温泉
杉山健二は電車に揺られていた
温泉を掘るという考えについて
やっぱり現実的ではないか
と考えた
でも西谷がもっと栄えればいいな
そんなことを考えながら
ふと隣を見ると
そこには
水戸黄門の様な格好をした老人がいた
健二は何度も瞬きをした
自分はまだ夢を見ているのであろうか
老人はひらひらの服を着た美しい女性としゃべっていた
「わしは去年の正月も石和温泉に行ったんじゃ」
「私、石和温泉は初めてです」
と女性は言った
「安心してくれ、いい宿をとってある」
と老人は言った
「それは楽しみです」
と女性は言った
「わしの教団が掘ったんじゃ」
と老人
「神様の教団が」
女性がびっくりして聞いた
健二はびっくりした
神様とは聞き間違えではないのか
「入るとお金持ちになるんじゃ」
と老人は言った
「楽しみです」
と女性
「さっき相正悟から連絡があった。杉山彩と一緒にくるそうじゃ」
老人は言った
健二は本当にびっくりした
聞き間違えではない
健二は老人に話しかけた
「神様なんですか」
老人は健二を見て
「そうじゃ」
と答えた
「うちの娘のことをご存じで」
と健二は言った
「あやさんのお父さんですか」
女性が聞いた
「あやの父、杉山健二です」
「そうでしたか」
と神様
「あやさんをありがとう」
と神様
「何言ってるんですか」
清水はげんこつで神様の頭を叩いた
「事情が分からないのですが」
と健二は言った
「分からずともよい」
と神様
「おいお前たち」
と神様は周囲に呼び掛けた
「お父さんを西谷の駅まで送って差し上げろ」
「私は大丈夫です」
と健二は言った
その時、電車のドアが開いた
周囲の男たちは健二を無理やり電車から下した
「何をするんだ」
と健二は叫んだ
「お父さん、あやさんは私が責任をもって家まで届けます」
清水が言った
「放してくれ」
と健二は叫んだ
「だめだ来い」
男たちは、健二を持ち上げ連れ去った
健二は頭はいいが度胸も力もない男であった
それゆえただおびえながら
男たちに運ばれていくに任せた
男たちは健二を運んで駅の改札を出た
駅の外では黒い車が彼らを待っていた
男たちは健二を車の中に放り込んだ
「あとは任せた」
と言って男たちは去った
車の中には痩せたメガネをかけた男がいた
「うまくいったね、連中、俺たちが信者だと勘違いしてくれたみたいだ」
と運転席の太った男が言った
「ここから出してくれ」
と健二は言った
痩せた男は何も言わずに健二にスタンガンを押し当てた
健二は意識を失った




