「ははは、久しぶりだねタカ君。江藤だ。覚えてるかい?」


 名前はちょっと自信が無かった。

 俺は曖昧な笑みを浮かべ江藤さんに会釈をすると、部屋に入った。

 もう一人の方の少女はモータルよりも奥の方に座り、何やら手紙を見てブツブツ呟いている。


「モータル。俺に話があるって言ったよな」


「うん。子供にプレゼントを配るんだけどさ、手伝って欲しくて」


 なんだそんな事か。


「余裕だ。任せとけ」


「ほんと?助かる。じゃあこれ」


 十個ほどの白い袋が俺の前に置かれる。


「……お、おう」


「名前ちゃんと書いてるから。寝てる間にその子の枕元に置いてあげてね」


「え」


 マジ?そういう渡し方?


「さて、タカ君。私達は既に子供の名前と部屋の位置を把握しているが……君はどうかな?」


「さっぱりです」


「ははは、そりゃそうか。では下見と行こうか……モータル君、案内してあげなさい」


 一瞬立ち上がりかけた江藤さんだったが、自分よりもモータルに案内される方が気まずくないと判断したのか、再び腰をおろした。

 普通に有能だよなこの人……なんとか領域運営の仕事を割り振れないもんかね……


「タカ、行こう」


「ん、了解」








 カツカツと廊下を歩く音がこだまする。


「さっきのがタカヒロ君の部屋だよ、覚えた?」


「あー、覚えた覚えた。メモも取った」


「よし、じゃあ次は……あー、これは分かるかも」


 分かるかも?どういう事だ?


「次はシャノンだよ。タカが異世界から拾ってきた」


「お、そうか」


 そりゃ楽しみだな。


 そんな事を考えながら歩いてると、目的の部屋から小さな影が飛び出してきた。


「うおっ!?シャノン!?」


「あっ!タカ!聞いてくれよ!皆おかしいんだ!」


 あぁ?どうしたんだよ?


「タカからも言ってやってよ!サンタってヤツが領域の警備を突破して俺らの寝室までやってくるなんてありえないよな!?」


 あっ……


「いや、それは、うぅむ……」


「ありえるよ」


 俺が言葉に困っているとモータルがシャノンの肩をがっしり掴み宣言した。


「サンタは最強なんだ」


「……」


 お、納得したか?

 そう思い俺も声をかけてやろうとしたその時――


「う、うわぁああああああ!!!! りょ、領域の皆は俺が守るんだッ!」


 そう叫び脱兎の如く駆け出して言った。


 ……おいおい。


「どうすんだモータル」


「うーん。まぁ子供は眠気に勝てないし、プレゼントを貰えばそんなのどうでも良くなるよ」


「そ、そうか?」


 大丈夫?いけるの?


「大丈夫」


 ま、まぁそう断言されると信じざるを得ないが……


「じゃあ気を取り直して次の部屋の確認ね」


 俺は一抹の不安を感じつつもずんずんと進んでいくモータルについていった。









 疲れた。

 ようやく部屋の確認を終えた俺は、広間に戻りソファに腰掛けた。


「よう暇そうだな。会場設営手伝えよ」


「ほ、ほっぴーてめぇ……力仕事はガッテンにやらせろよ」


「既にやらせてる」


 そうか。ならしょうがねぇな。


「はぁ、どれだ。どれ運べばいい」


「よし、ついてこい」


 この後数十分ぐらいほっぴーの指示で色々運ばされた。






「おいそろそろ本番始めるからなぁ!準備しとけよてめぇらァ!」


「「「「「うす!!!!」」」」」


 各方面からスタッフ達の熱い声が響く。


「聖夜というかセイヤッって感じですね」


「鳩貴族さん!?」


 ピチッと七三分けをキメた鳩貴族さんがニッと笑う。


「いやぁ、構想会議はなかなかの地獄でしたよ」


「お疲れ様です」


「まぁ大変なのは今からですがね。コーナーコールの際に字幕も入れますから」


「さ、さいですか……」


 鳩貴族さんはその口ぶりとは裏腹に生き生きとした足取りで去っていった。

 し、仕事人だ……



「はい本番まで五秒前ェ!よーん!さーん!にーい!いーち!……開始ッ!」


 そんなこんなで生放送が始まる。


 まず司会であるおっさんがカメラの前でぺこりと一礼。


「ええ、皆様。ながらくお待たせ致しました。司会の蝙蝠屋敷の主でございます。我輩が長時間この画面を独占するのも何ですので、さっそく今日のメインメンバーに入ってきていただきましょう。こちらの皆様です!」


 パッと照明が切り替わり、扉の前を照らす。

 すげぇなオイ。この短時間でこれか。


「入ッ!場ッ!」


 スタッフ達が一斉に拍手を始める。

 あ、マジ?俺もか。

 慌てて俺も拍手をしつつ扉の方を見守る。


 ほどなくして、バン!と扉が開け放たれる。


「……え?マジ?」


 最初に出てきたのは、砂漠の女王。

 その長い黒髪をはらりと舞わせ、フッと微笑む。無論、その視線の先に居るのはお代官さんだ。


「おぉおおおおおおーーーーーー!!!!」


 うわめっちゃテンション上がってる。

 まぁそうか。サービス終了したはずのゲームの推しキャラの特別衣装に出会えたんだもんな。そら興奮するわ。


 しかしまぁ見事である。

 砂漠の女王はミニスカではなく、膝まであるぴっちり目のスカートを履いていた。

 むやみやたらと出すのではなくラインを強調し魅せるとはな。

 全体的に見れば胸元と肩以外は露出の少ない格調高いサンタコスになっている。

 それは砂漠の女王の容姿の高貴さと見事にマッチしており、ヒールを履いているのもあってか思わず「女王様ーッ!」と叫びそうになるぐらいには似合っていた。いやまぁ事実、女王なんだけども。


 というか複製じゃなくて一から作ってんじゃねぇか。

 機能停止するわりには服の複製しかできないってどうなの?って怪しんではいたけど案の定かよ。


 そうやって俺が突っ込みを入れているうちに、白いヒゲをつけて恥ずかしげに人狼が入場し、アルザがにっこりと営業スマイルを浮かべながら入場してきていた。


 うむ。まぁこの二人はこんなもんか。

 いや、まぁ十分可愛いんだがいかんせん格好が普段と同じ……というか人狼に至ってはズボンを履いてるだけだ。


 そしてこの辺りで会場に少しの静寂が訪れる。


 ……そうだな。大トリが残ってる。



 照明すらも興奮してるような、そんな錯覚を覚えだした、その頃。


 その天使は照れたような笑いを浮かべながら入場してきた。


「絶対領域……ッ!」


 砂漠の女王の領域に匹敵するその絶大なHネルギーえねるぎー

 まさに王道、いや覇道をいくミニスカサンタコスをしたカーリアが、そこに立っていた。


「「「「「「「ぉおぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」」


 地響きと錯覚するほどの歓声。

 それに対しカーリアは小さく手を振り、入場者の席へと歩いていく。


 素晴らしい。

 ぴっちりタイツに乗っかった少量の贅肉が最高だ。来世はアレになりたい。


 着席時、ぷるんと揺れたバレーボールを恥ずかしげに手で押さえるカーリア。

 今の映像で寿命が十年は延びた。



 そうやって全員が着席したのを確認した後、おっさんが進行を始めた――








 さて、俺は俺で仕事があるからな。

 名残惜しさを感じつつスタジオ……じゃねぇわ、広間を去る。

 なんかアーカイブ残るらしいしそっちでチェックだな。


 そう、時刻は既に午後9時。良い子は寝る時間だ。


 つまりは……


「サンタの時間だぜ」


 モータル達と合流し軽く手をあげ挨拶し合う。


「俺の配る分は?」


「これ。よろしく」


「おう、任せとけ」


 十個ほどの白い袋を背負う。


 さぁてと、どいつから配るかな。









 三十分ほど経っただろうか。

 一つを除きプレゼントを配り終えた俺は、その最後の仕事に片をつけるため、その子の部屋の前に向かった。


「……よう紅羽。シャノンはどうしたよ」


 シャノンは孤児のため、紅羽の両親と同じ部屋にいる。

 部屋の扉の前で俺を待っていたらしい紅羽の表情は優れない。


「正面から入るのはやめとけ」


「何でだ」


「トラップを張ってる」


「子供の罠になんぞかからん」


「ジーク監修のそこそこ強力なやつだ」


「あいつマジで今度丸焼きにしていいぞ」


「言われなくてもそうする」


 そうか。

 しかし参ったな。正面が無理となりゃ、アレしかない。


「窓から入れってか?」


 ラフ・メイカーかよ。


「ケイドロんときにやったろ。頑張れ」


 あん時は袋なんぞ背負ってなかったっつーの……











「お、おぉ……ッ」


 キ、キツい!めっちゃキツい!


 ふざけんじゃねぇ、皆カーリアちゃんの可愛い生放送を見てるっつーのに俺はなんでこんな野性味溢れたSASUKEをやらされてんだよ……!


「ぐ、ぉお……よし……!」


 窓枠掴んだ!

 侵入じゃぁあああああ!



 窓をガラガラと開け、しゅたっと侵入する。

 そして短剣を構えたガキとばっちり目が合った。


 ……


 …………


「え、タカ……?」


「…………ほう、この身体の持ち主はタカというのか」


 俺は無理やり誤魔化そうとして変な事を口走った。


「え?は?……どういう事?タカだよね?」


「ああ、その通りだ。だが今はこの我……サンタがタカとやらを借りている状態だ」


「な、なんだよソレ……ふざけんな!タカを返せ!」


 キッとシャノンが短剣を構え直し俺を睨む。


「ククク……おかしいとは思わなかったのか。一人で全世界にプレゼントを配るなぞ不可能。我ら憑依型サンタのアシスト含めてのサンタよ」


「なんて卑劣な……ッ」


 いやプレゼント配ってんだから卑劣とかなくない?

 まぁいいや。ボロを出す前にさっさと渡してしまおう。


「では受け取ってもらおうか。プレゼントを」


「受け取らないぞ!対価として寿命を取る気だろう!だから子供ばかり狙う!そうだろう!?」


「え、いや違うけど……」


「え!?」


 こっちがびっくりだよ。それサンタじゃなくて普通に悪魔だろ。


「何か勘違いをしているようだな、勇敢なる少年。我は人の善意の結晶が生み出した精霊のようなものだ」


「……そうなの?」


「そうだ」


 ようやく短剣の構えを解いたシャノンの前に、白い袋を置く。


「受け取れ」


「……ほんとに寿命取らない?」


「取らない……ああだがそれは我の正体をバラさないなら、という注釈付きでの話だがな」


 そう言ってニッコリと微笑む。


「ひっ」


 おいガチなビビり方やめろ。


「わ、分かった」


「ふむ。では、メリークリスマス」


「め、メリークリスマス」


 俺は来た時と同じように苦悶の呻きを漏らしながら窓から帰った。









「よう、お疲れ」


 壁をつたい元の場所へ戻ってくると、紅羽がマグカップを持って待っていた。


「ほい、コーヒー。ちと冷めちまったけど」


「おおマジか。サンキュー」


 マグカップを受け取り、ゴクリと一口飲む。


「うむ、うまい」


 いい感じに冷めているのも高ポイントだ。


「そりゃ良かった。プレゼントは渡したか?」


「ったりめーよ」


 そこから俺がいかにうまくやったかを語ってやろうとした。

 だが紅羽の視線の先が俺からズレているのを見て、語りをやめ、その視線の先を見た。


「……あ?フケか?」


「雪だアホ」


 紅羽から軽くチョップを食らう。

 雪か。

 ……はぁ!?雪!?


 ちょうどその時、砂漠の女王からアナウンスが入る。


『えぇー、緊急連絡ですわ。わたくしが一部機能を停止させた弊害か、領域外の天候がこちらにまで反映されてしまいました。すぐに復旧いたしますので……え?そのままで良いのですか?……お代官様がそう言うのであれば……』


 そこでアナウンスが途切れる。


「……粋なことしやがるな」


「砂漠に雪が降ったとこなんてあたしらしか見た事ないかもよ?」


「だなぁ」


 ズズッとコーヒーをすすりながら、その奇妙で、綺麗な光景に見入る。


「善行も積んだし、明日の寝覚めは最高だろうな」


「お前、いっつも起きるの昼間だろ」


 俺は黙って肩をすくめた。


 そりゃカーリアちゃんの放送のアーカイブ何周かすっからな。昼間まで寝ないと寝不足になっちまう。

 ……ああいや、待てよ。


「早起きして見るってのも良いか」


「珍しいな」


「まぁたまにはな。いやー、健康になっちまうなぁ」


「一回やっただけでなるわけねぇだろ」


 わはは。俺は中身が空になったマグカップを紅羽に返すと、自分の部屋へと戻っていく。



 こうして俺達の聖夜は、降りしきる雪と共に幕を閉じた。

 




メリークリスマス!

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― 新着の感想 ―
人の悪意の擬人化なだけあって幼気な子供を騙すのはお手のもの
[良い点] いつも通り馬鹿やって騒いでるだけなのにいい話で終わる不思議
[一言] 何もかもが面白い おっさん強く生きて....
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