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目と目で通じ合っちゃう?

 まことが裾か何かに躓いて、転びかけたところを礼人が抱き止める形になる。ひゅう、と口笛風の擬音をなごみが言うと、まことは一気に真っ赤になる。なごみの口笛風擬音に「吹けないならやるな」と麻衣が扇子でびしりと突っ込みを入れる。晴れ着も扇子も初めてのはずだが、麻衣はやたら扇子使いが上手く、叩かれたなごみがすごく痛そうに頭を抱えていた。

「ぱしゃっ」

 場違いなまでに明るい声。それを上げたのは……

「何やってるんですか? 華さん」

 両手の人差し指と親指でフレームを作ってぱしゃぱしゃ言っているのは華だった。とても嫌な予感がするのだが。

「やっぱり美男美女は絵になるねぇ」

「発言がおっさんですよ」

「せめておばさんにしてくれないかね礼人くん」

 中空に一枚の写真が生まれ、写真は重力に逆らわずに落ちていく……と思いきや、華がすんなりキャッチしていた。

「写真……」

「特大スクープには持ってこいでしょ。クリスマス号外の『阿蘇礼人、奇跡の帰還』の熱がまだ冷め止まぬ今、『阿蘇礼人、長谷川まこととの恋愛の行方は!?』っていうネタは」

「新聞部に華さんが洗脳されている」

「にしても絵になるわー」

「薬合タイプ、火炎」

「ちょっと!? まことちゃん!? 落ち着いて」

 屋内で薬合タイプの火炎攻撃を繰り出そうとしたまことにさすがに一同慌てる。優子がウンディーネを出す事態に。

 華が冷や汗を掻きながらも、写真を死守する。

「全く。長谷川ちゃんったら。何もないところで何故こけるかね」

「そ、それは足がつっかえて……」

「礼人くんにナイスキャッチされてなかったら、今頃晴れ着が台無しだよ」

 言われて、礼人は腕の中に収まっているまことに目をやる。短い髪には紅梅の簪。しゃらんとした飾りがついている。ピンクベースのそれは白い梅が咲いていて、川の流れのようなものがある。確かに、これが崩れてしまうのは忍びない。

「怪我はないか?」

 礼人が聞くと、まことは目を伏せる。礼人が顔を覗き込むと、まことは見ないで、と顔を手で覆う。

 思いがけず拒絶されたので、挙動不審になる礼人。それを見て、優子がくすくす笑っていた。

「ふふふ、礼人くんに女心はまだ早いわね」

「何言ってるんですか?」

「相変わらずの激鈍で」

 鈍いと言われて、またもやもやとする礼人。女心とは一体。

 混乱の極みの中、あたふたとしながら、礼人は一言言う。

「あ、えっと、可愛いな、その晴れ着」

 すると、まことが肩をびくんと跳ねさせ、顔を覆った指の合間から目を覗かせる。上目遣いに、礼人の後方で一人の結城がキュン死したが、誰も目もくれない。いや、麻衣の扇子がすぱぁんといい音を立てて結城の目を潰していた。近くにいたなごみがその精度に戦慄する。

 それはさておき。

「……ほんと?」

 まことが礼人を見上げて問う。礼人が微笑んで、ああ、と頷く。

 今度は咲人が口笛を吹いた。その横で優子が優雅に笑っている。

 人見が控えめに女子たちの後ろで笑う。察したのだ。この二人が生み出す自然な空気感というのは邪魔できない。

「全く、いいコンビねぇ」

 華は呟きながら手近にいた人見の頭をぽんぽんと撫でる。撫でられた人見が驚き、華を見上げるが、華は何も言わない。

 ところで、となごみが首を傾げる。

「華さんコーディネートみたいですけど、よくもまあ、こんなに色々……どうやったんです?」

 そう、麻衣、優子、代永(男)、眞鍋、人見、まこと、と六人にそれぞれここまで似合う晴れ着。似合うのもそうだが、サイズが合っているのがとても不思議である。そう都合よく揃えられるものだろうか。

 すると、華がにやりと得意げに笑った。

「もちろん、技能を使ったのよ」

 なんと。新年早々才能の無駄遣いその二である。

「絵を描くでしょ? 絵も文字みたいなもの。っていうか、文字の原形は絵なんだから、具現化できない方がおかしいんだよ」

 これを聞いたら世の中の想像タイプの顎が落ちることだろう。言われてしまえばそれまでなのだが。

「あとは誰々のサイズに合わせてとか書けばざっとこんなもんよ」

「すげぇ」

「華さん、将来デザイナーか何かになったらいいんじゃないですか?」

 礼人が指摘すると、それが難しいのよねー、と華は悩ましげに眉をひそめた。

「そもそも、私が表に出ること自体が、今、難しいのよ。黄泉から帰ってきたとはいえ、行方不明だった年数的に考えると、私死んだ扱いになってるし。零ねぇはなんとかしてみせるって言ってるけど、本来死者の世界から生還するなんてこと、あっちゃいけないからね。これで悪巧みする人とか出たら嫌だし」

「いや、そもそも黄泉から生きて帰ってくる方がおかしいんですよ」

「礼人くん、一回自分の顔見ようか」

 人の振り見て我が振り直せとはよく言うものだ。礼人も黄泉からの生還者である。色々条件はあったが。

 礼人も華も、神が依代にしていたからこそ、黄泉で生き延びられたと考えられる。あとは神が誰を選ぶかが問題だろう。……岸和田の件はあるが。

「とりあえず、華さんが新聞部に引き抜かれなくてよかったねぇ」

「おかげで眼福だぜ」

 なごみの言葉に相槌を打った結城は、本日二度目となる扇子での目潰しに遭う。誰も同情しない。何故ならこれがデフォルトだから。

 華が口元に指を当てて首を傾げる。

「んー、でもまあ、新聞部の子たちから声をかけられなかったわけではないし、新聞部には協力するつもりだよ?」

「それが今回のスクープ写真、と」

「違うってば。技能面の話」

 忘れかけていたが、華の技能である想像タイプは新聞部に集うタイプ技能だ。ただ、華ほどの実力者はいないだろう。神の依代と張り合える実力者がいたら、その方が驚きだが。

 想像タイプは通常、文字や言葉などを具現化する能力だ。華などのようになんでも自由自在に具現化できる者は少ない。技能を使うには、何かを書く紙やペンが必要になってくる。それを実戦の中で持ち歩きながら戦うのは難しいだろう。口にした言葉を具現化するのもかなり難しい方法なのだ。

 そうなると、想像タイプの中で、華はかなり高度な技能者ということになる。礼人がいくつもの黄泉路を閉じたとはいえ、黄泉という世界がなくなったわけではないし、幽霊という概念が消えることはないから、妖魔は発生し続けていくことだろう。

 そんな中で求められていくのはやはり、タイプ技能を育成する人材だ。華はとても真っ当とは言えない人生を歩んでいる以上、それ以外の道を探すのは困難だと思われる。一応、今はこの学園の三年生という扱いになっているが、来年は留年するかもしれないし、もしくは聖浄学園お抱えの教師になるかもしれない。

 ……と、真面目にシリアスなことを考えているのは、礼人くらいなもので。

「よぉし、女の子たちがせっかく晴れ着なんだし、今日は元旦なんだから、写真を撮らないわけにはいかないよね」

「おっ、さすがなごみ、わかってるじゃねぇか。記念撮影だ。家宝にするぜ」

「じゃあ、結城先輩は生涯定禅寺先輩に目潰しされ続けるんですね」

「咲人ひどくねぇか」

「一生ってことは、結婚するんですか? おめでとうございます」

「そこ拾うのか長谷川よ」

 ……などと、和気藹々とした様子で、今日も文芸部は通常運転である。

「告白されない限り、私からは何もしないわよ」

「ということはされたら何かするんですね。では、結城先輩どうぞ」

「新年早々無茶ぶりやめろ」

 顔を真っ赤にする結城、無邪気に笑うまこと。つーんとした様子の麻衣。

「恋愛は複雑怪奇だねぇ」

 咲人が感嘆する中、礼人も悪のりして、優子に歩み寄る。

「優子さんは何かないんすか? 主に代永先輩に」

 するとわかりやすく赤くなる優子。

「わた、私は代永くんのこと、なんとも思ってないんですからね」

「え、そうなの」

 衝撃に目を見開くのは完全に女形の代永。優子がしどろもどろとそういうことじゃなくてと言い訳をするのが面白い。一つ突っ込むとすれば、いつの間に禍ツ姫は帰ったのか。

 自然とそれぞれのコンビが立ち並び、写真撮影になる。華は写真に入らなかった。私は新参者だから、と言っていたが、それは言い訳だったように思う。

「はい、チーズ。ぱしゃっ」

 また、技能により一枚の写真が生まれるが、そこで礼人とまことが同時に反応した。

 二人は目を合わせて頷き合うと、部室を飛び出した。しばらく何もわからなかった一同に情報がもたらされたのは、人見のこぼした一言からだった。

「妖魔が出た」

「あー、なるほど」

 一同、納得。と同時に、なごみがくすりと笑った。

「目と目で通じ合っちゃって」

 そうして、新年も幕を開けた。



お正月編終了。

次回から物語は終盤に向かいます。

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